La Parfumerie Tanu

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Jean Patou | the end of Jean Patou, a great perfumery

さて、シラデザンドが登場して5年後の2011年、ジャン・パトゥはP&GからSAデザイナーズ・パルファムズへ買収されます。この会社、2002年、インド系イギリス人のベンチャー起業家、ディレシュ・メータが起業した、基本的によそから大衆ブランドを買収しながら成長してきたライセンス会社で、もともとP&Gからオーシャン・ドリームやゴーストといった大衆ブランドを買収してきたつながりがあって、ジャン・パトゥとジャンパトウが持ってたラコステのライセンスを買収したP&Gにとって、たいして売れない金食い虫のジャン・パトゥをデザイナーズ・パルファムズに売り払い、使えるラコステだけ残したかったのが2011年の買収劇です。
 
パトゥ買収に合わせ、専属調香師もデュリエから5代目のトマス・フォンテーヌに交代します。フォンテーヌさん、この方は、2010年代から、精力的にゾンビ系ブランドの復刻を手掛けている独立系の調香師で、もともとP&Gの社内調香師だったんですが、数社渡って2009年に独立します。その後手掛けたリュバンの復刻が結構評価されて、ジャン・パトゥの専属になった後も、リュバンも継続、そしてルガリオンの復刻も手掛けます。ジャン・パトゥでのフォンテーヌさんの仕事は大きく分けて3つ。仕事その1、P&G時代に低下した原料の品質を、買収前のクオリティに戻す。まずP&G時代のパトゥ品はメイドインUKだったんですよ、イギリス生産。それを、フランス生産に戻し、原料も、もともとパトゥはローズとジャスミンの自社農園をグラースに所有していますが,その他自社調達できない香料をグラース産に戻しました。仕事その2、毎年2回、バラの時期とジャスミンの時期にグラースに出張して、その年収穫した香料の品質チェックを含む、徹底的な香料の品質管理。そして仕事その3、過去のアーカイブを復刻する。これを、デザイナーズ・パルファムズの上司と、部下1人、たった3人でやることになりました。責任重大。何をやっても文句は言われるけど、ほめてくれる人は誰もいない。そういうポジションです。
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ビフォーアフター。場内騒然でした
左は就任当時の公式写真、右は2016年当時のスナップです。ビフォーアフター。よほどのプレッシャーだったのか、数年でこんなに老けこんじゃいました。
ちなみにこの右の写真、2016年4月のウェブ版装苑から拝借したんですけど、なんと装苑が当時のジャン・パトゥのアトリエを訪問しているんですよ。既にブランドとしては空前の灯だった時期ですが、やってくれました!さすがは日本のハイファッションを牽引してきたモード誌だけあります。アーカイヴとしても非常に貴重な取材ですので、とくとご覧ください。上記で紹介した「たった一人の部下」も登場します。ありがとう装苑! 


16 Joy Forever (2013) EDP Thomas Fontaine
 
最後のムエット16番、ジョイ・フォーエバーです。新生ジャン・パトゥ第一弾として、ジョイの現代的解釈として誕生しました。香りの主軸はジョイと同じ、ローズとジャスミン。ジョイと同じ香料で、現代の嗜好にもマッチする、21世紀のジョイを作ったはずでしたが、昔のファンにも、若い人にも興味を持ってもらえませんでした。まず名前が悪い。新しい門出に、フォーエバーはダメだってば!別れのエピタフですよ、「ジョイ、フォーエバー」「喜びよ、永遠に」なんて、墓石に刻む言葉です。案の定、このジョイ・フォーエバーの後、新作を一つも出せず、過去のアーカイブの復刻シリーズ、コレクシオン・エリタージュを9作出して、パフューマリーとしてのジャン・パトゥは7年で消滅することになります。自分に引導を渡すために生まれてきた香り、ジョイ・フォーエバー。では香りも評価に値しないかというと、これが、驚くほどいい香りで、実は、恥ずかしながら、私は今回のキャバレー開催のために、デッドストックとなったジョイ・フォーエバーを買って、初めて嗅いだんですよ。驚くほど肩に力が入っていない、他を圧倒しない。けれど確かに美しい、大事に作られた、ものすごく良い香りのフローラルブーケで、香った瞬間浮かんだ言葉は「美しい私」。なんか、どんな女性でも、こういう香りがしたら、平等に美しく見えるんじゃないか。つけていて心地よいのは勿論ですが、品もよくて、個性的ではないけれど、タイムレスエレガンスとしては及第点を超えています。作者がトマス・フォンテーヌなので、この人の作風というか、ルガリオンとかリュバンのフローラル系復刻品にも通じるものがあります。今回キャバレーをやって、一番良かったのは、ジョイ・フォーエバーに、温かい言葉でお別れを言えた事ですね。

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ジョイ・フォーエヴァー EDP75ml 2013年にEDPが、続いてEDTが発売された
これで、今回キャバレーLPTに登場したすべての香りのご紹介が終わったので、おさらいとして、ジャン・ケルレオが手掛けたマ・コレクシオンと、トマス・フォンテーヌが手掛けたコレクシオン・エリタージュをもう一度振り返ってみたいと思います。

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マ・コレクシオン 当時品のボトルと共に
<マ・コレクシオン>1984年、パルファム30ml、EDT50mlスプレー、EDT75mlフラコン、EDT5mlx12種セットの発売
1)Amour Amour (1925) Henri Alméras
2)Que Sais-Je? (1925) Henri Alméras
3)Adieu Sagesse (1925) Henri Alméras
4)Chaldée (1927) Henri Alméras
5)Moment Suprême (1929) Henri Alméras
6)Cocktail (1930) Henri Alméras
7)Divine Folie (1933) Henri Alméras
8)Normandie (1935) Henri Alméras
9)Vacances (1936) Henri Alméras
10)Colony (1938) Henri Alméras
11)L'Heure Attendue (1946) Henri Alméras
12)Câline (1964) Henri Giboulet

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コレクシオン・エリタージュ 全9種
<コレクシオン・エリタージュ>2013~2014、3回に分けて発売
第1弾 シャルデ、オードパトゥ、パトゥプールオム (2013)
第2弾 トリロジー:ドゥザムール、クセジュ、アデューサジェス (2014)
第3弾 コロニー、ヴァカンス、ルール・アタンデュー (2014)
 
さて、安物ブランドばかり抱えていたデザイナーズ・パルファムズにとって、ジャン・パトゥ買収で、大御所演歌歌手を鳴り物入りで迎えた形になって会社の格が上がったと思いきや、P&G同様、格が違いすぎて手に負えなかったのか、パトゥ買収時はジャン・ルイ・シェレルや、ウォルトのような歴史のあるブランドを所有して、パリではジャン・パトゥのアトリエでオーダーメイドを香水を作ったり、同じアトリエでウォルトやジャン・ルイ・シェレルの香水も売っていましたが、売り上げが芳しくなかったのか、なかったに決まってますよね、2017年にはいり、抜本的な経営の構造改革に及びました。
まずは経営陣の一新。共同経営者としてデザイナーズ・パルファムズ創業時からの中核メンバーだったパラグ・ビドヤルシと、バークレー投資銀行出身でヘアケアブランドのコンサルタントだったアルケシュ・シャーをヘッドハントして連帯社長、つまり二人体制の社長にして、創業者のディレシュ・メータは会長に就任。共同経営者に就任した二人ともインド系イギリス人で、生え抜き経営者は、超名門パブリックスクール、ウエストミンスター・スクールからオックスフォード卒、コンサルの人はケンブリッジ大卒ですよ、どエリート!
そして実働部隊として、スペインの大手ライセンス会社、プッチが2015年、ラルチザンとペンハリガンを買収した際に活躍した、グローバル・コマーシャルディレクターのサンチャゴ・アルバレズが最高執行責任者(COO)に、コティやユニリーバで国際マーケティングを長くやっていたパスカル・フォンテーヌをヘッドハントして取締役に就任。それまでジャン・パトゥと二人三脚だった役員はクビになりました。
 
次は不回転ブランドの売却で、水面下でルイヴィトングループに打診をしていたデザイナーズ・パルファムズが、LVMH傘下のパルファン・クリスチャン・ディオールに、ジョイの商標権を移譲、つまりジョイの名前をディオールが自由に使って良しという契約をします。その後2018年に入りジャン・パトゥの株式の過半数を獲得、9月、LVMHに休眠中のファッション部門と合わせてジャン・パトゥの権利を売却しました。
 
それで、オープニングビデオのエンドロールにもあった通り、カルヴェンやニナリッチのテコ入れで名を上げたギョーム・アンリという41歳の売れっ子スタイリストを、今度はジャン・パトゥのアーティスティック・ディレクターに抜擢したんですが、ここでブランド名から「ジャン」が零れ落ち「パトゥ」として再生することになりました。しかもファッション部門だけですね。フレグランス部門は消滅です。LPTは、新生パトゥに「フレグランス部門はどうなるんですか」と再三問い合わせをしましたが、一切返事なし。相手にされません。LPTは、基本的に相手にしてくれない会社は評価しないので、新生パトゥも一切評価いたしません
 
LPTは、2010年のブログ開始から、継続してゾンビ系ブランドを紹介してきました。いかにして創業し、いかにして消滅し、蘇ったかを多角的に解説してきました。しかし、ジャン・パトゥのように、自分の目の前で一つの歴史を作ったブランドが消滅した、一つの終わりをつぶさに見たのは初めてで、かなりショックでした。こうやって消えたブランドが、21世紀のビジネストレンドのように、50年後、100年後、子孫が蘇らせるのか、未来永劫隠滅したままなのか、人生の半分以上終わった私には、蘇る瞬間を確認することは不可能です。今ここで、いくら消滅を嘆き叫ぼうと、所詮誰にも届かない虚無の声、Voice of Nothingですが、こうしてLPTのイベント記事として形にしておけば、自分があの世に行っても、もしかしたら誰かジャン・パトゥの一生に興味を持った方が見つけてくれて、何かの手掛かりにしてくれるかもしれない。そういうほんの少し、ほこりの一粒より小さな希望を持って、今回のキャバレーを終了いたします。長い間、お付き合いありがとうございました。
 
◎今回の連載記事でご紹介した時代の香りがダイジェストでお試しできるサンプラー(3点限り)を期間限定でご用意しています。他にも、実際にキャバレーLPT会場でお配りした、全32種のムエットを含む配布資料付きサンプラー(2点限り)もございます。是非LPT直結チャンネル、LPT directへ!
 


 

 

 
 
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