日程:2024年2月12日(月) 配信:20:00-21:00 場所:図鑑カフェFumikura
今日は、年始よりLPTブログで大型特集を組んだ新作香水、ペルソンヌのご紹介をします。一つの作品にフォーカスしてご紹介するMeet LPTVは初めてですが、ブログでは書ききれなかった事を中心にお話します。
- 1. オリビアさん2023年12月来日
- 2. オリビアさんは何をしていた人か
- 3. Attache Moi 4作紹介
- 4. ペルソンヌ誕生
- 5. オデュッセイアあらすじ
- 6. オデュッセイアを読んだ感想
- 7. 8つのアコード
- 8. 香水・ペルソンヌ
- 9. ペルソンヌの調香師、アレクサンドル・ヘルワニ氏自薦の作品紹介
1. オリビアさん2023年12月来日
スーレマントのクリエイターとして2023年12月に初来日しました。LPTでも来日レポートをお届けしたので、ご記憶に新しい方も多いのでは。
現在は、オリビアさんが主宰する「アイコノフライ」という(オルファクティヴ・アートとキュレーションの)プラットフォームに4つのブランドを集約しています。わかりやすく言うと、アイコノフライという土台に、4つブランドが紐づいて、香りつながりのアート活動になっている状態です。
現在のアイコノフライ
-アタッシェモア(2009年~最新作2017年)
-スーレマント(2016年~最新作2021年)商業的に認知度も高い
-レジャルダンプロミ(2022年~)2023年にペルソンヌが一般発売
-グジロフロー(2023年~)現在はアートイベントのみ
2. オリビアさんは何をしていた人か
・ICONOflyマガジンについて
アイコノフライというプラットフォーム名の由来となった、サブタイトルが「アクセサリー日記(Diary of an accessory)」という、2か国語で編集されたカルチャーペーパーで、2006年から2015年の9年間に7号フリーマガジンとして発刊。のべ70以上の寄稿者を束ね、平均発行部数4万、6号の香水特集は最大5万部発刊された。協賛先のラグジュアリーブランドや著名ギャラリー、高級ホテル、有名百貨店等の顧客向けに配布。
左より:
1)創刊号「旅行鞄(2006年春)」
2)5号「ブレスレット(2009年春)」
3)6号「香水(2011年発刊、最大印刷部数5万部)」
アイコノフライ・マガジンは、発刊のたびにお披露目のアートイベントを開催して、時には香水も発表しました。それがアタッシェモアのシリーズで、アイコノフライが休刊した後も1作発表して、全4作出ています。
3. Attache Moi 4作紹介
アイコノフライ稼働中ということもあり、作品ごとにショートフィルムや音楽などのアートコラボレーションを行いました。雑誌が休刊しても、アタッシェモアという香水ブランドとして残りました。現在はリブランディングを控えていて、市場ではほぼ完売状態ですが、オリビアさんの足跡としてご紹介します。
1) Attache Moi(2009)クリスティーヌ・ナジェル&ブノワ・ラプーザ共作
アイコノフライ第5号の企画として登場した香り。パリの盆マルシェ、もといボンマルシェでお披露目販売しました。限定版のパルファムもあり、ブレスレット型のボトルはセルジュ・マンソー作。オリビアさん曰く「アタッシェモア物凄い売れた、バーニーズなどにも置いてもらった」そうです。
ボトルデザインは、スエードのひもでぐるぐる巻きにしていて、作品によってスエードの色が変わります。アタッシェモアはクリスティーヌ・ナジェルとブノワ・ラプーザの共作ですが、クリスティーヌ・ナジェルは現在エルメスの専属調香師、ブノワ・ラプーザは近作としてはキリアンのエンジェルズ・シェアで大ブレイクした方です。
香りとしては、欧米ではド定番で市民権を得ている香りの系統で、バルサミックな樹脂系アンバーに、ちょっとウード味のあるウッディを重ねた肌馴染みの良いウッディアンバー、ローファットなアンバーできれいさっぱり消えるので胃もたれせずにつけ飽きない。50mlだとすぐなくなりそう。
2) Attache Moi 55(アタッシェモア・サンコンサンク)(2013)パトリシア・シュー(高砂香料・当時)作
アタッシェモア55(サンコンサンク)という名前は、ニューヨークの55丁目からとった。地下鉄にも55丁目駅というのがあります。ブルックリンのあたり・もともと17世紀にオランダ人が入植して開かれたエリアでブルックリンもオランダの地名、ブルーケレンを取って開拓した地域で、オランダにゆかりが深い。古い教会と新しい高層ビルみたいな新旧入り乱れた住宅街で、オリビアさんも10年ほど前、ご主人の仕事の都合で、子供を連れて家族で移住してきたエリアです。
アタッシェモアのラインで一番フローラルが前面に出ている作品で、ジャスミン、キンモクセイ、アイリスが、お互い主張しあわず、ひとつの硬めでマットなフローラルとして香り、欧米ではおなじみのスモモの仲間、ミラベルの酸味がアクセントになっています。あと、どこか街路樹の香りというか、例えば東京の明治神宮から表参道は、ケヤキ並木ですけど、あの辺の5月の、青葉や若い木の芽の空気がフローラルと合わせて、そこはかとなく感じられるんですよね。その空気感が55丁目という「街の香り」なんでしょうか。
アタッシェモア・サンコンサンクは、フレグランス・ファウンデーションアワード。パフューム・エクストラオーディナレ2014のファイナリストにノミネートされました。
調香はパトリシア・シュー、当時高砂香料所属(現在はマン)の方で、経歴は日本未上陸のメインストリーム系作品が多く情報不足ですみません。
3) It was a time That was a time (2015) ニコラ・ボンヌヴィル(フィルメニッヒ)作
アイコノフライ・マガジン最終号、スニーカー特集と並行して登場した3作目。
イギリスのアーティスト、シェザド・ダーウッドが制作した、香水と同名のショートフィルム、It was a Time That was a timeをもとに、ダーウッドを交えて調香師のニコラ・ボンヌヴィルがICONOflyマガジンの為に制作した香りです。
ニコラ・ボンヌヴィルは、近作ではド・ジバンシィのアンサン・ディヴァン(2018)やローズ・アルダント(2017)など、日本でも人気のあったローズ・ド・ネージュ(2016)などパルファンロジーヌで数作手がけている調香師です。
これは、猛烈なマリンノートのアンバーレザーで、渦潮スエードという感じです。
青空とか海、アンバーグリスの乾いたしおからさがモチーフになっています。
2010年代後半になって、マリン・オゾンノートの再評価が進んでいて、90年代とは違うさじ加減で、40年前位だったら、アルデヒドがその役についていた、全体に軽さを出すとか、瑞々しさとか、リフト感の演出として化学調味料的に使われてきていて、2015年に、ここまで90年代のマリン系が出てくるのはビックリです。
90年代のマリン・オゾン系で玉砕した年代にはちょっときついマリンノートですが、ベースがアンバー、トンカ、パチュリ、スエードと今時感バリバリ、マリンがなかったら最近どこにでもあるレザー風味の甘口アンバーなので、そこにマリン激盛りしたらIt was a Time That was a timeになる、そんな感じです。アタッシェモア4作の中では、これが一番エッジが効いていてパワフルでアバンギャルド、すでに公式サイトでは完売しています。
この作品を出した後、オリビアさんは、香水の世界に専念すべく、ICONOflyを休刊して、2016年には、ICONOFLYのブランドでは日本で最も有名な、というかそれ以外知られていないスーレマントを立ち上げます。
4) Ici & La (イシェラ)2017年、シャマラ・メゾンデュー(ジボダン)作
アイコノフライ休刊後、スーレマントの5作を出した翌年に発売になったのがこの作品で、雑誌をやめていかに香水に力を入れたかわかります。調香師のシャマラ・メゾンデューは、インド系マレー人の方で、ジボダンのシニア・パフューマー、アントワーヌ・メゾンデュー(メインストリーム作品が多い)の奥さんです。ジボダン社内結婚。
イシェラとはフランス語で「あっちこっち」の意味で、2010年代の初めから家族でニューヨークに移住して、パリとニューヨークを頻繁に行ったり来たりするオリビアさんの日常を香りにしたのでしょう。アタッシェモアとしては4作目、最後の作品になります。
ところでパリとニューヨークは意外に近い NY→パリは最短7時間、LCCもいっぱい飛んでる。直前割みたいな安い切符だと片道200ドル位で行けちゃうそうで、そういう切符でオリビアさんはしょっちゅう実家に帰っている。7時間、3万アンダーでパリに行けるなら、そりゃ行きますよね?
香りは、アンジェリカにアイリスとチリペッパーの効いたスパイシーなウッディパウダリーシプレ、立ち上がりは激しいが、割とすぐ和やかな香りに落ち着きます。
移動のドタバタと、ついてしまえばホームベース!みたいな落ち着き感の演出でしょうか?LPTで紹介した香りの中では、アンジェリカが主張するという意味でヴィオレのサイクル001を思い出します。
それでは、今回のテーマであるペルソンヌについて話したいと思います。
4. ペルソンヌ誕生
フランス文化庁の「オデュッセイアの種を集める」という一大プロジェクトの香り部門にオリビアさんが任命され、古代香水を研究する調香師、アレクサンドル・ヘルワニに調香を依頼してできたのがペルソンヌです。
このプロジェクトでは、オデュッセイアに登場する草木を分析して、40の草木がわかって、そのフローラ(植物相、特定の地域に生息している植物をまとめたもの)をもとに、まずオデュッセイアの漂流シーンにフォーカスして、時系列で8つのアコードを天然香料で作り、そのアコードを束ねて香水として完成させたのがペルソンヌで、2022年から数々のアートイベントで紹介後、アイコノフライ3番目のプロジェクトで、歴史上の香りを再現する、レジャルダンプロミの第1弾として2023年に一般販売が始まりました。といっても、現時点ではスーレマントのように世界18か国に販路があるという訳ではなく、今回LPTでのご紹介も、アジア初となるので、数年後、どのくらい話題になっているか楽しみですね。
ボトルはこんな感じで、これ前半登場したアタッシェモアと同じボトルを使っているんですよ。紙パッケージも同じ。アタッシェモアではスエードの紐でしたが、ペルソンヌはスエードから古代ギリシアの織物やキトン、ヒマティオンをイメージした寒冷紗になっています。ちなみに古代ギリシアの服装は、アンダーがキトン、アウターがヒマティオンというんですけど、オデュッセイアの中では「下着」と「上着」のように書かれています。下着といっても、一枚の布を筒状に塗って紐で縛ったようなものなので、現代における下着はつけていない、ノーパンです。だから、海で難破すると途端にマッパになるので、オデュッセウスもマッパで右往左往する大事な場面がありました。
5. オデュッセイアあらすじ
オデュッセイアは、ヨーロッパでは子供がまず最初に読む本の一つと言われていていますが、欧米では当たり前でも、日本人には文化的になじみがない世界です。日本人だって、日本書紀や古事記をまず最初に読むか?読まないですよね、世界史の教科書の最初の方に、作者の「ホメロス」と「オデュッセイア」という名前が出てくるくらい。
オデュッセイアは日本でも研究はされていると思いますが、民草レベルに降りていない。ベルばらのような国民的大ヒットの翻案があるわけではないし、学校でも学ばない。ヨーロッパのように、子供が最初に読む冒険ものみたいにはなっていないんです。
オデュッセイアも漫画にはなっているけど「漫画で知る名作」系くらいです。
オデュッセウスの漫画なら、かなり独自解釈ですがだいたいこんな感じ、な黒崎冬子先生の「家に帰るためにめちゃめちゃ頑張ってたらアイドルになった人の話(俺はオデュッセウス)」がお勧めです。たまたま、現在連載中の「天地救世♡神話ガール」第1巻発売記念サイン会が当選し、Meet LPTVの2日前だったので、オデュッセウスを描いていただきました。
オデュッセイアのストーリーを物凄いざっくり、時系列で話すと、
- 10年間のトロイア戦争が終わって、故郷のイタケに帰るオデュッセウスと部下が
- 途中流れ着いたキュプロクス島に住む一つ目の巨人、ポリュペモスの目をつぶして逃げたので、ポリュペモスの父親のポセイドンから恨まれて、行く先々で海難に合う
- 途中魔女のキルケーに囚われたり、怪物のサイレンやスキュレとかに襲われ、部下も全滅して、生き残ったオデュッセウスはニンフのカリュプソに気に入られ7年幽閉
- トロイア戦争時代から肩入れしていた女神、アテネの采配でイタケに還れることが神々の審判で決まり
- その後流れ着いた島のお姫様、ナウシカに助けられて、お土産付きでイタケへ帰ることができたが
- 合計20年間不在にしている間、奥さんと財産を狙った有力者が、オデュッセウスの家に入り浸って財産を食い潰しているうえ、息子まで殺そうとしている事がわかり、家が大変なことになっていた
- 自宅に戻って有力者を皆殺し
- 悪い家来も皆殺しにして、一件落着
という話です。
古代ギリシア語を現代日本語に訳しているわけですから、相当無理があると思うのですが、結構冒険活劇的な筋で、勢いがあって面白かったです。
6. オデュッセイアを読んだ感想
ペルソンヌは、オデュッセイアに登場する草木で作った香水ですが、オデュッセイアの話の中で一番印象的な匂いは、草木ではなく神々への捧げものにする牛や豚の焼いた匂いでした。もう生贄バンバン、焼いて捧げるんですよ。自分も食べるし。牛のモモを焼いて…とか部位指定まで描かれている時もあり、焼き肉気分です。
そして狩猟民族の根本的な価値観「ないものは略奪して補う」のが当たりまえの価値観にも驚きました。オデュッセウスも、トロイア戦争が終わってから帰路の途中寄った国で略奪して、奪ったものを部下に分け与え…とか、最後の最後で「羊が足りなかったら、どこどこから奪ってくればよいし…」的な発言で、農耕民族の私はドン引きでした。そこ、すごく平和でハッピーエンドなシーンなんですけど、聞き捨てならない発言が結構飛び出します。神様への捧げものも「何々してくれたら、お供えします」って「ご供養後払い」なんですよ、順序が違いますね。
古代ギリシアの時代って、神と人間の境が曖昧で、まあキリストが出てくる800年前の話、もっと言うならブッダもムハンマドも出てきてない時代なので、神様っていうけど、秩序としての神仏じゃないんですよ。なんか技の使えるまずい上司とたまにいい上司、その部下、その下の平社員みたいな感じの世界です。
ギリシア神話といえば、オデュッセイアには、ものすごいオデュッセウス推しの女神アテネが出てくる。オデュッセウスがイタケに帰れるよう、あの手この手で助けるんですけど、そこまで力があるなら、一発でワープでもさせてあげればいいのに、結構回りくどい。いろんな人に変身して助ける、どこにでも入ってくるし夢にも出てくる。
神様についている決まり文句も面白くて、アテネの武器は槍とアイギス(楯)目がデカいのでアテネの名前には「眼光鋭い」という枕詞がつくんですよ。終始激アツな女神さまでした。あと、アテネが術を使って、勇気を吹き込んであげたりはいいですけど、古代ギリシアでもイケメン無罪というか、結構周りの人に見た目が良く見えるようにしてあげていて、それが男は背が高く胸板厚くマッチョが美男子という、2800年たった今も西洋の美の基準ってそう変わらないもんだなと思いました。
あと、とにかくオデュッセウスは人にも女神にもモテモテ、強い女神にもまずい魔女にもモテる。妻帯者のオデュッセウスを不倫上等で返さないニンフのカリプソとか、7年も島に軟禁するんですよ。オデュッセウスは浜で妻や子供を思ってさめざめ泣いてるんですけど、夜はカリプソのお相手でくんずほぐれつで、ウエットでいやな感じなんですよ。結局、アテネの激推しで他のえらい神様もオデュッセウス帰してやれ、という事になり、カリプソは女性の仙人みたいなポジションで神様よりは身分が低いので、上からの圧力で仕方なく解放するんですけど、魔女キルケーの島では部下は豚にされたのに、オデュッセウスだけちやほやされて1年軟禁されたし、年齢的にはオッサンど真ん中で、トロイア戦争の為にイタケを離れて20年経っており、息子のテレマコスが生まれてから戦争に行ってるわけだから、20歳以上の子供がいるおっさんに対し、ナウシカ姫が「あんな人と結婚したい」と漏らすのは演出過多な気がしました。
7. 8つのアコード
それでは、冒頭でお話ししたペルソンヌをかたどる8つのアコードをご紹介します。
先ほどのあらすじを思い出しながら聞いてください。
- キャロブ:イナゴマメで、ココアに似た感じの味と香りがするマメ科植物で、粉末にしてココアやコーヒーの代用として使われることが多いですね。自然食品の店などに売ってます。トロイア戦争後の帰路、最初に漂流したどり着いた島に住む人々、故郷を忘れる程おいしいロートス(ナツメ)の実を食べさせる、ロートパゴイ族のイメージです。
- 紫ブドウとローリエのアコード:香水名の由来となった場面に登場する、一つ目の巨人キュプロクス族のひとりで、ポセイドンの子供、ポリュペモスのイメージですね。部下を喰われたオデュッセウスが名を聞かれ「誰もおらぬ(Je suis "Personne")」と名乗り、大木で眼を潰してポリュペモスから逃げますが、父ポセイドンの恨みを買い、そのあとが大変なことになります。
- オークモス:オデュッセウス達が流された島の魔女、キルケーのイメージです。部下を豚に変え、オデュッセウスらを1年軟禁するも最後は解放し、無事に帰れるように注意事項を教えてくれるのですが、結果として更なる災難へ送り出す事になります。
- コンブとロウ:キルケー注意事項その1,妖艶な歌で船人を狂わす魔女サイレンのイメージです。部下たちに蜜蝋の耳栓をさせ、オデュッセウスだけが歌を聞くも、この時点では、部下ともに辛うじて生き逃れます。
- グリーンフィグのアコード:キルケー注意事項その2,未だかつて船乗りが越えた事のない魔の淵カリュブディスで人を喰らう怪物スキュレのイメージです。ペルソンヌの調香師さんが、ペルソンヌの鍵だと言ったアコードですね。
- サイプレス、バイオレットリーフ、ファーバルサム:スキュレを乗り越えた後、一番大事なキルケー注意事項を守らなかった部下が全滅した果てに流れ着いた島のニンフ、カリュプソのイメージです。オデュッセウスを夫にしようと7年間軟禁するが、神々の審判がくだり解放します。
- ヒヤシンスのアコード:カリュプソから逃れ、漂着したパイエケス人の国の王女ナウシカ姫のイメージです。ここから一気にイタケへ帰る道がつきます。
- マスティック、ローズマリー、ローズ:妻ペネロペイアと息子テレマコスが待つ、オデュッセウスの故郷イタケのイメージです。
8つのアコードは、オデュッセウスが話した漂流譚を基にしていて、オデュッセイア全体をとらえているわけではない。だから人外が多く出てくるんですよ。そして、イタケに帰った後の、家を荒らした奴らの粛清は描かれていません。そしてアコード自体は、香水の完成形ではないので、香料の集合体に近いです。
この8つのアコードを束ね、オデュッセイアを総括する香水、ペルソンヌとなりました。
8. 香水・ペルソンヌ
8つのアコードが香水になったペルソンヌの第一印象は「陽光に焼かれた磯の香り」。塩辛さを感じるセロリと昆布の旨みを、乾いて熱を帯びたイモーテルの埃っぽさと削りたての鉛筆が行ったり来たりしながら、だんだんとほっこりした温かみが包み込みようにたちのぼる、ハーバルウッディシプレです。イモーテルは、オデュッセイアには登場しないので、調香師さんの匙加減で盛り上げ役に入っています。お料理に使う香味野菜やハーブ、大麦や小麦などの穀物が多いので、野菜スープやハーブ園の香りになりがちなところを、調香師さんの技で寸止めしているという感じです。ただ、日によって結構表情が変わって、クラシックなグリーンフローラルシプレみたいに香る時もあれば、おがくず系のウッディ系に感じたり、植物原料100%のだしパックみたいな、可食部多めに香る時もあるんですけど、全体的に温かな香りで、何度も使っていくうちに、開放感を感じる温かさが癖になるんですよ。しっかり持続して、緩やかに展開して、最後に良い香りだった、とミドル以降の調和が美しい香りです。
ただ、今、このはいて捨てる程の新作だらけで、客の取り合いになってる飽和状態の香水マーケットで「何度も使うと癖になる」つまり、脊髄反射的には良さがわからないかもしれない香水の魅力が、ユーザーに伝わる余裕ってあるのかな?これ、将来店頭販売して、トップノートだけでキチンと魅力が伝わるのかな、商業的にはそこが心配ですが、幸い欧米の人にはDNAにオデュッセイアがしみ込んでいて、一気にイメージ湧くんだろうな…と思うと、心配無用なのかな、と思うんですけど、フランスを代表する香水評論誌、Nezでもわりとチャレンジング系との評価が出ていたので、アートプロジェクトの一環という枠から飛び出すには、程度の差こそあれ、本当に楽しむにはユーザー側の経験値や知的習熟度はある程度必要なのかな、と思いました。ただビックリしたのが、一昨日いったサイン会で、今回の配信用ムエットセットをプレゼントしたんですが、漫画家さんがサインを描きながら、ペルソンヌをつけていた私に「なんか、爽やかなよい香りがすると思った…」さらには漫画家さんの隣に座っていた担当さんが、ペルソンヌの香りをムエットで試して「うわ、高そうな香りがする、いい香り…」と、この30代半ばくらいの女性お二人が、前知識なしで大絶賛していたので、日本も捨てたもんじゃないなと思いました。
ペルソンヌは、オデュッセウスの人間ドラマと彼が生きた古代ギリシアの風景を現代に召喚した香りとして、オデュッセイアに登場する40の草木のほとんどが香料として用いられていますが、海辺の草ですよ?…たいがいはヨシだのアシだのが多く「入っているんだ」程度の認識で良いと思います。一方で、ストーリーには登場しないけれど、オデュッセイアは海にまつわる漂流譚ですので、海を象るのになくてはならないキーノートに昆布、花要素としてイモーテルが効果的に登場します。
正直なところ、日本人にとって血肉になっていないオデュッセイアの筋抜きで、純粋に香水としてペルソンヌを楽しめるかというと、100%肯定はしませんが、私自身前情報なしでペルソンヌを実装し、トップのミネラル豊富な香味ハーブ感と、ふとした瞬間にはっとする美しい花々の表情、そしてミドル以降の柔らかく肌に溶け込む温かさが不思議と癖になりました。
9. ペルソンヌの調香師、アレクサンドル・ヘルワニ氏自薦の作品紹介
Tong Ren(2022) Elemantals
最後に、ペルソンヌを作った調香師、アレクサンドル・ヘルワニさん自薦の作品を1点ご紹介します。日本ではまだ全然名前を聞かない方なので、どういう作品を作るのか、ペルソンヌの他にも知りたくて、ヘルワニさんが自薦していたエレメンタルズというブランドのトンレンという作品のサンプルを1月に取り寄せ、今回、配信に間に合うよう、急いでフルボトルを発送していただいたんですが、なんとフランクフルトからの貨物便が間引きになって、間に合いませんでしたので、写真だけですみません。
※配信から約1週間遅れで届きました。写真は到着後に撮影したものです。
エレメンタルズは、香港で風水師になった、ディアナさんという今年66歳のお姉さんが、2013年ドバイで構想を開始、2018年にご自身の風水信者のためにドイツで立ち上げたナチュラルパフューマリーブランドです。社名はエッセンス・オブ・チーで、レターヘッドには大きく「気」と書かれていました。人の縁とは言え、えらいものを発掘してしまいました、オデュッセイアの次は風水ですよ…今年のLPTはどうなっちゃうのかな…
エレメンタルのコレクションには、ディアナさんが占った今年の運勢付きボトルもありました。日本へはドイツ郵便で爆速で送ってくれますし、ディスカバリーセット代を次の注文時に引いてくれるので、とても日本フレンドリーで良心的なブランドさんですが、日本からの問合せはLPTが初めてだったそうで、初めて日本に発送したといっていました。
まあ、そういいながら2年後には日本上陸したブランドをいくつも見ていますので、そのうちあのチェーン店や京都のあの店から問い合わせが行くんじゃないですかね。
トンレンは、中国最古の書物、易経(易経)、英語でイーチンの、易経64卦の中でも有名な第13卦、天火同人(てんかどうじん、左)をテーマにした香りです。当たるも八卦当たらぬも八卦、筮竹奮ってバッサバッサやる、あの易経ですね。その中でも天火同人という卦は、同類と同じベクトルに向かって、力を合わせて物事を進むと吉だけど、しめくくりに「勢いに任せて暴走しないように注意」という釘をさしている卦で、同人って「人を同じくする」同人誌の同人なので、イメージ涌きやすいと思いますけど、暴走すんなよってくぎを刺しているところが同人、って感じでいいですよね。
エレメンタルとしては、志をひとつにする人たちが心を寄せ合ってひとつになる、コロナで分断された世界を取り戻す、人の和を香りで表現したそうです。
メインはチャンパカ、キンモクセイ、ナルシス、ジャスミンが主役のフローラルですが、ベースが結構ヘヴィで、花香料だけみるとピン芸人だらけで、どれだけ華やかな香りかと思いますけど、ベースに、濃い目に出したタンニンたっぷり系の紅茶トーンにベンゾインと、オークモスがどっしりいるので、案外ズーンと来ます。
トンレンは、昨年のアートアンドオルファクション・アワード2023で、ファイナリストや受賞枠ではないのですが「オナラブル・メンション」という、選外だけど敢闘賞みたいなのに選ばれているので、運は強いんだと思います。
TRY PERSONNE|今回ご紹介したペルソンヌをお試しいただけます。
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