La Parfumerie Tanu

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Bienaimé 1935 : La Vie en Fleurs (1935), Vermeil (1935), Jours Heureux (1949) revived in 2021

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前回のブランド紹介に続き、本日は復興ビエナーメが蘇らせた3作をご紹介します。
 
昔の香水の広告を見ると、現在の香水販売と違い、物凄くバストイレタリーラインが豊富だったことがわかります。昔の、と断り書きしなくても、例えばざっくり30年ちょっと前、日本でいったら昭和の終わり位までは、今よりはるかにトイレタリー製品がラインナップされていました。資生堂やポーラ、メナードなどの国内メーカーも頑張っていて、LPTで保管している戦後昭和の国産香水の中には、商品カタログがパッケージに封入されているものが多く残っていますが、当時は香水(パルファム)を頂点に、オーデコロン・香水石鹸・ボディクリームまたはボディミルク・ダスティングパウダーが揃っているのが普通でした。ちなみに、資生堂のクラシック香水(オーデコロン)には、現在もパフュームパウダーがありますが、低価格帯でもミニマムなバスラインとして高温多湿の日本に相応しいボディパウダーを作った名残です。
今のようにドラッグストアでそこそこのバスプロダクトが手頃に買える時代ではなく、トイレタリーでも浴用石鹸とシッカロールがミニマムなケのバスラインだとしたら、同じ香りの香水石鹸で体を洗い、オーデコロンでリフレッシュした後にボディクリームとダスティングパウダーで整え、仕上げに香水をつけるのがハレのバスラインでした。海外製品なら、そこにヘアケアやデオドラントも加わり、ご婦人の化粧台はさぞ賑やかだったと思います。お風呂でリセットし、化粧台の儀式で誰もが美しくなれる「夢」がありました。そこに容姿や年齢は関係なく、儀式そのものがかぐわしく美しい-それが豊かな香水文化だとしたら、今の香水に一番欠けているのは「夢」だと思います。

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コーポレートカラーが見事に香りの世界観を現わしているビエナーメ1935のラインナップ
ビエナーメ1935は、オリジナルに対し大いなる敬意を表し、戦前~戦後25年間にビエナーメ社が輩出した香りから代表作を3つ選んで復刻しましたが、一番の特色は豊富なバスラインとアクセサリーを一挙同時発売した事で、現在のラインナップは
《香水・バスライン》
・オードパルファム 75ml €145(アルミ缶入リフィル:100ml €95)
・香水石鹸(固形) 150g €25
・リキッドソープ 200ml €36(アルミ缶入リフィル:250ml €28)
・ボディバーム 200ml €65
・リップバーム 10g €18
・サンプルセット 3ml x 3種 €20(フルボトル購入時に値引)
《アクセサリー》
・トラベルスプレー(革ケース付、15ml空容器 €45)
・ソープトレー €35(シェル型、オーバル型の2種)
・海綿 12cm €25
・コスメポーチ2種
と、メゾンブランドとしては多分最もバスラインの豊富なマルちゃんも唸りそうなラインナップです。ビエナーメ社は女性物がメインだったようで、昔の広告を見る限りではメンズのバスラインが出てきませんが、そもそもマルちゃんは体力が段違いな世界企業、エスティローダーの1ブランドだからこそできるライン展開だと思えば、個人オーナー、セシリア・メルギさんの気合とこだわりがぐいぐい伝わってきます。ノスタルジックでガーリーなパッケージデザインは、リピーターの為にEDPとリキッドソープのボトルはリフィラブルタイプ、かつ手頃でお得な詰替用リフィルもあります。陶器製ソープディッシュやコットンのコスメポーチなど、プラスチックの使用を最小限に留めるサスティナブルな環境保全志向、さらに生活保護受給者やシングルマザー、独居生活など苦境に立つ女性に美容サービスを行う支援団体、ジョセフィーヌ・アソシエイションをサポートするなど、SDGs的意識が高く、ブランド復興が単なるノスタルジアに終わらない所はさすがコンサル出身という気がします。また香水は本製品に3mlサンプルを付属、まずサンプルを使用し、香りが気に入らない場合は、未開封に限り購入から15日以内に返品可能と、現時点では実店舗展開を行わないブランドでも安心して買ってもらえる工夫を凝らしています。
 
続いて香りをご紹介します。3作とも大なり小なりおばあちゃんの化粧台系で、男子禁制、いい匂いのする女の子が、何十年もいい匂いで、そのままいい匂いのおばあちゃんになるんだな、という「いい匂いの系譜」を一滴の香水に凝縮したような、かつバスラインへの展開が容易なパウダリーフローラルブーケです。共通の花香料を多用していますが、主軸となる香料で表情が少しずつ異なります。いずれも①香りの序破急がしっかりあり②ふわふわとした軽やかな香り立ちながら非常に長持ちする③「懐かしさ」と言う心の琴線に触れる優しい香りで、この共通項はセシリアさんがメールストレム側に依頼した基本事項なのだと思います。現代の持続可能な香料のみで作られている香りなので、当然クラシック香水を形作るニトロムスクのような乾いたムスクやアニマリックなノートのように、官能を刺激するような要素は感じませんが、その代わりこの時代を超越した、心の包帯としても愛用できそうな、どこまでも体と心を緩ませる「なつかしい潤み」は、クラシック香水をちゃんとわかっていないと作れないはずで、いずれも決して雰囲気上等のレトロ香水に終わっていないのが特徴です。復興系の中ではヴィオレ、ウビガンなどアイリス使いの上手いメゾン、最近物ではシルヴェーヌ・ドラクルトなど優しい作風のブランドがお好きな方にお試しいただきたいと思います。

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オードパルファム75ml リフィラブルボトル、このほかに100mlリフィル缶がある
La Vie en Fleurs (1935)
トップノート:ラズベリー、マンダリン
ミドルノート:ピオニー、バイオレット、ローズ
ベースノート:ホワイトムスク、アイリス、ヘリオトロープ
調香:マリー・シュニレ(メールストレム)
 
3作中、一番ブーケ感が強く、花々が混然一体としているラ・ヴィ・アン・フルール。人生花盛り、みたいな幸せいっぱいの名前通り、確かにケルクフルールを生み出した作者が残した香りを蘇らせた、とクラシック香水ファンならすぐにわかると思います。主軸はフランス香水の王道であるローズとバイオレットのコンビで、そこに少しだけフルーティなマンダリンとピオニーが重なり、ベースの甘さを抑えながら軽さを出しています。体温とベースのムスクが溶けあい、どんどんクリーミィなパウダリーフローラルになっていきます。ノスタルジアが一番前面に出ているのもこの作品で、パッケージのイメージそのものです。ある意味復興ビエナーメ1935の顔とも言うべき香り。色でいったら乳白色から桃色のグラデーション。オロナイン系が好きな方にもおすすめです。
 
Vermeil (1935)
トップノート:キャロットシード、アルデヒド
ミドルノート:アイリス、バイオレット、ローズ、ラズベリー
ベースノート:ホワイトムスク、トルーバルサム、サンダルウッド、ヘリオトロープ
調香:パトリス・ルヴィヤール(メールストロム)
 
銀に金を厚く貼り付ける工芸手法、ヴェルメイユ。地金は銀ですが、表面は10金から22金まで、金そのものの高級感が、単なるメッキとは全く違うヴェルメイユを名に持つこの香りの主役はアイリスとバイオレット。3作中最も粉物感が炸裂し、アイリス好きにはたまりません。さすがは戦後アイリス香水の権化、イリスグリを再生させた実力のあるパトリス・ルヴィヤールだけあって、粉物さばきが上手です。アイリスとバイオレットのバーストと言う点では、近似値にヴィオレのプープル・ドートンヌがありますが、同じ組合せでもベースが冷涼で少しだけ硬さがあるシプレベースのプープル・ドートンヌと比べ、トップにキャロットシードとアルデヒドを置き粉物感120%増し、かつベースにヘリオトロープとトルーバルサムのあるヴェルメイユは、ミドル以降が圧倒的に柔らかく、パウダリー感を維持しながら、とろけるように肌になじみ、クリーミィに落ち着いた後も細く長く、しっかりと香ります。色でいったら金砂混じりの薄紫。パトリス作としては、現時点で最高得点をあげたい逸品。
 
Jours Heureux (1949)
トップノート:アーモンド
ミドルノート:カーネーション、バイオレット、ゼラニウム、ローズ
ベースノート:バニラ、ホワイトムスク、トンカビーン
調香:マリー・シュニレ(メールストロム)
 
「しあわせな日々」を意味するジュ・ゼルゥ。Jours Heureuxはフランス語の決まり文句で、日本でもパン屋さんやレストランの名前で見かけますが、ジュール・ウールーと表記されている事が多いものの、実際の発音ではリエゾンし、とてもカナ表記できる代物ではないので、LPTでは音声アプリで100回位再生して一番近いカナ表記のジュ・ゼルゥにしました。
ジュ・ゼルゥの決め手はアーモンドとカーネーション。若干硬めなアーモンドの立ち上がりから、程なく緩み真っ白な中、芯にうっすら紅色の温かみを感じる、マットな粉物フローラルに展開します。同じ粉物といっても、こちらはクマリン香の甘さがあり、アーモンドにほんの少しクローブ香の重なるカーネーション+バニラトンカで、ミドル以降は他2作と同じく、ぐいぐいクリーミィになっていきます。心の包帯として一番有効なのがジュ・ゼルゥで、シルヴェーヌ・ドラクルトのフロレンティーナのヘリオトロープ・アーモンド・バニラムスク包帯で傷が治った覚えがある方には、そのクラシック版として想像してみてください。

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今一番欲しい香り、ビエナーメ1935のヴェルメイユ。他2作も甲乙つけがたい
3作とも、3mlという限りあるサンプルの範囲でできるだけ実装し、最後の1滴はムエットに含ませ言葉に変換する努力をしましたが、ただ「ああ、もうなくなっちゃった」「もう一度使いたい」「日本に送ってくれるといいな」「何とかしてフルボトルが欲しい」…何とかしてビエナーメ1935作品を日本にいながら手に入れることはできないか、そのことで頭がいっぱいで、言葉が続きません。ただ、過去を振り返り、2018年初め、LPTは復興直後のメゾン・ヴィオレをいち早く紹介しましたが、当時は日本発送未対応だったのが4年後の今や、日本はヴィオレ主要販売国第3位、国内でも流通している事を思うと、将来何が起こるかわかりません。ビエナーメ1935の成長を心から願い、発送が世界対応となり、日本へも送ってくれるか、日本上陸する日まで、諦めずにフルボトルをお迎えし「いい匂いの子供おばさん」にアップグレードする日を指折り夢見ていようと思います。

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2022.3.31追記:現在はまだEU圏内のみ発送対応のところ、オーナーを拝み倒して特別に日本へ送っていただきました(写真)。あまりに激アツなアプローチをしたせいか、なんとビエナーメ1935は近日中に日本を含む世界発送対応開始!日本発送が始まりましたら、またLPTからお知らせいたします。
 
2022.5.12 追記:
ビエナーメ1935が、日本を含む世界配送対応を開始しました。
日本向け送料は€35、€400以上で送料無料になります。配送はフランス郵便(La Poste, Colissimo)。
ビエナーメ1935公式サイトはこちら

今回ご紹介したビエナーメ1935作品のサンプルは、LPT読者向け会員制コミュニティストア、agent LPTでお試しいただけます。

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