La Parfumerie Tanu

- We are a non-stop Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

無断転載禁止

Tanagra (2018)

f:id:Tanu_LPT:20190320102403j:plain

彫像が千の言葉を語るなら、タナグラは千の彫像にもまさる

19世紀半ばに創業し、英仏の名だたる万博を賑わすも二次世界大戦後忽然と消失、そしてこの21世紀に蘇ったメゾン・ヴィオレ。昨年2月のロングインタビューを含むLPT特集や、Cabaret LPT vol.7 'Age of Neo-Powderist'、そして弾丸特派員による現地取材と、復刻当初からその動向を注視してきた重要ブランドであるヴィオレから、復刻第4弾となる新作、タナグラが登場しました。タナグラは、フランスの国立女性保護団体、ソリダリテ・ファムが制定する「女性に対する暴力撤廃の国際デー」である11月25日に発売され、売上利益の20%をソリダリテ・ファムへ寄付される事でも話題になりました。ゾンビが社会貢献!長らく復刻系を追い続けているLPTですが、売上の一部を寄付というと、どうしても大手企業主導な慈善事業のイメージが強いので、復刻系メゾンフレグランスブランドがこの手の活動を行うのが結構新機軸に思いました。往年のグロスミス社も、香り付きカード募金用ムエットを卸していましたが、それはあくまで募金用の素材を販売していただけで、ブランドが売上の何割かを寄付するのとは全く違う話ですから、駆出しブランドとしては市場浸透の一助になかなか知恵を絞ったな、と思いました。
 

f:id:Tanu_LPT:20190320102712j:plain

タナグラ EDP 75ml

古代ギリシャの地名であり、紀元前のテラコッタ彫像も意味するタナグラは、女性美を象徴するいにしえの麗しい彫像を想起する香りとして、1920年代にオリジナル版が発売されました。原処方が残っていないヴィオレにとって、元の香りも残っていなければ、あとはボトルイメージとネーミングにインスパイアされて作品を再構築していくわけですが、2018年版タナグラもそういう意味では中身は全き新作で、テーマは「女性礼賛」。香りとしては、女性が生まれながらに持っている繊細な優しさや壊れそうな美しさを、香りで表現した儚げなフローラルで、ヴィオレ作品中最強の顔面蒼白美少女系。その儚さは過去作として一番近似値であるプープル・ドートンヌを上回ります。清浄なアイリスに、蕾がほころび始めたばかりのように柔らかなフリージアと瑞々しいバラが、それはそれは薄い衣のように重なり合い、ようやく肉色(英:Flesh Pink)に染まるような透け感(透明感とは違う)を感じます。過去3作に共通するアイリスの地塗り、ヴィオレ・トーンは健在ですが、粉物感はやや控えめです。ムエットより、肌に乗せた方が体温で硬さが抜け、より柔らかな女性らしい香りになるので、もしムエットでの試香で購入を検討している方は、材木系イリス感が実装でだいぶ引くと意識しながら嗅いでください。とにかく低体温でローファットな香りなので、これを女性に対する暴力撤廃の国際デーに合わせて発売するのはちょっと季節が悪かったかな、と年末に実装して「これは春夏向きかなあ」と、諸々あってご紹介が今時分にずれ込んだのは怪我の功名でした。

f:id:Tanu_LPT:20190320102344j:plain

ここまで儚げな香りで守るべき女性を表現されると、生来がさつで愛想も小磯もない自分は女性を名乗るのが申し訳ない気分でいっぱいになるのですが、そもそも繊細な香り作りが得意なブランドが、真綿のように柔らかく壊れやすい存在というイメージで女性を表現しているのですから、こうなるのも納得です。いい意味で突っかかる部分がありませんので、つける場面を選びません。ソリフロール系ではありませんが、主軸となるフリージアの、可憐ながら芯の強い美しさが際立っており、これがひと昔前のフリージア系フローラルなら、確実にベースに胃もたれ要素を盛って甘さで押してきましたが、そこを敢えてスルーし、甘さに女らしさを求めないところがヴィオレの指導監督である重鎮、ナタリー・ローソン流であり、チーム・ヴィオレの美学なのだと思います。春の球根系の香りがお好きな方にもおすすめです。持続も儚いので、朝付けて自分にはない優しい女性を補完し、夜には素に戻ることも可能です。
 

f:id:Tanu_LPT:20190320102701p:plain

発売に合わせ送付された、タナグラのブロガー向け資料。レビュー遅くてすみません

2017年10月から1年間営業したチームご対面型ショールーム、サロンドパルファムを終了したメゾン・ヴィオレは、現在オフィスを同じパリ市内に移転、直接チームと会って香りを選んだり原料を紹介してもらう場はなくなり、昨春の弾丸特派員取材は貴重なものとなりましたが、積極的にソーシャルメディアを中心に発信しているので、投稿を見るたび「若いよな~」とちょっとだけ苦笑しながら、ついつい親心で応援しています。

 


チーム・ヴィオレの一人、ヴィクトリアンによるメゾン・ヴィオレのビデオ。
MoovJee映像コンペティションにエントリー中
 
現在メゾン・ヴィオレは世界11か国、中東やアフリカを含む21拠点まで販路が拡大(2019年3月現在、英米未踏)、またフレグランスのサンプリング・サブスクリプションサービスへも参入して、広告宣伝ではなく鼻で知ってもらう旬の販促活動に注力していますが、相変わらず日本発送対応してくれるオンラインストアが殆どないので、日本からは前回ご紹介したエストニアのFragrance Gallaryからの入手(但しタナグラの扱いはなし)か、フランス等の西欧へお出かけになる方にお願いするか、ご自分で足を運ぶ際のお土産購入が現実的のようです。もう少し日本と距離が縮まると嬉しいですね。
 
資料提供:アントニー・トゥールモンド(メゾン・ヴィオレ)
contact to LPT