La Parfumerie Tanu

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- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Nuée Bleue (1953/2019)

君よ
君は星のつよさを吸いこむイリス
今日の日記をかき乱す君
昨日のきらめく調べを捨てる君
何より美しき星の現れを知らす者となれ
雲にあだなす印となれ
そして甘き時の流れに身を委ねよ 杳なる
蒼い雲
 
2019年11月14日に登場した、メゾン・ヴィオレ5番目のリバイバル、ニュエ・ブルーは、1827年に創業し1955年に忽然と消えたヴィオレ社が、消失前の1953年に発売した最後の香りが基になっています。オリジナルは、時代的に女性向け香水の主流だった、シャネル5番を鼻祖とするアルデヒドの効いたホワイトフローラル・アルデヒド系で、同じ1953年に発売された同系統のデッチマ(レヴィヨン)は大ヒットとなる一方で、ニュエ・ブルーはブランドの歴史を閉じる苦い香りとなってしまいました。ちなみにニュエ・ブルーとはフランス語で「青い雲」を意味しますが、フランスの世界遺産、ストラスブールのプチット=フランス地区にあるストラスブール大聖堂に続く大通りであるニュエ・ブルー通りや、1920年創業、来年100周年を迎えるストラスブールの老舗出版社、ラ・ニュエ・ブルーが有名です。 

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ニュエ・ブルー EDP 75ml

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それから60余年後の2017年、晴れて復興したメゾン・ヴィオレが選んだニュエ・ブルーのリバイバルプロセスは、それまでの復刻4作が(ブランド復興時、処方は発見できなかったため)ヴィンテージボトルから香料を分析した上で進めた「時代に即応したオリジナルの現代的解釈」ではなく「ニュエ・ブルー」という名前からのイメージングでした。21世紀も20年を過ぎようとする今、敢えて50年代風のフローラル・アルデヒドを再現するのは、単なるレトロスペクティブになってしまう。そして何より、現代に生きるアントニー、ポール、ヴィクトリアンが’ニュエ・ブルー(蒼い雲)’という名から彷彿する香りから、1953年のオリジナル(写真上、下)はあまりにかけ離れている-

f:id:Tanu_LPT:20191218114932j:plainそこで、香料分析などから得られた情報は一旦脇に置いて「今、自分たちが『蒼い雲』という香りを、ブランドのレガシ-シリーズで作るなら、何が欲しいか?」そう考えた時、ブランドの顔であるアイリスとヴァイオレットのパウダリーフローラルであるプープル・ドートンヌ、オリエンタル系のスケッチ、硬質なミモザとレザーのアネール・ダポジェ、軽やかで儚げなタナグラ、その次に欲しいのは、1955年にエドモンド・ルドニツカがディオールの為に作り、そこから端を発して戦後の顔となった、瑞々しいオーフレーシュだ、という結論に至りました。それも、ヴィオレらしい蒼い雲を作ろうと。夏が始まる朝の歌声のような、さわやかで勢いのある風が約束する新しい一日のような、そんな香り…

 
2019年版ニュエ・ブルーは、ボトルからスプレーした瞬間、しゃきっとしてジューシーなシトラスで立ち上がり、シトラスとフローラルの架け橋であるオレンジブロッサムの青みがちな優しさが拡がると、間もなくヴィオレ・トーンともいうべき冷涼なアイリスが胸いっぱいにふくらみますが、そこに脇に徹したカーネーションがコクを、ホワイトムスクとベンゾインが甘さを、ウッディなサンダルウッドが引き締め役となって、ふんわりと肌に馴染んでいきます。使い始めはプープル・ドートンヌのオーレジェール版、または顔だちのよく似た年の離れた妹といった第一印象を持ちましたが、何度も使っているうちに感じた色彩は、プープル・ドートンヌが「秋の灰赤紫」ならニュエ・ブルーは「夏の青紫」。シトラスの恩恵でリフレッシュ感が高く、アイリスを若干控えめに、ムスクとサンダルウッドでベースを整えているので肌あたりがプープル・ドートンヌより一歩柔らかく、もう少し体温があり神経が程よく緩むミドル以降の展開は、メゾン・ヴィオレの過去作を試して、アイリスがメインの香りは好きだけれど、あまりにアイリスが主張しすぎるものは出番を選ぶ…という方には、ニュエ・ブルーをお勧めします。ニュエ・ブルーが、リフレッシュ感とリラックス感を同時に味わえるのは「鎮静作用の高い天然香料を豊富に、かつ厳選して使っているから(アントニー・トゥールモンドさん談)」との事、優しい落ち着きはお姉さんのプープル・ドートンヌ譲りですが、この溌剌としたリフレッシュ感は、ヴィオレ・チームがニュエ・ブルーに込めた、新たな日々への期待に繋がるのだと思います。

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夏の始まりを呼ぶ歌声…夏が最高な季節のヨーロッパならではの発想ですね。東京で、夏の始まりは苦行のファンファーレ
メゾン・ヴィオレの作品に共通するのは、LPTレビューで何度もお伝えしている通り「育ちの良さ」。日々新しいブランドが登場し、分で秒で新作を出す昨今の香水業界と、自分だけのエルドラドを手に入れたいと、まだ見ぬ奇香を目指し珍獣探しに暇のない香水ファン、そのどちらにも迎合することなく、年1作のペースで「いつでもそばに寄り添う」香りを大事に作っているのがわかります。よく言えば統一感があり、悪く言えば差別化が難しい作風ではありますが、手に取る側も大事に使って欲しい。繊細な違いを愛でるように…ヴィオレの香りを嗅ぐたびに、そう思います。
 
ちなみにメゾン・ヴィオレは公式サイトにて日本を含む世界に発送しており、世界発送OKと謳いながら配送先の「その他の国」に日本が入っていないのが当たり前の昨今、送料もフルボトルで€12(約1,500円、2019年12月現在)、発送もフランス国際小包、コリシモで注文から1週間~10日程度で到着と驚きの神対応です。また積極的にサンプリングサービスを行っており、このニュエ・ブルーもサンプルをほぼ実費で配布していたので、既にお試しの方も多いと思います。また最近ではギフトカードの販売を開始、フルボトルと同額の€145で、現行サンプル全5種がついたギフトカードを受け取った方は、サンプルをじっくり試した後、公式サイトでカードに記載されたギフトコードを入力し、お好きなフルボトルを選べるサービスで、いつも一歩先を行っているプロモーションアイデアやユーザー目線に立った物流対応には目を見張るものがあります。一方国内では大手ECモールで、送料無料だが納期2-3週間の取寄せ注文、かつ公式サイトの3割増の価格で販売されているのを散見しますが、ヴィオレ側に確認したところ、ブランドとしては寝耳に水の話だそうで「何故そんな高い価格で、しかも自分たちには何の交渉もなく販売しているのか、意味が解らない」と首を傾げていました。こんな珍事が起こる程、ここ日本でメゾン・ヴィオレへの注目度が上がっている一例だと思いますが、中々の噴飯ものですね。
 
 
取材協力、資料提供:アントニー・トゥールモンド(メゾン・ヴィオレ)
ニュエ・ブルー詞訳:Tanu of LPT
 
【ヴィオレ作品レビューまとめページはこちら】

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