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Tour de Taiwan 1 : Kaohsiung | NoseWay flagship store & Meet a local LPT reader

さる2024年2月の3連休、訪台23年ぶりのジェントルマンを伴い、Team LPT国内全員不在状態で高雄と台北を訪問してまいりました。主な目的は、麻豆という台湾南部の町に住むタヌとハン1の従兄に会い、伯父が建立した廟・麻豆代天府とジェントルマン(=タヌにとっては配偶者)をつなぐ一大ミッションでしたが、フライトが高雄ー台北周遊となったため、昨夏台北で訪問した台湾最大のニッチフレグランス店、NoseWayの高雄フラッグシップ店を取材してきました。

NoseWay Kaohsiung Flagship store 

高雄に到着後、とりあえずホテルにチェックインしてから、漢神アリーナショッピングプラザ3FにあるNoseWayの旗艦店に向かいました。前回訪問時も「うちのメイン店は高雄なの。次は是非来てね!」と台北チームから激推しされた通り、規模としてもストア最大の99㎡、日本で言ったらノーズショップ麻布台店の30坪に相当する広さです。

NoseWay 高雄店。ちょっとしたコリドーを通って、半個室的な立地になっているため、デパートの一角にいながら独立した空間になっているのは高雄店だけ。左より、左から見た店内と右から見た店内。日本のデパートと違い、天井が高いのも寛げる。ちなみにマスクをしている女性が、今回会いに来てくれた地元のLPT読者、Nefertariさん。当然高雄店の常連で、久しぶりの来店だそうだが、店長さんがしっかり覚えていて話が盛り上がっていた。スタッフさんが覚えてくれているのは嬉しい

迎えてくれたのは、店長のショーンさんをはじめとする3名のスタッフ。アポイントを取る際「あいにく訪問日は英語を話すスタッフが出勤していないのですが、大丈夫ですか?」とお伝えいただいていましたが、いざ訪問するとブランド名や商品名は共通語なので無問題、そして突っ込んだ話は文明の利器・スマホ翻訳で体当たり説明。接客の勘所が凄くて、タヌの一挙手一投足を察してさっとムエットに香りを出してくれたり、何かわからない事は瞬時に3人で話して誰かがどうにかして伝えてくれるチームワークに感激。さすがフラッグシップ店だけあって、大事なのは言語じゃない。客と店の相互パッションだと、高雄店の激アツ接客魂に教えられました。

今回お会いした高雄店チーム。左からレオさん、メイヴィスさん、店長でタヌやハン1と同じお母様が日本(沖縄)の方で日台ハーフのショーンさん。BAさんは台北店と同じく黒を基調としたルックで統一

前回の台北店訪問(2023.8)からさらに取扱ブランドが拡充し、Agatho / Fabbria della Musa / Jabeel / Maison Rebatchi / Meo Fusciuni / Pana Dora / Perris Monte Carlo / Wesker の8ブランドが加わり総勢47ブランドの取扱となりました。

左より①ピュアディスタンスは、昨秋のパピリオ発売から取扱サイズを順次17.5mlと60ml→60mlと100mlにサイズアップ切替中。いかに台湾で売れているかがわかる ②オーモンドジェインとは強力なタッグを組んでおり、NoseWay限定作もある ③日本は屁もひっかけられないFragrance du Boisも高雄では売れ筋
店長さん直撃インタビュー

LPT 高雄店はいつオープンしたんですか?

ショーン 2019年にオープンして、その後2022年4月に現在の99㎡に増床してリニューアルオープンしたんだよ。僕は2019年から5年間高雄店にいます。

LPT 日本の香水チェーン店で、店長クラスでも5年勤めてる人って、会った事ないですね。オープン時から見てきて、高雄店の客層はどんな感じですか?

ショーン 20代後半から30代前半がメインで、7割が女性だね。高雄店で人気があるのは、クリーンなウッディ系、デリケートなローズ系、フレッシュなお茶系かな。

LPT 人気の香りは、やはり高温多湿の気候からか、そこに一部のタバコ・コーヒー・酒系が加わる位で、日本と近い物がありますね。では具体的に人気のブランドは?

ショーン 高雄店では、何といってもピュアディスタンス、オーモンドジェイン、エタリーブルドランジュ、BDKパルファンが四天王だね。

LPT ピュアディスタンスが売れ筋四天王?!日本じゃ夢にも見た事がないです、「人気で欠品した商品は一時的にテスターを下げる」というNoseWayのショップポリシーで、確かに今シェイドゥナのテスターが店頭にないですよね。

ショーン 僕はブラックが一番好きだよ!

メイヴィス 私は№12が好き!

LPT スタッフさんの推しまで伺えて感激です…それでは、もうちょっと絞りこんで、高雄店では何が一番売れているんですか?

-と聞くや否や、一瞬のうちにテーブルに並んだベスト5(順不同)は…

手前から

  1. White / Puredistance
  2. Yong Rose (NoseWay exclusive, 1,200 only) / Ormonde Jayne
  3. Xi'An / Ormonde Jayne
  4. Brume Du Matin / Fragrance Du Bois
  5. You Or Someone Like You / Etat Libre d'Orange でした。

高雄店人気ベスト5の面々

LPT ①ピュアディスタンスのホワイトは説明の必要がない世界的人気作、③のXi’AnはMeet LPTV vol.2 (2020.10.3)でご紹介しましたが、他の3点は高雄初体験です。④は、自社プランテーション産ウードが有名なフラグランス・デュボワとしては意外なスーパーフレッシュなシトラスフローラルですね、キーノートは…ローズかな?

メイヴィス (日本語で)モモ!モモ!!

LPT おお、モモ!メイヴィスさんのどや顔がまぶしいです。⑤は日本でもおなじみのELOから、スカッとしたシトラスグリーンで、気候的に納得の人気です。

ショーン この中では、僕はYou Or Someone Like Youが一番好きだな!

LPT ホワイトの隣に並ぶ、②のYong RoseはNoseWay限定、かつ1,200本限定と猛烈なエクスクルーシブ作ですが、オーモンドジェインにしては珍しいパッケージですよね。ちょっと寂し気な少年が、儚げな薔薇と共に描かれています。香りも、直球ローズではなく、オスマンサスとアイリスのフルーティでパウダリーなOJトーンがしっかりある中、どことなくセンチメンタルな、エアリーで控えめな伏目がちのローズが香り、ちょっとOJっぽくはないな、と感じますが…

ショーン 台湾は、アジアで最初に同性婚が認められた国なのは知ってる?ヨン・ローズは、2000年に起きた実話「葉永鋕事件」がもとになっているんだ。当時15歳だった中学生のヨンさんは、性同一性障害の男の子で、心は全くの女の子だったんだ。それだけでもつらいのに、学校では男だって証明してみろ!とズボンを脱がされたり、ひどいいじめに遭っていたのと、男子トイレに入ることは心が女の子のヨンさんにはとても苦痛で、休み時間にはトイレに行けず我慢したり、トイレ=緊張、で失神するようにもなってしまった。学校側は、授業の終わる手前でヨンさんを教室からトイレに行かせるようにしたんだけど、それも本当は嫌だよね?それで、ある授業の時、トイレに行ったヨンさんが戻ってこないので、トイレを見に行ったら、頭を打って血まみれで倒れていて、そのまま亡くなったんだ。これは台湾でも大変な問題になって、男女平等教育法が改定されて、さらにはLGBTに対する意識改革に発展して、同性婚を認める動きにつながっていった。2019年にはヨンさんをテーマにした「玫瑰少年」という曲が台湾のレコード大賞を受賞する程ヒットしたり、遂には同年5月、アジアで初めて同性婚が合法化したんだ。悲しい事故ではあったけど、台湾に新たな生き方の選択を開くきっかけを作ったヨンさんを偲んで、オーモンドジェインとコラボレーションした作品なんだよ。

ヨン・ローズ(2022) パルファム 50ml NT$7,590 (≒36,000円)ローズピンクのボトルには通常の幾何学模様ではなく薔薇が描かれ、オレンジのボックスにはNoseWayのロゴが入る。ヨンさんの悲しい出来事が台湾という国を動かすまでの物語が、瑞々しくも少しだけ硬さのある、切ないベチバーローズの香りに昇華

LPT 切ない、切なすぎる…大ヒットした曲とヨン・ローズの台湾名が同じ「玫瑰少年」なのも、より切ない…でも台湾が大きく前進するきっかけとなった、NoseWayのお客さん世代なら誰でも知ってるヨンさんがテーマで、香りのよさに相まって皆さん手に取ってくれるんですね。

ショーン そう、最後は、Love is Loveなんだ!

ショーンさん、メイヴィスさん、レオさん、モーレツなおもてなしをありがとうございました!!

NoseWayお馴染みのメンバーシッププログラム。前年版とランク維持条件など若干ランク条件が変更になっているが、ランク毎に10%~15%OFF、誕生月は20%OFF、各種値引クーポン等々と購買欲あおりプログラムには違いない。会員限定左:前年度 右:2024年度
New in NoseWay

前回は手ぶらで帰ってしまいましたが、今回はご紹介いただいたヨン・ローズに合わせ「ヨン・ローズが気に入ったなら、これも是非試してみて!」と紹介されたイタリアの新ブランド、ファブリカ・デッラ・ムーサのミア・アルバ・ミスティカをお持ち帰りしました。ファブリカ・デッラ・ムーサは2022年にフィルメニッヒのプリンシパル・パフューマー(フィルメニッヒの調香師序列第2ランク。トップはマスター・パフューマー、第3位はシニア・パフューマー…と続く)、ハミド・メラティ=カシャーニが立ち上げたイタリアのブランドで、ミア・アルバ・ミスティカは白桃とネロリ、ジャスミンがメインのフルーティフローラルで、立ち上がりはきゅ~んと美味しい白桃とオレンジで始まり、ちょっとだけ薬草みがあって、じわじわとフルボディになっていく、21世紀王道の美味しいフローラルシプレです。個人的にはオーモンドジェインファンというよりは、MDCIのフルーティフローラルが好きな方におすすめ、同じベクトルでMDCIとは違う丘から的を撃ちにかかっている感じです。それにしても2010年代から桃は不老長寿系(Tian Di/フラッサイ)から全身可食部系(Suncrest/ウルリッヒラン)まで、桃系というジャンルが確立してると言いたくなるほど、世界的に大人気ですね。

ミア・アルバ・ミスティカ (2022) EDP 100ml NT$6,780 (≒32,000円) 100mlで税込33,000円以下だと、昨今の円安値上で既に「お、良心的」と思ってしまいがちだが、それは金銭感覚の麻痺
タヌ、初めて海外のLPT読者に会う

前回のNoseWay訪問はブログでもご紹介しましたが、投稿からしばらくして、記事にコメントが付きました。下記リンクの一番下に英語のコメントが入っているのですが、今回の訪台についてコンタクトを取ったところ、偶然高雄在住との事で、NoseWayで待ち合わせしてお話を伺う事になりました。上のNoseWayスナップで、マスクをしている女性がブログ読者・Nefertariさん(個人の方なので顔出しNG)です。お若い方ですがタヌも震撼するハードコアなヴィンテージ香水ファンで、LPTは戦後昭和の国産香水特集から読者になって2年余り、資生堂の大ファンで一番好きな資生堂はすずろとの事。ジャンパトゥを買収して亡き者にしたLVMHの不買運動をしている過激派です。半可通なクラシックファンの私は丸焦げチリチリになって帰ってきました。

Nefertariさんとの会話も翻訳アプリを介した「ほぼ無言&画面の見せ合い」状態でしたが、画面から伝わるヴィンテージ愛は凄まじく、アプリ会話の折々に握手。また美術系の学校を出たそうで、卒業制作に調香した香水のサンプルを2種いただきました。二つとも台湾の史跡や行事をテーマにした郷土愛溢れる作品で、ひとつは「穀雨」という台湾ヒノキがメインの、コクのあるウッディ系で、高雄の逍遥園という建築物(メインの建築材に台湾檜が用いられている)がテーマ。もう一つが「春分」という、戦前ジャンパトゥを彷彿するクラシック丸出しのムンムンフローラルで、台湾の春分にあたる清明節をテーマにしています。ヴィンテージ香水ファンが、好きなものを好き勝手に作った感炸裂の出色の出来栄えで、廃番に泣くクラシックファンは喜んで買うんじゃないか的クオリティでした。こういう人がいいスポンサーを得てデビューする道があれば素敵だし、また香水史の研究熱が物凄いので、是非台湾香水史界の頂点まで行ってほしいです。

Nefertariさんからいただいた香水サンプル。台湾においてクラシック香水ファンは孤高の存在で、いばらの道だと言っていた。まあ日本も今では似たり寄ったりですが、生まれてくる時代を100年間違えたね…


次回は、台北編をお届けします!

 

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