La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

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Compliment (1939/2021)

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しじまの中にも、あるいは賑わう会話のさなかにも
何もない時 あるいは日常にただ流される時でさえも
ほめ言葉はあなたのために
 
鏡に映る姿、あるいは人の眼に映る姿にも
雑踏にひとり あるいは何もかもが遠くにある時でも
ほめ言葉はあなたのために
 
あなた、あるいは誰かのために
わかっていても、いなくても
たったこれだけ言えばいい
ほめ言葉はあなたのために
 
なぜなら ほめ言葉はお金で買えない贈り物
ぱっと掴んだ一束の光明が 頬を赤らめ唇を緩ませる
 
そんな詠み人しらずの言葉たちが香りになった
ふたつの世界が一つになって、胸はずむ香りの力が生まれる
ふたつの世界、それは
コンプリマンとあなた
 
リバイバルブランド、ヴィオレの柱である復刻シリーズ、エリタージュ・コレクション最新作、コンプリマンが、前作ニュエ・ブルー(2019)から1年半ぶりとなる2021年5月25日に世界発売されました。この間、世界は「コロナ前」「コロナ後」という二つの世界に分断され、ニュエ・ブルーはコロナ前最後の、コンプリマンはコロナ後最初の作品となります。

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コンプリマン パルファム 75ml
コロナウイルスが人の眼に最も露わにしたもの、それは人間の内面性ではないかと思います。何もない時にはうまくマスキングされていた社会の歪みー大きくは国家間、民族間、小さくは自身が身を置く人間関係の歪みや「正義感」という鉈を振り上げるうっぷん晴らしの弱者いじめまで可視化してしまい、感染予防対策も相まった閉塞感に苛まされる中、ウイルス自体は人間を差別しないのに、差別を生むのは人間。大なり小なりどこの国もそんな感じです。そんな1年半を経たヴィオレチーム達も、コロナの影響で数えきれないほどのリスケジュールに翻弄され、更にはチームから罹患者が出るなどの苦境を乗り越え、ようやく世界へ届けることのできたエリタージュ第6作は、まさに誰もが苛む心の擦り傷を、たったひと吹きで癒すような、晴れ晴れとした明るい香りの花束でした。4月の先行サンプル配布時、腕にひと吹きした瞬間、そのあまりの明るい美しさに「うわっ」と声が出てしまったくらい、発売が待ち遠しかった香りでもあります。
 

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コンプリマンは、1939年に発売されたフローラル作品、Compliments(リバイバルのコンプリマンは単数形のCompliment)の復刻で、戦前とはいえ82年前と比較的時代が新しいためか、状態の良いオリジナルボトルがヴィオレ側に現存しており「ヴィンテージは戦前のゲラン作品に印象が近いかな。イランイラン、ジャスミンとアニマリックノートがガツンとくるのと、ローズも結構香るんだ(アントニー・トゥールモンドさん談)」との事で、倫理的な観点から新作にはまず処方されない動物性香料がガンガン香り、そこにイランイランとジャスミンむんむんでは、一体どれだけ「作用」の強い香りか、想像するだに悩ましいですが、2021年のコンプリマンは、オリジナルのコンプリマンが持つホワイトフローラルの「光」の部分ー力強く華やかな明るさを最大限に引き出した作品です。 

 

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調香は一連のエリタージュ作品を手掛けるナタリー・ローソンで、香りの主軸はチュベローズ。チュベローズといっても、決して肉欲を挑発するような香りではなく、チュベローズに重ね合わせた「軽めと重めで緩急つける」ふたつの天然ジャスミンの合わせ技が肝になっています。フルーティで爽やかな「軽めの」サンバック・ジャスミンと、匙加減によっては「そこはかとなくおならの香り」になる成分・インドールを多く含む、つまりアニマリックな表情を持ち合わせた「重めの」ジャスミン・グランディフローラムにイランイランでさらにコクを増しながら、スッとしたユーカリの爽快感が立ち上がりから並走し、パルマローザやバイオレットリーフなどのグリーントーンが、白い花のブーケの引き締め役としてぐるりと包んでいるので、ホワイトフローラル特有の生々しさがきちんとありながら隠微な影が全くなく、幻惑するよりも、むしろその眩しい明るさで、心の澱みが胸からおりるように美しく香ります。素材は間違いなくハイカロリーなのに、すごくいい油を使っていて胃もたれしないコース料理のように重さを感じず、複雑なコンポジションながら全く頭を使わずシンプルに体が喜ぶ香り立ちは、まさに重鎮・ナタリー・ローソン匠の技と言えましょう。ミドル以降は、主軸のチュベローズが華やかさを保ちながら、ベースのバニラやベンゾイン、ヴィオリナーデのアイリスと共にしっとりと肌に吸い付くように甘く留まり、朝つけても夕方までしっかり香り、翌朝のシャワーでもリフレインノートが立ち上がるほどしっかりしたボディ感は、ヴィオレ作品中最強です。他のヴィオレ作品同様ユニセックス仕様となっていますが、体感的には女性向きだと思います。 
チュベローズをメインに据えた香りは沢山ありますが、コンプリマンを試して真っ先に彷彿としたのがジュストアンレーヴ(ニコライ、1996)で、チュベローズ、ジャスミン、イランイランという、コンプリマンと同じメインノートを持つものの、ピーチやココナッツが重なって「乾いたトロピカル」という、ヨーロッパ視線のあたたかい夏風であるジュストアンレーヴと比べ、より中心のホワイトフローラルが前面に出ており、前者の持つ若干のけだるさが吹き飛ぶ力強さを感じます。ヴィオレ自身も「これからの季節、夏を意識して作ったんだ」と明言しているように、ユーカリとグリーンのきいたチュベローズは、真夏の日本でもきっと重たくならずに美しく香ってくれることでしょう。 
どちらかというと、繊細でおとなしい印象のお姉さんやお兄さんたちに比べて、いきなり声が大きくてものすごくおしゃべりだけど、こんな子が家にいたら、その明るさで家族がどれだけ励まされるかしれない。また冒頭の文は、コンプリマンのイメージとして綴られた詞を訳したもので、ヴィオレ作品にはいずれも作品紹介に詞が添えられていますが、図らずも自分で訳しながら目に涙が滲んだほどで、個人的にはコンプリマンの解説は、この詞だけで充分だと思っています。 
本当はもっと沢山言いたいけど、あんまり褒めると薄っぺらになってしまいそうだから、たった一言だけ伝える最強のほめ言葉。それは「好き」だと思います。その一言がすべてを内包し、代弁する。それだけでいい世界が、もっとこの香りとともに広がりますように。
 
取材協力、資料提供:アントニー・トゥールモンド(ヴィオレ)
コンプリマン詞訳:Tanu of LPT
 
【ヴィオレ作品レビューまとめページはこちら】

 

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おまけクイズです!
ヴィオレは、1827年に創業し、その後時代の趨勢に抗えず隠滅するも、現在のヴィオレチームが2017年に復興させたブランドです。現在復刻ラインであるエリタージュ・コレクションは、1939年の作品を復刻したコンプリマンを加えると全6種ですが、下記既出作のオリジナルが発売された年をすべてお答えください。※古い作品の為、発売年は諸説ありますが、LPTブログ内で紹介した、公式サイトから引用した発売年を優先いたします。
①プープルドートンヌ
②アネールダポジェ
③スケッチ
④タナグラ
⑤ニュエブルー
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〆切:2021年6月15日(火) ※終了しました。
※当選は景品の発送をもって代えさせていただきます。
※当選者には、LPTより個別に連絡いたしますので、コメント時メールアドレスの記入をお願いいたします。
※回答は、後日当記事に追記いたします。
 
【ヴィオレクイズ回答】沢山のご応募ありがとうございました!
*LPTレビュー初出時の公式サイトまたはプレスリリースより引用したオリジナル発売年を元にしています。そのため、現在の公式サイトとは年代が前後している場合があります。
①プープルドートンヌ:1924年
②アネールダポジェ:1932年
③スケッチ:1924年(1900年の発売時はAmbre Antique名義)
④タナグラ:1920年代
⑤ニュエブルー:1953年
 
 
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