La Parfumerie Tanu

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- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Tian Di / Blondine / Verano Porteño (2017), A Fuego Lento / Teisenddu (2018)

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フラッサイのオーナー、ナタリア・オウテダさんの本邦初インタビューをお楽しみいただいた後は、現在発表されている5作品の紹介をさせていただきます。インタビュー中、既にナタリアさんご本人が何作か香りのストーリーをお話しくださっていますが、各々のストーリーについては、コンセプトによるバイアスを避けるためここでは最小限にとどめ、シンプルに実装による体感でお伝えさせていただきます。公式ウェブサイトをご参照いただければ幸いです。
 
フラッサイの香りに共通するのは「陽だまりのぬくもり」。しかもその熱量は、喩えていうなら、焦げてしまいそうに熱く、目も開けられないほどの眩しさを、薄いカーテンで柔らかくディフュージョンをかけ、室内に溢れる柔らかな光とぬくもりに変え、こころまで温めるような、強さあっての優しいぬくもりです。どの香りにも共通してクリーミィでフルーティな、甘いトーンがベースに流れ、キーノートでそれぞれ違う表情を見せていますが、5作とも作者であるナタリアさんの表情を投影した、ふくよかで女性らしい香りです。その内面の激しさを垣間見るディフュージョンのかかった柔らかさが、初期アニック・グタール作品(パッション、ウール・エクスキース、ガーデニア・パッションなど)の持つ私小説的な作風を彷彿とさせ、当時から40年程たった21世紀の今、より洗練された姿で丁寧に綴っているのがフラッサイなのでは、と感じます。斬新性というよりは、圧倒の安心感。音楽で言ったら、捨て曲がないアルバムみたいなブランドです。
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Tian Di (2017)
調香師:オリヴィエ・ギロタン
香調:ピーチシプレ
主な香料:ジンジャー、スターアニス、オリバナム(フランキンセンス)、ピーチ・エリクシール、菊、アイリス、サンダルウッド、チャイニーズ・インセンス、トンキン・ムスク

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ティアン・ディ EDP 50ml
中国語で「天地」を意味するティアン・ディ。うっすらスウェード感のあるジューシーなピーチシプレで、ルタンスのダンブロンに通じるものがありますが、ダンブロンはドライフルーツのアプリコットなのに対し、ティアン・ディは桃果汁たっぷり。スウェード感が前に出るダンブロンよりも、ピーチがクリアで果汁たっぷり感アップ、肌馴染みがよく暖かい一方で、冷涼なアイリスが美味しく可愛くなり過ぎない寸止め役に鎮座。そこに菊の花の苦味や鎮静系のフランキンセンスとサンダルウッドが重なり合って、可愛い少女が目の前で一気に美しく歳を重ねた姿を同時に見るような、弾ける若さと吸い寄せる落ち着き、少しだけアニマリックなムスクで生身感を引き出しています。
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Blondine (2017)
調香師:ヤン・ヴァスニエ
香調:ソフトグルマンムスキー
主な香料:グリーンマンダリン、ペアリーブズ、ソルテッドバターキャラメル、タイガーリリー、アソッカ、ココア、トンカビーン、カストリウム、ブロンドムスク

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ブロンディーヌ EDP 50ml
1920年代に流行したフランスのお伽話に登場する、若く美しい姫、ブロンディーヌにインスパイアされたこの香りは、キーノートが仏教三大聖樹の一つ、アソッカの花。ムユウジュ(無憂樹、アショーカジュ)とも呼ばれ、日本では本州以北では殆ど生息していないので、実際に見た事も花の香りを嗅いだ事もないので、どの辺がムユウジュなのか分からないのが残念ですが、共演者であるタイガーリリーの濃厚な球根系フローラルが主張しながら、塩キャラメルやココア、トンカビーンなどハイカロリーな甘さが際立つグルマンムスク。雑味のないグラニュー糖やガツンと甘い上白糖ではなく、ちょっと糖蜜の残った粗製糖で作った素朴な甘さで、日本だったら寒い時期に肌で温まった香気で神経が緩む楽しみ方、または確信犯的に真夏の夜、屋外で香ってきたら一発逆転大勝利かも。ラストはまったりとパウダリーに落ち着きます。
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Verano Porteño (2017)
調香師:ヤン・ヴァスニエ
香調:グリーンフローラル
主な香料:カラブリアン・ベルガモット、カルダモン、クレメンタイン、シシリアン・せドラ、サザン・マグノリア、インペリアル・ジャスミン、アレーリ(ウォールフラワー)、ベチバー、アンブレットシード、アルゼンチン・マテ
 

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ヴェラノ・ポルテーニョ EDP 50ml
「ブエノスアイレスの夏」を意味する、ヴェラノ・ポルテーニョ。アストル・ピアソラの曲でその名前を聞いた事がある方もいらっしゃるかもしれませんが、まさしくブエノスアイレスの夏をイメージしたというこの香りは、メインの花香料であるマグノリアとジャスミンにシトラスとマテ茶が重なると、これが猛烈に爽やかなスズランの香りにチューンナップ。香調を見るまでずっとスズランがメインだと思っていたくらいスズラン炸裂。このスズランっぽいグリーンフローラルが、徐々に肌に馴染んでいくと、フラッサイトーンというべき、クリーミィなガーデニアムスクに落ち着きますが、ムスクノートをアンブレットシードで奏でているためさっぱりと植物的で、確かに暑い時期向き。フラッサイの香りの中では一番ライトウェイトでローファット、色彩的にサーモンピンクの階調で、暖色系の多いフラッサイ作品の中では、唯一ライトグリーンを眼下に感じます。ちなみに南半球に位置し、日本とは季節が逆のアルゼンチンは、これから冬へ向かいます。
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A Fuego Lento (2018)
調香師:ロドリゴ=フロール・ロー
香調:クリーミィフローラル
主な香料:ブラックカラント・バッド、オレンジフラワー、ジャスミン・サンバック、フルーヴ・オドランテ、シベット、スウェード、トルーバルサム

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ア・フエゴ・レント EDP 50ml
オラシオ・サルガン作、アルゼンチン・タンゴの名曲「とろ火で」の原題、ア・フエゴ・レント。白い縁取りのある深いサーモンピンクの花びらに、真紅の芯が染みてみえる肉厚な花のような、とろけるように甘く美しいガーデニアが、体の中から花開くように咲く、フラッサイの真骨頂とも言えるフローラル。戦前のクラシックフローラルが持つDNAをしっかり継承している作品で、重鎮調香師ロドリゴ=フロール・ローが、フラッサイと同じ南米発のアメリカブランド、アーキストの専属調香師として腕を振るっているフロール・イ・カント(2012)に通じる穏やかな艶かしさがあります。フラッサイの作品で、まず最初にフルボトルを入手したのはティアン・ディでしたが、その次にどうしても欲しくなったのが、このア・フエゴ・レントです。ちなみに、生まれてからこのかた自分で一度もお金を払って香水を買った事がないのに、妹が店主タヌだったために常にLPT高評価の香りをただで使い放題のハン1さん大絶賛だったのもこの作品。
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Teisenddu (2018)
調香師:ロクサーヌ・カークパトリック
香調:タルトレザーシプレ
主な香料:ビターオレンジ、ラム、ジュニパー、ナツメグ、ミモザ、ダークシュガークリスタル、レザー

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ティセンドゥ EDP 50ml
北米では南北戦争が終結した1865年、ウェールズからアルゼンチンを目指し、パタゴニアに植民した人々が、故郷のウェールズに伝わるラム酒漬けのフルーツたっぷりの焼き菓子、ブラック・ウェルシュ・ケーキ。パタゴニアでトルタ・ネグラ、またの名をティセンドゥとして親しまれるソウルフードになったこのケーキを焼いてくれた、20世紀を強く生きたナタリアさんのお祖母様が、この香りの主人公。フーディ、グルマンな香りは、ややもすると文字通り「お腹いっぱい」になりがちな、ハイカロリーで胸にくるものが多いですが、ティセンドゥはいくらでも食べられそうな美味しさ。なぜなら、この香りは心の栄養になると思えるほど、心地よく気持ちが緩むから。渋いレザーが甘さを束ね、ジュニパーが引き締める、いうならばこれは「タルトレザーシプレ」。フラッサイで同じグルマン系と言えるブロンディーヌとティセンドゥは、全くベクトルが違い、ブロンディーヌが抱きしめたくなる美味しさなら、ティセンドゥは誰かを抱きしめて温めたくなる美味しさです。

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フラッサイのボトルと外箱、場所を取らない秀逸なデザイン。デカけりゃ高級、みたいな風潮は、そろそろやめにして欲しいと辟易する中、このミニマムなデザインには地味に感激。

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開けるとこんな感じ キャラメル箱型の内側には、しっかり緩衝用ラバーが貼ってある。ミニマムながら気の使いようは細かい
2020年末までに、新作の発売が予定されているフラッサイ。他の多くのブランドと同じく、完成しているものの、コロナの影響で延期を余儀なくされたのでしょうか。早くも新作が楽しみですが、まずはこの珠玉の作品たちの魅力を、もっと掘り下げながらステイホームしたいと思います。
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