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I'm a Stranger in Arab 6 : Surrati and "designers inspired" fragrances

Arabian mainstream house 6 : Surrati and "designers inspired" fragrances

アラビアン・フレグランスの世界には、”デザイナーズ・インスパイア系”というジャンルが確立していて、欧米の人気香水を模倣した香油が星の数ほど存在しています。コピー品の後ろめたさはゼロ、それどころかどのメーカーも「○○よりも持続性と香り立ちを高めた、100%オリジナル純正品」と、口が裂けてもそれがコピーだとかパクリだとかは言いません。良きインスパイア品を本家より安く、一桁安く作ることは、彼らにとってオリジナル品への大いなるリスペクトな訳です。大迷惑ですけどね

最近ではウードを取り込んだ欧米のトレンドを逆輸入、各ブランドのコレクションラインや中東限定品のインスパイア系が、すぐに登場します。アルマーニ・プリヴェなんか大体あるんじゃないかな。中でもトム・フォード品は早い。先週、ロストチェリーのインスパイア版が出ていました。

トム・フォードのインスパイア系といえば、なんといってもサウジの老舗メーカー、スラッティが出したウード・ウッド(OudWood)のインスパイア系、その名も堂々「トム・ウード(TomOudh)」。アラブでは頭に「トム」とつけると信頼度が増すらしく、他にもアラビアン・ウッド(ArabianWood)は「トム・アラビアン・ウード(TomArabianOud)」、タスカン・レザー(TuscanLeather)は「トム・タスカン・レザー(TomTuscanLeather)」と見も蓋もない名前でいちいち大ブレイクして、5年前でもアラビアン・フレグランスショップにサンプルを依頼すると、まず確実にトム物が入ってきました。

インスパイア系で荒稼ぎをしているアラブ2大メーカーは、このスラッティと、前半でご紹介したスイス・アラビアンでしょう。スイス・アラビアンも、ジボダン香料使用の強みを活かして、せっせとインスパイア品を出しています。それでは、インスパイア系の2傑をご紹介します。

14,14-1.Tom Oudh aka Tom Ford Private Blend Oud Wood (2007)

まずはトムフォードとスラッティです。赤い印がついているほうがインスパイア系です。今回ムエット作成用の比較資料として、オリジナルのトムフォードの方を揃えるのに苦労しまして、5年前は小分けで買って比較したんですが、ウードウッドを小分け販売しているところがなくて困っていました。ボトルを買ってしまうと、一気に今回のキャバレーの予算が吹っ飛ぶし、ムエット作るためだけに買うのもなあ、と丁度1月上旬にMeet LPTがあったので、ぽろっと「ご参加の方で、ウードウッドをお持ちの方はいらっしゃいますか」と聞いてみたところ、なんと「持ってますよ」という男性がいて「すみませんが少し分けてもらえませんか、郵送で」といったら「今持ってますよ」「スクリュー瓶も持ってます」と、いきなり通勤カバンからウードウッドのボトルと空の瓶を取り出して、何事もなく分けてくれました。いやもう本当に驚きました。この場を借りて、改めて御礼申し上げます。皆さんがこうして本物のトムフォード品とバッタモンの香油を、今ここで比較できるのも、そのLPT男子のおかけです。LPT男子に、拍手!!インシャッラー!!

池袋でも売ってるトムフォードの香りは、アラブ諸国でも大変人気で、海外の香水コミュニティでは英語に混じってほにょにょにょにょ、おにょにょにょにょにょ、と高確率でアラビア語のコメントが入ってきますが、中でもアラブでぶっちぎりの人気を誇るのがウード・ウッドで、インスパイア系のトム・ウードもメガヒット続投中です。ローカロリーなスパイシー・ウッディで、ウードを看板に持ってくるほどのウード感はなく、色々混じってレザー様に感じ、欧米の香水らしくベースには表層のウッディノートの下にバニラとトンカビーンが鎮座しているところが、実のところ欧米のファンをつかんだ所以かもしれません。スラッティ版もうっかりするとすぐに濃ゆいヒゲが生えそうなところを寸止めで薄口にとどめているのがわかりますが、オリジナル版よりレザー風味が強く、結局ヒゲが生えかかっています。男は、ヒゲ剃りたての朝よりうっすら顎が灰色になってきた夕方の方がセクシーだ、という方にはスラッティ版をおすすめします。ウー度は星2つ(★★☆☆☆)。

15,15-1 Black Afghano aka Black Afgano by Naso Matto

ラストは、今月某ストアの六本木店にお目見えした、オランダはアムステルダムのニッチ系ブランド、ナーゾマットです。なぜ今ナーゾマットがわざわざ日本上陸したのか、このブランドが話題沸騰していたのって、出始めの10年くらい前ですよね?当時としては目新しかった、パルファム濃度しか作らない、オランダのアンチパフューム系ブランドです。同じタイミングでナーゾマットの人がやってる別ブランドも上陸しました。オランダのブランドだったら、もっと先に上陸させるべきものがある気がするんですが、誰かが強力にプッシュして、代理店の敏感なアンテナに引っかかったのがこのブランドなので、仕方がありません。それが日本です。

さてこのナーゾマットのインスパイア品として登場したのは、オリジナルと同姓同名のブラック・アフガーノです。2010年代に登場してくるニッチブランドのへヴィ系ウードブレンドが、この辺りを標準時にしている感がありますし、そこを中東に再輸入して大ブレイクさせたのがスイス・アラビアンです。ナーゾマットとしても代表作のブラック・アフガーノは、スイス・アラビアンにとっても2010年代における裏の屋台骨と言う程のベストセラーになりました。この香りはカナビス(大麻)香料を使用し、一時的なトリップ感が味わえるのが売りですが、断じてそのようなことはありません。普通です。本家の終始表層に漂う、カナビスとおぼしきハッパ臭さが、オイルベースのためかかなり抑えられ、その分香気がまろやかに感じます。甘く香付けされたタバコと深煎りのコーヒーに、ウードをまぶして樹脂でまるめた丸薬という印象はそのままですが、肌馴染みのよさと持続性、そして発散する香気は、個人的にはスイス・アラビアンの方が上に感じます。ミステリアスな表情のわりにはつけやすいと思います。なお、ナーゾマットではウェブ限定でブラック・アフガーノの香油も販売しているので、本家のアンサーバックも是非聞いてみたいところ。ウー度は星3つ(★★★☆☆)。


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<Brand information>

Official website : http://www.surratiperfumes.com/

日本への発送対応:なし

日本からの購入方法:中東系オンラインストアまたはeBayなどの出品ストア


それでは、香りの紹介は以上です。今年のキャバレーは今回で終了で、春以降の開催はありません。また来年お会いできるのを楽しみにしています。ありがとうございました!

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