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Cabaret SLM N°16 in Tokyo | 16 June 2024

昨年12月の来日も記憶に新しい、スーレマントのオーナークリエイター、オリビア・ブランズブールさんが、約半年という短いスパンで再び東京に来てくれました。

オリビアさんの来日効果も手伝って、主催者が準備した印刷物を来場者が全部持ち帰り(他ブランドの印刷物は結構残っていたそう)、売上も参加ブランド中トップだったスーレマントですが「次は是非LPTでキャバレーを共催したい」と嬉しいオファーをいただきました。キャバレーLPTとしては第16回目となる今回のキャバレーは、LPTxSLM共催を記念して「Cabaret SLM N°16」と、スーレマント16番目の作品に空目するようなテーマとなりました。

Cabaret SLMでは、スーレマントを中心に、オリビアさんが主宰する統合プロジェクト・アイコノフライの活動にフォーカスし、マルチアートマガジン・ICONOfly運営時にスタートした初のブランド、アタッシェモアから、年始よりレビューやMeet LPTVでご紹介してきた歴史物シリーズ、レ・ジャルダン・プロミ最新作ペルソンヌに至るまで紹介する、濃密なセッションになりました。

Cabaret SLMに登場する全ラインナップ。右からスーレマント6作、アタッシェモア4作、ペルソンヌ、
ペルソンヌを象るオデュッセイアゆかりのアコード試香用テイスティンググラス
1.Introduction : スーレマントとは

オリビア 私の旅は、日本の皆さんが言うところの道行(みちゆき:旅の道程を地名や風景で語っていく事)と少し似ています。フランスの小さな町で育ち、ドイツ、イギリス、そして今はアメリカで15年間働いています。雑誌を創り、展覧会を企画し、ついには香水まで作りました。それぞれの場所や国が私を形作ってきました。香りがあなたを形作っているのと同じように。私はいつもこのことを夫と3人の子供たち、そして皆さんと分かち合ってきました。日本へ向かう途中、たまたまイギリスの作家ヴァージニア・ウルフの文章を読んで、とても素敵でした。こんな風に書かれていました、原文の「服」を「香り」に置き換えてみました。
「人が香りをまとうのではない、香りが人をまとうのだ。私たちは香水を腕や胸の形に添わせるかもしれないけれど、香水は私たちの心、頭脳、舌を彼らの好みに合わせて形成する。」
この言葉が特に心に響くのは、スーレマントが何であるかを物語っているからです。
フレグランスのおかげで、極上の瞬間を体験することができる。
さあ、準備はいいですか?

セッションの一コマ。予め何の香りかは明かされないうえ「目を閉じて」と視覚情報も遮断した、文字通りのブラインドテストに沸いた会場。モニターには美しいスーレマント作品のヴィジュアルが多数登場し、19世紀の薬局処方書もお目見えした
2.問診票とブラインドテスト

イントロダクションの後は、スーレマントの世界へ足を踏み入れます。受付で「あなたに最適なスーレマントがわかる」Quiz SLM問診票(写真左)を受け取った参加者は、セッション前に問診結果を書き留めてもらいました。そしてオリビアさんからひとつひとつムエットを渡されていきます。

オリビア 目を閉じて、何の情報もないところで香りを試してください。何が見えるか、何を感じるか、教えてくれないかしら?

誰かが「冷たい」いえば、他の方が「温かい」、「硬い」といえば「柔らかい」…「高僧」「白い大きな建物」「ひげもじゃの偉い人」エサンス・ドゥ・セライでは「卵の殻」という珍答も飛び出しました。答え合わせはヴィジュアルを見ながら、オリビアさんが解説していきます。

オリビア どんな答えも正解よ!6つの香りには、すべて呪文と色を持たせてあるの。香りが変わる度に、何もついていない自分の腕の匂いを嗅いで鼻をリセットしてね。これは私が高砂香料にいた時学んだ最強のリセット法よ。

(ブラインドテスト順に)

フォンテーヌ・ロワイヤル

呪文)フランスの庭園と湧きいずる噴水へ足を踏み入れよう

色)ブルー:流動性

・イエローやオレンジを感じる方が多かったのは、オレンジブロッサムとジャスミンがたっぷり含まれているからね。ローズも使われているから、白くて柔らかくパウダリーな香りに感じるのね。

エサンス・ドゥ・セライ

呪文)オリエンタルな宮殿の中庭でリラックスしよう

色)グレー:啓示

・イランイラン、オレンジブロッサム、サンダルウッドにシナモン、バニラを重ねた、SLMの中でも誘惑的で強いフローラルね。何故そんなに魅惑的で芳醇な香りのボトルカラーがグレーなのかですって?それは全体のコントラストで決めたのよ。最初の5作は2016年に同時発売だったから、全体のコントラストをつけただけよ、マーケティングでなんか決めてないわよ(笑)

キュイール・ドリャン

呪文)無限の地平線を持つ砂漠を探検しよう

色)イエロー:愉悦

・ベルガモット、スエード、オポポナックス、バニラを用いて、グルマンに行きそうだけどそうはなっていない香り。1920年代に登場した、ゲランのゲルリナーデを感じる人が多いのは、ナタリーの処方自体はモダンだけれども、ベースにしている媚薬処方が本物の古い処方だから、歴史を感じるのだと思うわ。

プードル・アンペリアル

呪文)思考とパワーを高める

色)フーシャ:上昇

・この香りの決め手はフランキンセンス。クローブやカルダモンも効いている。クラフトコーラっぽい?他の5作は、商標の問題で19世紀の薬局処方に記された名前をアレンジしているんだけど、プードル・アンペリアルだけは元の媚薬と同じ名前なの。

ヴァプール・ディアブロティーヌ

呪文)相手を惹きつける魅惑の磁力を遊ぼう

色)赤:エネルギー

・スパイス、スパイス、スパイス!この香りの別名は「情熱的な錬金術師」で、オリジナルの媚薬処方では「悪魔を増幅させる」という意味の名前がついているの。ボンデージが目に浮かぶですって?それはラテックスとレザーの効果ね。

オディジアーク・ニュメロシス

呪文)悠久の波の動きに思いを馳せ、心を落ち着かせよう

色)グリーン:鎮静

香水の香料としては珍しい、カスカリラが用いられているのが特徴。ヘイ(干し草)も使っている。この香りが他の5作と違うのは、2021年、コロナ禍の真っただ中に誕生した事で、どこにも行けない時期、どこか違う場所に連れて行ってくれるような、私自身が欲しかった香りを、幾つかの古の処方からひとつ選んで、ナタリーに託し、香水にしてもらったの。

さて…問診票の結果と、ブラインドテストで一番気に入った香りが同じだった方、まったく想定外だった方、どうでした?問診票は、おすすめ精度80%とすごいのよ。取り繕ったり意図して直感で答えないと、ちゃんとした結果は出ないわ。そしてクイズを行う時間、体調、気分でかなり答えが変わってくる。もし問診票とご自身の選んだ結果が異なったら…それは両方おすすめよ!!

セッション1、2とも、最も大荒れに荒れた感想が飛び出たのがヴァプール・ディアブロティーヌで「ジャガーや007シリーズに登場するアストンマーチン(ボンドカー)とか、イギリスのモダンなスポーツカーが持つ内装やレザーの匂い」「ヨード」果ては「昭和の町医者」…さすがのオリビアさんもドン引きで「ちょっと、町医者から離れてみましょうか…?」と促す一コマも(笑)SLM作品は、媚薬処方だけあって滋養強壮に効く原料が多く用いられており、高確率でジンジャーが配合されていますが「ジンジャーは、男性ホルモン(テストステロン)を増強させる効能があって…ムフフ…あ、いやこれは香料の勉強をしたらそう書いてあったのよ!」と、ちょっと照れ笑いしていました。

オリビアさん自身のために作られた香りだったとは知らなかった、オディジアーク・ニュメロシスの制作秘話も飛び出し、キャバレーでは半年間の準備を重ねたLPTも初めて聞く話が多かった
3.叙事香ペルソンヌとアコードたち

オリビア レ・ジャルダン・プロミは、アーティストであり数学者でもあるローラン・デロベールが始めた、既成概念を無視したコレクションです。人類の創世記に書かれた文学に登場する植物を探求し「無限の約束」として考えられた種子のコレクションでもあります。調香師アレクサンドル・ヘルワニは、シンプルさと複雑さの微妙なバランスを称え、精神と感覚が漂う香り、ペルソンヌを創作し、オデュッセウスがたどった道とホメロスの歌に詠まれた植物に私たちを誘います。

天然香料100%で出来たペルソンヌは、フランス文化省モンド・ヌーヴォーの招聘で、ローラン・デロベールが始めたプロジェクトの一環で、オデュッセイアの植物をもとに植物学的な読み方を提供することを目的としています。ビジュアル・アーティスト、音楽家、植物学者、知識人が参加するこの多面的なコラボレーションの結果、非公式な集団が生まれました。ペルソンヌは、これらの対話の結集なのです。

テーブルには、ペルソンヌの他に、古代ギリシア叙事詩オデュッセイアの主人公、オデュッセウスが故郷へと帰還するまでにたどった漂流憚にならった、ペルソンヌを象るアコードから5種が登場。アジアではこのCabaret SLMでしか体感する事の出来ない、とても貴重な前駆体です。

L'Aube(曙の女神):ローズアコード

Les Sirenes(サイレン):コンブ、地中海アコード

Scilla & Charybdis(スキュレ、カリュブディス):グリーンフィグアコード

Nausicaa(ナウシカア):ヒヤシンスアコード

Ithaque(イタケ、オデュッセウスの故郷):マスティックアブソリュート、ローズマリーオイル、ローズウォーター

会場では、サイレンのまんまコンブアコードに悶絶する方、ペルソンヌの核であるスキュレのグリーンフィグアコードに「これ、このまま香水にして欲しい」と絶賛する声もあり、アコードの時点で完成度の高さに賞賛が集まっていました。

オリビア ペルソンヌは、ムエットで試したり、肌に乗せた瞬間は「うわ、なにこれ!」ってビックリする人もいると思うけど、肌に乗せて時間が経つとどんどん変わってくるから、是非肌乗せしてね!またペルソンヌは、初回500本限定で制作して、追加生産は未定です。

4.始まりのコレクション、アタッシェモア

オリビア アタッシェモアは「私を縛って」という意味で、2009年にスタートした、私の最初の香水コレクションです。あらゆる芸術と人生が衝突して一瞬をとらえ、儚い瞬間、喜びと運命の火花をボトルに閉じ込めたコレクションです。4作それぞれ、調香師と選ばれたアーティストとの緊密なコラボレーションの賜物であり、勢いの香りであり、学際的な芸術作品です。最初の作品、アタッシェモアは、ブレスレット型の限定品もセルジュ・マンソーのデザインで制作しました。

こちらも本邦初のアタッシェモア全4作。残念ながら現在処女作アタッシェモア(2009)は在庫限り、他3作は廃番ですが、アタッシェモアは近々リブランディングの予定があるそうで、スマートなウッディアンバーの香りがどう2020年代に蘇るのか楽しみですね。会場では、Ici &Laに人気が集中しており、廃番を惜しむ声があがっていました。

アタッシェモア(2009)のセルジュ・マンソー作ブレスレット型限定ボトル(左)と、グレーのスエードをまとったEDP50mlボトル
5. Meet & Greet

セッション終了後は、お楽しみのミート&グリート。プレゼント品やポストカード、中にはフルボトル持参でオリビアさんにサインをお願いする方や、ツーショット撮影も大変盛り上がりました。普段クールなキャバレー常連のLPT男子が、撮影時満面の笑みでサムズアップして、6年以上の付合いだけど、彼のあんな笑顔を見たのは初めてでした。この場でお見せできないのが残念です。また激しい時差ボケで「昨日は殆ど寝てないの。後半回の途中倒れるかもしれない…」と実は限界に挑戦だったオリビアさんをねぎらうかのような、参加者からの「日本を感じる」お土産に大喜び。キャバレーの準備で色々お持ちいただいたのですが、それを置いても持ち切れず、帰国の日に無印良品でスーツケースを買いました(笑)

左)会場のデジタルサイネージに盛り上がるオリビアさん
中央、右)Meet & Greetの一コマ。皆さんのスマホをお預かりしてTeam LPTがツーショットを撮りまくりました

Cabaret SLM playlist by Gentleman

プレイリストには、オリビアさん激推しのフランス人シンガーソングライター、Zaho de Sagazanが3曲ラインナップ。「私もつい2週間前に知ったのだけど、今フランスで激震の、音楽賞総なめの新人なの。きっと日本でも人気が出ると思うから、要チェックよ(オリビアさん談)」

 

セッション中、オリビアさんが是非見て欲しいと紹介していた、ICONOFLYの新しいウェブサイト。ICONOFLYが包括する4つのプロジェクト(SLM、Les Jardins Promis、Attache Moi、キャバレーでは登場しなかったXYLOFLOR)すべてにアクセスできるプラットフォームです。全世界対応オンラインストアも鋭意準備中で目が離せません!

 

オリビアさん、ご参加の皆さま、ありがとうございました!

 

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