La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

無断転載禁止

CYCLE 002 (2023)

2023年10月21日、ヴィオレ最新作・CYCLE002が発売されました。復興系ブランドであるヴィオレですが、過去のアーカイヴを現代の肌感覚に合わせて再解釈するコレクシオン・エリタージュに合わせ、2020年にディフュージョンラインであるCYCLEをクラウドファンディングで制作しましたが、今回はその続編の登場です。若いブランドが着実に階段をのぼり、クラファンに頼らず冒険できるようになったのは喜ばしい限りです。

002のテーマは「突如砂漠に現れた、まだ見ぬ未来からの香り」
いきなりRPGゲームのオープニング的な世界観を突っ込んできた、実は結構なアニヲタでゲーマーなフランス青年*らしいコンセプトです。9月から、ヴィオレのインスタグラムは折れたビルとか砂嵐で全面黄土色になっています。とりあえず、復興系のヴィオレはいったん忘れてください。調香はエリタージュラインを手がける巨匠ナタリー・ローソン。ヴィオレにとってはお母さん先生が、このコンセプトに苦笑しながら絶妙に美味しい香りを作ってくれました。

まずは突如砂漠に現れた香りの外堀をご紹介。パッケージは100%再生紙使用、ボトルは詰め替え可能なリフィラブルタイプ、脱プラを目指しセロファン包装をせず、木製キャップだった001から一歩進んで耐久性を考慮したアルミコーティングを施した再生合成樹脂(アイオノマー)を採用しています。そしてヴィオレ作品としては初のヴィーガン・フレグランスとして登場しました(002がヴィーガンで、現在流通している通常の香水がどうヴィーガンでないのかは、今回割愛します)。

ディフュージョンラインらしくエリタージュ物と比べれば簡素なパッケージですが、フランスではUni-ball Posca Markerとして親しまれている三菱鉛筆の極太水性マーカーペンで描くリヨンのポスカアーティスト、Bleg**とのコラボレーションによるグラフィティがボトルとパッケージに施されており、その分ちょっと価格が€87(001)から€110に上がったのは大目にみてあげてください。このボトルパッケージは2000個限定で、そのうち001のようなシンプルなデザインで出直すのかもしれません。

001(2020)と002(2023)の比較。左より①ボトル。ガラス本体は同じ、どちらも表面に印刷 ②正面。001は厚手のわら半紙っぽかったが、002はスッキリとしたコットンペーパー風、箔押しでロゴ入れ、封入シールがホログラムに格上げ ③横。001は無地だが002はボトルと同じBlegのアートがエンボス+ニス引で描かれる ④裏。002には「飲用不可」が英語とアラビア語で追記されている事から、オーデコロンを酒がわりに飲んで健康被害をおこしがちなインド、中東地域にもヴィオレの販路が拡大した事を物語っている ⑤ヴィーガンマーク。一昨年、自らストリクトなヴィーガンになったアントニー・トゥールモンドさんのこだわり

サイクル002 パルファム 100ml リフィラブルボトル

香りとしては「これが未来からの香りだったら、案外未来も悪くない」と思う、香水の王道らしい序破急があり、初めは波乱含み、俺大丈夫か?から徐々にいい感じになって、最後はああ良かった、みたいなハッピーエンド感たっぷりのスパイシーウッディアンバーです。ブラックペッパー、チリペッパー、クローブ、クミン激辛エスニックか?と一瞬怯む、かっらいスパイスがガツンと立ち上がり、ゴリゴリのシダーウッドとガイヤックウッドが同時進行します。程なくして、最初の激しさとはうって変わった、神経が緩むようなフランキンセンスとバルサムが、体温で温まるほどに主役となり、スパイスが完全にいなくなった頃にはとろとろに甘柔らかく肌に馴染む「初めはコワモテ、そのうちメロメロ」ー目に浮かぶのは、グラフィティばりばりの若干殺伐とした冬の街で、行きがかり上初めて会うことになった友達のお兄さん。大柄で、少しオラオラしていて、なんだか近寄りがたい、ジャケットの袖口から覗く腕はタトゥーで真っ青。声はもっさり。でも何だか目元が優しくて「あ、寒い?」とジャケットを脱いで肩にかけてくれたら、刺青だらけなガチムチの腕となんとなくアンマッチな、体温がそのまま残った甘い香りがして、あたたかい安心感に包まれるーそんな風景。甘いと言っても、バニラやトンカビーンのようなフーディでアッパーな甘さではなく、ペルーバルサムとフランキンセンスの樹脂系甘露で、特にこのフランキンセンス使いにナタリー母さんの腕が光ります。拡散が控え目でミドル以降が細く長く続き、まさに体温をシェアするような心地良さです。初めてサイクル002をつけた時、真っ先に思い浮かんだのは、アニック・グタールのアンサン・フランボイヤン(2007、日本終売)で、同作の神聖な乳香らしさをもっと地に足ついた下界に降ろして、親しみやすく整えたイメージです。立ち上がりの激辛感を除けば、敢えて突出した個性を狙わない、日常につけ飽きない香りで、サイクルのコンセプトである「上質な普段着」を踏襲しています。ヴィオレの既出作だとアビム(2022)に一番近いですが、アビムがクールな神木系だとしたら、002はオラオラ系ウォームな砂風呂系。

このオラオラした雰囲気は実際、昨今のストリートファッショントレンドを考えると合点がいきますし、普通の青年が普通にカッコいいと思う最大公約数路線で作っていて、エリタージュの枠組では表現できない「今」を生きる3人のヴィオレ青年の視線が伝わってきます。

最後に、ヴィオレのインスタグラムが砂だらけになる前、ヴィオレチームが色々巷のヒット作を持ち寄り価格当てクイズを延々繰り広げる「Smelling Session/Smell Talk」というショート動画を連載していましたが、CYCLEの原点はここかな、と思います。お高いニッチ作をその辺の量販物と堂々間違えたり、販売価格に目が飛び出たり、日本アニメの効果音も入る、演出を越えた素のヴィオレ満載なので、是非このレビューと合わせてご覧ください。

*結構なアニヲタでゲーマー:今ほどヴィオレの仕事が忙しくなかった頃、LPTとヴィオレのアントニー・トゥールモンドさんの連絡事項の大半は日本のアニメ話で、当時どろろにどハマリしていた私はアントニー君に布教。すると朝食を食べながらアマプラで第1話を見ていたアントニー君は夢中になって3話続けて見てしまい遅刻。「アニメは日本語音声と字幕で見るに限るよ!日常生活にあまり役立たない日本語も結構覚えた。ポールはアニメと原作のズレに手厳しいんだ。ロードショーもよく一緒に観に行くよ」ちなみにアントニー君永遠のヒーローはNARUTOです

**Bleg(ブレッグ):本業は建築系エンジニア、見た感じヴィオレチームと同世代。リヨンの歩道一面にペンキでポスカアートを描いてフランスのテレビで話題になる。
日本の中高年にとってキースヘリング(1958-1990)またはユニクロUTを空目する画風。年齢的にリアルタイムではないが、20世紀アートに色濃く影響を受けていると語っている事からインスパイア系であるのは確か

 

【LPTよりお知らせです】
 
今回ご紹介したCYCLE002を含むヴィオレのサンプルは、LPT読者向け会員制コミュニティストア、agent LPTでご購入いただけます。
 

🔑agent LPTはLPT読者向け会員制コミュニティストアです。閲覧にはパスワードが必要になります。

閲覧パスワード:atyourservice

(パスワードは定期的に変更しますので、エラーの場合はlpt@inc.email.ne.jpまでお問合せください)

 

 

contact to LPT