La Parfumerie Tanu

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- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Sketch (1900/1924/2017)

2000年代の中盤から、メゾンフレグランスのトレンドの一つとして勃興している復刻系ですが、一口に復刻系といっても幾つかパターンがあります。2016年、Cabaret LPT vol.2では復刻系ブランドを復興パターン別にご紹介しましたが(イタリア洪水系、Who do think you are系、ベンチャー系)、今回は香調パターン別に仕分けしてみたいと思います。
 
①完全時代劇系(コルセットばりばり) 
 例:グロスミス・クラシックコレクション
②時代考証に甘さのあるハリウッド映画系
(中世ヨーロッパ物なのに召使が中国人、台詞がアメリカ英語丸だし等)
 例:パラッツォ・ベッキオ、ラレー
③現代もの、回想シーン系 
 例:ヴィオレ、ルガリオン、ヴォルネィ
(復刻ものの主流。潰れずに現代まで継続できているブランドも、時代に即応するクラシック香水としてここを目指している)
④ただ古臭いだけ 
 例:イタリア洪水系(カルトゥージアの初期作品)、イタリア修道院系(SMN)、老舗ブランドの過去作品
注:死んでも死んでも蘇るウビガンみたいなブランドは、③と④の中間地点にあり(ケルクフルールなど)①~③とは一線を画した存在
 
メゾン・ヴィオレは過去の処方が発見されておらず、ヴィンテージボトルから香料を分析したのち、使用されているとわかった香料を再構築して、現代の嗜好にマッチした香りづくりをしているので、③に該当します。
 
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スケッチ 75ml
Sketch (1900/1924/2017)
スケッチは、もともと”Ambre Royal”という名前で1900年発売されたものを1924年に再発したものです。時代的に1925年のパリ万博を控えており、当時全くの新作であるプープル・ドートンヌの相棒として、過去のヒット作を名前替えして投入したと思われます。発売当時は「アンブル・ロワイヤル」などと直球で名は体を現していたのに、「素描」を意味する抽象的な名前で再発したスケッチですが、2017年版リメイクには「スケッチは、躰に素描する黄金の鉛筆」という謳い文句さえ添えられていて、より抽象感が増しています。 
 
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香りとしては、姿形はフランス人そのものだが、瞳の色にオリエントの出た美しい女性を髣髴するフレンチシックなオリエンタルで、立ち上がりは、ビターなベルガモットときりっとしたブラックペッパーと共にものすごくスムーズで甘さの控えたローファットなアンバーで幕が開けます。つめたく冷やしたトリュフチョコが口の中ですっと解ける、あの味わいのように滑らかで、オリエンタルを全面に出すのではなく、あくまででバランスの中の一つとして中東5大香料のアンバーがいる感じなのは、この時点でアンバーは地塗りで、主役はローズとチュベローズに譲っているからでしょう。このフローラルとアンバーのさじ加減が淡麗で美しく、体温で温められて立ち昇る香気の甘さに、白檀を主軸とした調合香料をふんだんに用いた国産の香木系線香、松栄堂の 堀川 や四徳の 多聞 を感じるのは、ナツメグや香調には記されていませんが、シナモン、クローブの作用と思われます。ナツメグは漢方ではニクズク、シナモンは桂皮、クローブは丁子と呼ばれ、匂い袋や香に用いられる漢方香料なので、そういう意味では和の要素も含んでいるのが面白いと思います。 

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ですが、スケッチはミドルノート以降、表情が一変します。シャリマーに代表する、華やぎを持った甘露でふくよかなバニラムスクに表情ががらりと変わり、オリエントの血を引く美しいフランス女性が、自らのルーツに気づいた瞬間、世界を隔てていた東西の境界線が黄金の砂塵の様に融け、輝く微風となって彼女をあたたかく包んでいるような、時が止まった世界に変貌していきます。かなりしっかりしたクラシック香水の序破急をもって展開し、経過とともに甘さが増していきますが、売れっ子脚本家が今風に演出したヘンテコ時代劇のようにはならず、よく時代考証のついた、時をこえて共感できる普遍的なストーリー展開になっています。時間がたっても香りが汚れてくることはなく、最初の美しい印象が持続する、幅広い年代にマッチする上手に仕立てられたオリエンタルだと思います。
 
メゾン・ヴィオレ3作品の共通項を一言で表現すると「育ちの良さ」ではないかと思います。香調に奇抜さや斬新さはありませんが、普遍的な美しさ、浄らかさ、潔さ、温かさ、慈しみー未来永劫、人として失いたくないものだとしても、時として守り抜けないものーが、きちんと備わって生まれ、育まれ、紡がれて大人になったような人の横顔を垣間見ます。
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