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Cherigan review 2 | The Purple Bar, Lovers in Pink, Edo Park, Adhara Oud (all 2021)


Cherigan Paris Review goes on...
 
【LES INSPIRATIONS|レ・ザンスピラシヨン】
 
The Purple Bar
ザ・パープル・バー 97.5%天然由来原料使用
1920年代のパリにうごめく、享楽的な地下酒場の熱気を香りに昇華したザ・パープル・バー。シェリガン復興時、インスピレーションシリーズ中、最も評論家筋でレビュー高評価だった作品です。香水の黄金時代は、パリという街そのものがひとつのあやういバーだった。酒という毒を呷り、快楽に溺れ、箍の外れた人たちから悪魔に魂を売るかのように次々と新しい、100年の時を経てなお私たちを魅了する芸術が飛び出した時代、つまりこれはアールデコという毒酒場の香りです。
徹頭徹尾、ムンムンムラムラ甘々なスパイシーオリエンタルで、第一印象は「目つきのあやしいルビコナ」。ルビ子もかなりうっふん調ですが、少なくとも理性は飛んでない一方で、ザ・パープル・バーの方はヒャッハー要素が強い。肌に乗せた瞬間、砂糖を多めに使ったサイコロ状のドライフルーツミックスを口いっぱいに頬張ったあの感じから、やはり砂糖の多いオレンジジュース(100%果汁ではない。昔のプラッシーとかリボンオレンジとか、果汁10%くらい)に急ぎ足でシフトした後、あっという間にスパイシーなクローブ・シナモン+甘々バニラと焦げ焦げラブダナム&ベンゾインの濁流に吞まれます。オレンジにクローブ・シナモン+アーモンド&バニラなんて、とても牧歌的で懐かしい組合せなはずなのに、誰が調香したらここまでイっちゃってる感じになるのか聞きたい位。ベースのラブダナムとベンゾインが酸欠気味の地下酒場な空気をよく現わしており、クラシック香水の基本である序破急がしっかりあるので、時間とともにどんどんダメになっていく様子が描かれています。拡散・持続共にパワフルなので、日本ではとっておきのリーサルウェポンとしてつける場面を選ぶかもしれません。
ザ・パープル・バー P 100ml / パリの地下酒場、酸欠注意
Lovers in Pink
ラヴァーズ・イン・ピンク 90%天然由来原料使用
シェリガンで一番売れている香りがこれ(ルック・ガブリエルさん談)。
「愛の画家」とも呼ばれる20世紀最大のユダヤ人前衛画家、マルク・シャガールの同名の作品(1916)がテーマになっています。シャガールは、97歳没と超絶長生きだったため、戦前30年、戦後30年と違う配偶者と連れ添いましたが、絵に出てくるのはほとんど先妻で、再婚後も描き続けたという、再婚相手にとってはモヤモヤする男性でした。

Lovers in Pink (1916) 個人蔵  先妻ベラと結婚した翌年の作品。モデルは当然自分たち
第一印象は「ジンジャーせっけん」。こめかみにキーンと来るほどの、硬めで透明感のあるフレッシュなフルーティフローラルのラヴァーズ・イン・ピンクは、立ち上がりのカシスとシトラスに生姜をひと絞りしたスパークリングカクテルが、おいしそうだが若干プラスチックっぽくも感じ、メインの青みピオニーとローズが肌になじんでくると、香調にはないが、中東ブランドが作る欧米向け香水にはどんなものにも大なり小なり感じるウード風味(フローラルード)が見え隠れ。イクスニイロのフルール・ナーコティークやYSLのブラウスなど、カンタン・ビシュ節を感じる。拡散力は強めで、半日もすると、前半のフローラルード調が多少抜け、ラストは普通にマイルドなスキンムスクに落ち着きます。若い人向けの仕上がりに感じますので、妙齢加齢のご婦人にはあまりお勧めいたしません。
ラヴァーズ・イン・ピンク P 100ml /
シャガールと先妻ベラ。シャガールがちょっと蛭子さんぽい
Edo Park
エド・パーク 90%天然由来原料使用
東京で、みかん色の花びらから、甘酸っぱい香りがぐいぐい香ってきたら、季節は9月の終わりです。
金木犀は、ヨーロッパ人が愛してやまないエキゾチックフラワー。シェリガンのルック・ガブリエル氏も大好きな、金木犀が満開の東京の公園を思い出して作ったエド・パーク。日本は春夏秋冬といえば聞こえがいいけれど、今や自然災害のテーマパークのように厳しい四季折々の秋、きっと江戸時代の昔から、その公園には同じ香りが漂っていただろう、という憧れが浮世絵までいたっているオマージュです。
アクアティックなオスマンサスにスッとしたシベリアンパインが重なり、徐々にレザー感が出てきて、可愛らしくなりがちなオスマンサスでも、フルーティになり過ぎないので男性でもてらいなくつけられると思います。レ・ザンスピラシヨンシリーズ作品は、パルファム濃度とはいえ、香りによって深浅の開きが大きく、このエド・パークはかなり軽く感じます。
惜しむらくは、金木犀はここまで酸っぱくないし、松葉と金木犀は、東京の公園で一緒に香ることはないけれど、日本が大好きなルックさんが、浮世絵にぼん、ぼんと描かれる松の木も、花と同じくらい香って欲しかったんだろうなあ、という温かい気持ちになります。一日本人としては、シトラスの酸味をもうちょっと柔らかく、オスマンサスアブソリュートの分量を増やすことが難しいなら、かわりにアプリコットを足してくれたら、ぐっと金木犀度があがり、相当江戸公園になると思います。
エド・パーク P 100ml / 江戸公園と思しき日本のどこか
Adhara Oud
アダラ・ウード 98%天然由来原料使用
アラビア語で乙女を意味するアダラとは、おおいぬ座イプシロン星の別名で、太陽系の2等星で最も明るい星(野球で言ったら2軍選手で一番強いやつ)をさす。アダラ・ウードのテーマは「香(こう)」、聖なる処に立ちのぼるひとすじの薫香、中でもしんとした神社仏閣の境内に似合う沈香や、香道の聞香(もんこう)で珍重される伽羅から中東の人々を浄化するウードまで、守備範囲が非常に広い。実際この香りに沈香(ウード)は使われておらずウードアコード+サフラン&レザーノートで表現しているが、この香りの真の主役はローズとゼラニウム。生々しいローズとゼラニウムに、さらにシトラスを重ねかなり酸味ましまし。この酸味勝ちなローズゼラニウム感にしばらくは寄り切られ、徐々に苦みや渋みが増し、パチュリや燻った沈香感が高まって宴もたけなわ、芸者さんも引き上げてお開きとなります。
LPT読者が大好きなウー度★★★★★を期待すると肩すかしですが、アロマテラピーの酸っぱいローズゼラニウム、またはローズとゼラニウムのブレンドが好きで、そこにレザーノートが重なった感じにぞわぞわする方お勧めには結構おすすめです。
アダラ・ウード P 100ml / フジヤマ、ゲイシャ、ニンジャ、ガンダム

 

おまけクイズです!

2021年に復興したシェリガンですが、オリジナルのシェリガン社の代表作(今回復刻したフルール・ド・タバを除く)を3つ挙げてください。

👀ヒントは、明日の投稿に登場しますので、お楽しみに!

🎁全問正解の方には、昨日のレビューでご紹介したシェリガンのオフィシャルサンプルカードセット(0.3mlx7種)を抽選で2名様にプレゼントいたします。ブログのコメント欄(応募コメントはブログ上では公開いたしませんので、ご安心ください)より、奮ってご応募ください!LPTブログへのご感想を添えてくださると、当選率がアップします。

〆切:2023年3月21日(火)

※当選は景品の発送をもって発表に代えさせていただきます。
※当選者には、LPTより個別に連絡いたしますので、コメント時メールアドレスのご記入をお願いいたします。メールアドレスのご記入がないと、発送先の確認メールを送付できないので、残念ですが正解でも対象外とさせていただきます。(クイズ解答時にメールアドレスの記載を忘れた場合は、別途コメント欄にてご連絡いただければ大丈夫です👌)

 

明日は、シェリガンCEOとしては本邦初、オーナーのルック・ガブリエルさんのロングインタビューをお届けします。上記のおまけクイズのヒントもしっかり入っているので、引き続きお楽しみください!

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