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Cycle 001 (2020) | Join the Circle, Cycle by Violet

3月から始まった未曾有のロックダウンから2ヶ月が経ち、5月11日に解放されたフランス。公共交通機関の利用はマスク着用が義務付けられるなど「新しい日常」がかの地でもスタートしています。コロナウイルスは、世界中の様々なイベントや企画を中止や延期に追い込みましたが、新作発売が延期になった香水ブランドも枚挙にいとまがなく、メゾン・ヴィオレも、全身全霊でぶつかっていた新プロジェクトの発表に待ったをかけられたブランドの一つでした。
 
3月の終わり頃、ヴィオレのチームメンバーであるアントニー・トゥールモンドさんからこんなメールが届きました。3月末と言えば、日本でもいよいよ緊急事態宣言の是非が問われ始めた頃で、欧州では次々にロックダウンに入っていた時期です。
「…こっち(パリ)はコロナウイルスが、あっという間に広がっていく様子が凄くて…なんとか早く収束して欲しいです。僕自身は、色々な事を少しずつだけどゆっくり進めながら家族といる時間が増えて、まずまず楽しくやっています。実は、ちょうど先週ビッグプロジェクトを公開する予定だったんです。コロナのせいで何もかもが延期になってしまいました。これから先の目処がたって、僕らがずっと頑張ってきたプロジェクトのことを沢山話せる日が来るのを、今から楽しみにしています」
 
とつとつと、言葉を選んで綴られていた3月末時点での近況に、ヴィオレの彼らもまたコロナの濁流に呑まれた事を知り、大変心配しましたが、その半月後
「ロックダウン解除の発表があったんだ。後たった1ヶ月我慢すればいいんだよ!この状況下でプロジェクトの準備をし直すのは本当に大変だったけど、改めてまた連絡します!」
手短ながら、弾むような気持ちが伝わるメッセージから更に1ヶ月がたった5月21日、遂にLPTへ公式にプレスリリースが到着しました。
 
新プロジェクトとは、まさかのクラウドファンディングによる新コンセプトのフレグランス・サービスでした。

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サイクル001 パルファム 2mlサンプル(メゾン・ヴィオレ提供)
1827年創業、2017年再興のリバイバル・ブランド、メゾン・ヴィオレは、これまでエリタージュ・シリーズとして過去のアーカイヴを現代的に再構築した、繊細でたおやかなモダンクラシック系フレグランスを5作発売していますが、このサイクル001は、 エリタージュとは全くの別ラインです。①100mlサイズのフルボトル(定価€87、約11,000円)を限定1000本、公式サイトのオンラインストアで発売し ②リフィラブル仕様のガラス製スプレー式ボトルを購入した方のみ、200mlのアルミニウム製リフィルボトル(定価€110、約13,600円)を購入でき ③リフィルボトルは、基本ボトル完売後も継続購入可能 ④ただし、一般発売前にクラウドファンディングで支援者(バッカー)を先行募集し、目標金額€27,900(約345万円)に達しない場合は、企画終了、一般発売中止ーという、クラウドファンディングのゴールが大前提での新作となります。

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左:メゾン・ヴィオレ(左からポール・リシャール、アントニー・トゥールモンド、ヴィクトリアン・シロ)右:パトリス・ルヴィヤール 4人は同期生だがパトリスは薬科大を出た後入学した為年齢的にはヴィオレの3人よりちょっとパイセン

調香は、独立系のアトリエ、メールストロムに所属し、かのリリス・ド・ファットを手掛けた気鋭の若手、パトリス・ルヴィヤールで、なんとメゾン・ヴィオレのチーム3名とは調香学校エコール・シュペリエール・ドゥ・パルファムの同期生。彼らは5年間共に机を並べた仲だったので、ヴィオレの復興シリーズ、エリタージュではフィルメニッヒの重鎮、ナタリー・ローソンが調香を手掛けていますが「僕らとパトリスはクラスメイトだったし、学生時代からずっと一緒に組んで何かやりたいと思っていた(アントニーさん談)」というヴィオレチームの念願かなって、卒業後、フィールドは同じでも活躍の場が分かれた同級生が、サイクル001プロジェクトで合流できたーというわけです。

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左:200mlリフィルボトル(アルミニウム製) 右:100mlスクリュートップ式リフィラブルボトル(本体:ガラス、キャップ:木製)
公式香調はフローラルムスクとなっていますが、香りは至ってユニセックスな、あっさり目の粉物ベチバーという感じで、一応賦香率20%のパルファム濃度という事になっていますが、むしろもっと軽めで、使う時も他のヴィオレ作品同様、全身にたっぷりふんわりまとっても香りが強すぎることはありません。むしろこの賦香率の高さで、オードトワレの軽やかさとパルファムの控えめな拡散性をうまく両立しています。
サイクル001のキーノートは、セリ科の植物アンジェリカ。アンジェリカと言われても、香水原料としてさほどポピュラーではないので単体でのイメージがよくわからないのですが、体感としてはサイクル001から香る「熱っぽく、スパイスっぽくもあるハーバルでミネラル感のある香り」の主軸がアンジェリカなのだと思います。ヴィオリナーデ(Violinade)とでも言うべき、ヴィオレの共通トーンであるパウダリーアイリスがちゃんとあるのですが、色々盛ってなくてシンプルで、熱っぽいミネラル感というとLPT読者はガニメデ(マルク=アントワーヌ・バロワ)を彷彿するかもしれませんが、ガニメデのような岩場のゴツゴツぽさはなく、重ね合わせているフランキンセンスとアンブロックス(フィルメニッヒ社製のポピュラーなアンバー系合成香料)のおかげで、透明感がありながらもほんのり紫煙または朝靄に包まれたような落ち着いた柔らかさがあり、パウダリーな表情はアイリスだけだと更に硬質になるところを、ヘリオトロープでうまく丸め、ムスクで肌に吸い寄せている為、どこか懐かしさすら感じる親しみやすさを感じます。 
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サイクル001のサンプルアトマイザー。シンプルなカバーにコンセプトが凝縮されている
サイクル001を一言でいうと「上質な普段着」。ヴィオレのエリタージュラインがハレの香りなら、サイクルは上質なケの香り。毎日着る服をコーディネイトする時、とりあえず手が伸びる、合わせやすく出番の多い、気がつくとこればっかり着ている、仕立ての良い白いシャツーいつから着ているかも覚えていないけれど、あの時も、あの時もこのシャツを着ていたっけ。久しぶりに故郷に帰る時も、長く列車に乗るから着慣れていて、でもちゃんとした「いつもの服」が一番だから…。誰にでもある、でも自分にとってはかけがえのない、温かい思い出とか風景、時につながるケの香りだから、懐かしさすらある親しみやすさを感じるのかもしれません。
サイクル001は、エリタージュラインと比較して、ミリ単価換算だとサイクルは€0.87(エリタージュラインの2/5)、リフィルボトルに至っては€0.55(同1/4)で勝負しようとしています。このプロジェクトは、釣り上がっていくだけの香水の価格を(品質を伴った状態で)あるべき姿に戻す、ヴィオレの挑戦状ではないか。昨今の香水のバカ高さに対しての、彼らなりの反抗だと思うんですよ。「良い香り」の層を、身の丈の価格帯に戻そうとしている。長く愛用できる、良い香りの新作香水というのが現在、サイクル001の価格帯は、すっぽ抜けていますので、20代半ばの、普通の人が、自分の香りとして分け隔てなく手に取れる、しかもありきたりじゃない、よく出来てるなって思えるものがいま、本当に少ない。本来だったら中間価格帯の良作はメインストリームブランドの役目であるはずなのに、責務を果たすどころかメゾンフレグランスのトレンドに迎合し、販路限定シリーズで価格帯を釣り上げるという残念なビジネスモデルが当たり前になってしまいましたし、メゾンフレグランスは相対的に高くなり過ぎました。それこそ15年くらい前のオーモンドジェインとか、良い穴を埋めてたわけなんですけど、成功すると欲が出てきて、今みたいな「松竹梅鶴亀、狸なし」みたいになっちゃう。そのエアポケットを埋めたいんじゃないのかな、と。これは一度、そういう事なのか本人達にも聞いてみたい所です。
 
更に言うなら近年、ユニクロやH&Mのようなファストファッションブランドが、ハイエンドデザイナーとコラボして商品を出しています。最近ではZARAがJo lovesとコラボしてフレグランスを出していますが、普段使いの香りなんて、本来はそれで充分なんですよ。一着数十万円のモードを数千円で作って、まずまず良い線行く。あとは着る側の伸び代でスタイルが完成する。数年前、ツイリーの発表会に代行参加した際、ユニクロのワンピースをエルメスの広報にめちゃくちゃ褒められた。今思い返せば、あれはUniqlo Uのワンピースだったんで、デザイナーはクリストフ・ルメールで、エルメスのデザイナーだった人です。なるほどエルメスの人に褒められるわけです。でも裏を返せば、それは莫大なスケールメリットがあるから実現できるエアポケットの穴埋めであって、ヴィオレのような小さなブランドでそれをやるのは難しい。だからクラウドファンディングという、いわば公開質問みたいな形で是非を問うてる部分も見えるんですよね。そこがLPTとしてはすごく面白いなと思っています。ただし、冒頭でも説明しましたが、クラウドファンディングは、一見オンラインストアの予約販売のように気軽にプレッジできますが、プレッジが期日までに目標額に達しなかった場合、そのプロジェクトは時間切れとともに消失するので(もちろん、香水の場合処方は完成しているので、そこから一般の販売スキームに切り替えて仕切り直しする可能性もあるが)、新作を発表し、売れ行きを見ていくのと違い、製品として世に出せるか出せないかが、現時点ではわからない不安を抱えながら時間が過ぎていく、というのは別次元のプレッシャーだと思います。
 
6月2日よりクラウドファンディングのプラットフォーム、Kickstarterで応募が始まり、7月17日のゴールまで40日を切りましたが、6月8日時点での到達率は32%、バッカーは101名(うち日本からは8名)と、勢いが命のクラウドファンディングとしては若干弱含みなのが気がかりです。確かにまだまだコロナが終息していない今、あえてフレグランスに支援する人がどれだけいるのか、と俯瞰して考えた場合、厳しい道程ではあるのは否めませんが、何がなんでもゴールしてもらわないと、このレビューも絵に描いた餅になってしまいますし、個人的にもどうしてもサイクル001は欲しいので、是非とも10月、フルボトルとリフィルボトルをこの手にできるよう、LPTは心より応援しています。
 
<サイクル001は、サンプルを試してからプレッジが可能です>
 
備考:リワードの種類およびバッカー現況(2020年6月8日現在)
・リワードなしでプレッジ(投げ銭):€1〜
・A huge thank you(投げ銭&新作先行案内):€5〜
・Exclusivitiy on the next Cycles(今後のサイクルシリーズ3作のサンプル先行発送):€15〜
・100mlリフィラブルボトルのみ 早割: €79(10%OFF)+送料€11 150個中残り138個
・100mlリフィラブルボトルのみ 定価: €87+送料€11 300個中残り290個
・100mリフィラブルボトル+200mlリフィルボトル 早割(30%OFF): €150 30個中残り21個
・100mリフィラブルボトル+200mlリフィルボトル セット割(10%OFF): €179 30個中残り24個
 
※100mlリフィラブルボトル アンバサダー割(25%OFF) €66 50個完売
 
ゴール €27,900に対し€8,928達成(約32%)
バッカー総数 101
うち日本 8(東京:5)
 
 
 
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