La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Oud Ispahan (2012)

立ち上がり:ローズの香りと共にかなり強烈なウードの匂い。目が覚めますなあ
昼:少し落ち着いてきました。スパイシーな感じが出てきます。
15時位:今日は昼過ぎから暑くなってきて13時くらいに熱中症注意報が出ましたがまだまだ香っています。ローズの香りは残ってますが甘さはかなり抑えられてます
夕方:最後の方はウッディな感じになってきました。立秋過ぎのこの季節、夕暮れ時にあう感じです。
ポラロイドに映ったのは:いつも通り品の無い書き方をしようとしたが、香りの高貴な感じに気後れしてついついまともな事しか書けない自分
 
Tanu’s Tip :
 
LPTは、昨今メインストリームブランド、メゾンフレグランスブランドいづれも、レギュラーラインと並行し、大幅に価格帯をあげたプレステージ版のコレクションを次々導入する事に関して、その努力はこれまで販売してきた一般市場品では続けることが困難だから別ラインにするのか、それでは現在一般流通品として販売している香水はなんなのか、少々滑稽な商流として俯瞰した視点で見ています。その企業努力の果は、広く一般の方にも享受してもらうべきで、香水に関しては価格・容量・販路、いずれも適正であって欲しいと願っています。そういうわけで、枚挙に暇のない高額な「コレクシオン版」に対し、それが良い香りなら何の意義もなく、高級ライン・一般ライン一様に隔てなく興味はあるものの、高級ライン=良い作品、という風潮には少々首をかしげるものがあります。
 
LPTが登場以来、全くの射程圏外だったもののひとつに、メゾンクリスチャンディオール(旧コレクシオン・プリヴェ)があります。プレステージラインの中では全国公式通販対応、近年手の届きやすい少量サイズ(40ml,税込12,420円)展開が始まり、比較的身近な存在ではあるものの、店舗は非常に限られ(ディオール パフューム&ビューティ表参道ブティックおよびギンザシックスのみ)、東京土産化しているのもつまらない話だな、と思っていたところ、ある日友人から「これが凄く好きなんだけど」と香水の名前すら聞かされず、突然寝首をかかれるように試香させてくれた彼女のパーススプレーが、戦前のヴァイブすら感じるほどクラシックであまりに美しい香りだったので、驚きの眼でこれは何かと聞いたところ、メゾンクリスチャンディオールのキュイール・カナージュでした。「高級ライン・一般ライン一様に隔てなく興味がある」と言っておきながら、敢えて見て見ぬふりをしていたのも事実で、キュイール・カナージュの一撃で己の来し方を猛省しました。
 
国内では既に終売し、現在では中東専売として継続しているキュイール・カナージュがどうしても欲しくなり、先般パリ出張したLPT弾丸特派員に依頼したところ、こちらも既に店頭では終売していたものの、バックヤード在庫あと2点という事で辛くも入手できたのですが、パリの老舗高級百貨店、ギャラリー・ラファイエットのディオールカウンターは、弾丸特派員の交渉能力の賜物ではありますが大層気前がよく、ボトル1本でミニボトルやらサンプルアトマイザーやら、盛大なおまけをつけてくれた中のひとつに、今回ご紹介するウード・イスパハンがありました。今回は「ラグジュアリー版夏のバラ色ジェントルマン」特集なので、キュイール・カナージュではなくウード・イスパハンをご紹介します。

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ウード・イスパハン EDP ミニボトル7.5ml
ファッション誌風に書くと「中世ペルシア王朝の首都、ダマスクローズの一種であるピンクのオールドローズ、そしてライチ・フランボワーズ・ローズ風味のクリームを挟んだパリ特産のマカロンの名として知られる『イスパハン』。ラデュレピエール・エルメ・パリのイスパハンは殊の外有名です。そのパリの薫り・イスパハンと根底に流れるオリエンタルな世界を、クリスチャン・ディオール専属調香師・フランソワ・デュマシーが香りで表現。花の華・ダマスクローズと東洋の華・ウードが融合、サンダルウッドやラブダナムが織り重なる、心奪われるモダン・オリエントの香り」…がつんとスモーキーでスパイシーなラブダナムが立ち上がり、控えめなウードと落ち着いたローズに樹脂系香料やサンダルウッドが下支えするウード・イスパハンは、ハードコアなウードファンをターゲットにしているわけではないので、甘さをチューンナップして女性らしく、ローズもジューシーで瑞々しい(≒若干水っぽい)のですが、ちょっと立ち上がりのラブダナムが盛りすぎで「香辛料ましましで本場っぽく仕上げたつもりが、土台の味が寝ぼけた」感があり、すきっ腹に嗅ぐと胃に沁みるし、後半は割とレジン系の甘さが前に出てきて少々暑苦しいので、せっかくのダマスクローズの爽やかさが相殺されてしまっている感があります。音楽で言うなら「楽器隊がヴォーカルの声量度外視で演奏しているバンドのライヴ」という感じです。同じフレンチシックとオリエントの融合として、手持ちの作品としては主題が近似値なシェイドゥナ(ピュアディスタンス、2016)を彷彿しますが、シェイドゥナが胸板がありながら一貫して乾いた香気を発する辛口オリエンタル&ウー度控えめ、ローズが主役ではない一方で、ウード・イスパハンはローズとウードがダブルキャスト、外野うるさめ中辛オリエンタルでしょうか。ディオール側としては「お菓子感も外せないし、あまりエッジを利かせても、なあ…」という所だったのではないかというさじ加減ですが、ジェントルマンがつけると甘さが前に出ず、しかも気後れするほど上品に香るとは何とも不公平な話です。ポラロイドにご自身が映る時は高評価の証のなので、男性に率先してお使いいただきたいウードローズとして評価する事にします。
 
ウー度 ★★★☆☆
 

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コレクシオンプリヴェ時代の代表作を集めたミニセット

さてこのウード・イスパハン、日本のファッション誌では先般モテ香水と紹介されていたと風の便りに聞きましたが、そういうアプローチはそろそろ卒業して欲しいと願います。美容ライターがフレグランスを紹介する際のイマジネーションとボキャブラリーの貧困ぶりには毎度辟易するものがありますが、じゃあこの香りをつけてどういう対象にモテるのか、何をもってモテると言うのか、男が寄ってくればモテると言うのか、それでは寄ってくる男はどういう男か、香りごときで自分の魅力がアップしてモテるほど伸び代があるのか、支持率№1のモテ香水、クロエとかチャンスは誰からも嫌われないからいい香りだけど、シャリマーNo.5はおばあちゃんの鏡台臭くて香害、みたいな思考回路の人たちが「モテ香水と書いてあったからウード・イスパハンでワンランク上の男をゲット♡」と買ったものの、さっぱり使いこなせなくてフリマアプリで売り飛ばす、それをモテるモテないより処方変更の方が大いに気がかりなマニアが喜んで買う、というのがオチではないか?と思います。ちょっと激辛な話をしましたが、所詮一般人のブログです、いいじゃないですか。ちなみにジェントルマンの好きな女性アーティストベスト3は①PJハーヴェイ②ジェニー・ベス(ザ・サヴェージズ)③キム・ゴードン(ソニックユース)、好きな花ベスト3は①マーガレット②チューリップ③ラフレシア、だそうです。

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ジェントルマンの好きな女性

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ジェントルマンの好きな花



 
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