La Parfumerie Tanu

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Aenotus (2019)

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2019年3月1日、遂に世界発売を迎えたピュアディスタンス第9番目の香り、アエノータス。日本サイトでは2月15日から2週間先行で予約販売を開始したところ注文が殺到、フルボトルに合わせ、日本限定の5mlパーススプレー2本セット、アエノータス・ギフトボックスは先行予約だけでほぼ在庫数に達し、実際の発売開始日から3日で完売した快進撃を遂げました。
 
「実際に発売されるまで、実はすごくナーバスな気分だった。アエノータスはあまりに個人的な作品で、自分自身の思い入れが強いからだ。だが蓋を開けてみたら、ポジティヴなリアクションに驚いた。本当に嬉しかった」
 

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アエノータスの日本先行プロモーションとして平成最後の元旦に送付された、通称「アエノータス年賀郵便」。11種のアエノータスカードにフォス社長直筆サイン入年賀状、そしてアエノータスのムエットが封入されていた。これは何故か他10種の2倍枚数が用意されたデザイン、名付けて「社長のファンタジー」
この社長の喜びは、調香をアントワーヌ・リーに託した事でほぼ勝負が決まったも同然。アントワーヌ・リーという匠は、作品のコンセプトを実際の香りへと昇華させる力量としては、依頼主の頭の中にダイヴして、同じ映像を共有できる数少ない天才か、少なくともフォス社長と物凄いパーセンテージでシンクロできる親和性を持ち合わせている貴重な調香師なのだと思います。実際ピュアディスタンス作品全9作中、リー氏は近作4点(ブラック、ホワイト、ヴァルシャーヴァ、アエノータス)を手掛けていますが、回を重ねるごとに社長自身の個人的体験や内的世界から発信されるコンセプトに寄っている事にお気づきでしょうか。ちなみに他の方が手掛けたピュアディスタンス作品の主なものとしては、1(2007)は元々アニー・ブザンティアンの私家版を譲り受け、続くアントニア(2010)は彼女の処方コレクションからコンセプトに合うものを提案してもらったところイメージ通りの香りがあり、その処方のコードネームが実母の名であるアントニアだったことから即決。ブザンティアンがピュアディスタンスに手掛けた最後の作品、オパルドゥはオランダ人フォービズム画家、キース・ファン・ドンゲン(Kees Van Dongen,1877-1968)の作品に登場するアールデコ時代のパリや香水の黄金時代を彷彿させる世界にインスパイアされたもので、私的体験や個人的な思いが作品に投影されていくのはブラック以降になるのですが、その「重圧」を全身で受け止め、稀なる芳香に昇華させてきたのがアントワーヌ・リーというわけです。ヤン・エワルト・フォス社長自らのシグニチャーセントとして誕生したアエノータスのメイキングストーリーは、既に本年1月LPTでご紹介した通りですが、今回は香りのレビューを中心にご紹介させていただきます。
 

アエノータス オフィシャルPV
 
ピュアディスタンスは、作品についてレディス/メンズ向けの区別は明確には謳いませんが、アエノータスはファンからの質問でピュアディスタンス側が公に「マスキュリン寄りユニセックス」と回答しているのと、私自身がつけるとユニセックス系どころか120%男らしく香るので、メンズならこの人、ジェントルマンにポラロイド持参でご登場いただくことにしました。
 
立ち上がり:柑橘系の香り+ウッディな感じ どれも調和が取れてて突出したところの無いバランスが絶妙。 
昼:全体が包まれるような柔らかな香り、刺激的な部分が無いが存在感はあります。 
15時位:ややムスク&モス系が出てきたか 
夕方:かなり薄まりましたが非常に上品な印象で最後まで来ました。これは高級感あふれる香りですね。私がそれに似合う存在かどうかは別として。 
ポラロイドに映ったのは:普段着で向かった打ち合わせ会場がやたら毛足の長いカーペット床で無駄に緊張している自分。
 
肌に乗せた瞬間、肺が洗われるように爽快なビターシトラスがスパークして幕を開けるアエノータスは、日本人にとっては心の香り、ユズを含む安らぎの柑橘パレードにしばしの間深呼吸していたくなるほどの心地よさを味わった後、このシトラスがさっさと消え入ることなく、ハーバルなミントやブラックカラントバッド、アーシーなパチュリ、そしてむっくりとしたオークモスが混然一体と織りなす胸板の厚いウッディノートと長時間並走していくのが最大の特徴で、たいがいトップのシトラスは第一印象を決める導入部に過ぎず、香料の性質上、拡散性の高さから消え入るのが早いのですが、そこを何とかしたかった社長の悲願が叶い、48%という圧倒の賦香率で、持続が弱いかベースノートだけにのっぺり枯れるのが常のシトラスウッディシプレの常識を覆す持続力と共に、並走感は衰えることなく続きます。この爽快なシトラスと並走するウッディシプレに、人肌のような温もりがあるので、爽やかすぎず、かといって重すぎず、寒暖の差を問わず通年ご愛用いただけます。

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若い頃の社長。香水とは違いタイムレスとはいかないスタイルの時代感 そりゃまあね

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社長2歳。こんなチビ時代から目力強い。右にいるのは御母、アントニアさん
さすがは絶世のナルシスト、ヤン・エワルト・フォスのシグニチャーとして誕生したアエノータスだけあって、つける人もそばにいる人も感じる視線ーじっと目を見つめられているような眼力があり、瞳の中に映る自分を見つめるような幾許かの陶酔感を若干含む、こちらを凝視する遠い眼で、アエノータスはあなたとその先を見ています。ジェントルマンも私も、この半年間(LPTが最初にアエノータスのサンプルを入手したのは昨年9月)何度も実装してまいりましたが、私個人的には、アエノータスは自分で体感するより人に与える印象が遥かに魅力的な香りに感じ、ジェントルマンがアエノータスをつけていると、あまりにその香気が美しく、猛烈にジェントルマンを底上げしている錯覚に陥り、思わず「こっちへ来て!」と両腕を広げたくなる衝動に駆られたこともありました。Meet LPT & Puredistance等で先行体験をしていただいた際、ご参加の皆様が口々に「えええ~香りや~~」と成仏している横で、私を含め「もらい成仏」している人が多数いたのも頷けます。ただこの見えない視線が、底上げが半端なくて毛足の長いカーペットをうまく踏み込めないジェントルマンを無駄に緊張させた遠因かもしれませんが、香りとあなたは一心同体、底上げも実力のうちと自惚れてほしいところです。
 
そしてもう一つ特筆すべきは、数時間前にボトルを手にした後、ほのかに香っているだけなのに、そこに誰かがいるような存在感がすごいアエノータスの残り香。戻ってきた自分以外、誰もいない部屋に残された香痕が煽情的に美しいので、ぜひ一度、一緒にお住まいの方にアエノータスをつけてお出かけいただいた部屋へ、数時間後戻ってみてください。
なぜピュアディスタンスの香りは、直接つけた香りだけでなく、後に残していく香りまで美しいのか。ヴァルシャーヴァの残香にも愕然としましたが、アエノータスの場合はそこに動揺が加わるほどの美しさです。不思議とピュアディスタンスの他の香りには残香にそこまでの驚きはなく、ヴァルシャーヴァとアエノータス、この2つがずば抜けています。フォス社長も別の角度からアエノータスの残香は魅力の一つだと言っており、何週間も前にまとったストールからふっと蘇るアエノータスから、短いスパンで過去と現在を彷徨させる時間旅行も楽しめます。

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アエノータス 左から100ml、60ml、17.5mlおよび17.5mlのパッケージ
いまだ輸入代理店契約がないため実店舗販売を行っておらず、広告展開もないピュアディスタンスですが、これだけ話題になったことが、ここ日本であったでしょうか。創業して今年で12年になるピュアディスタンスが日本の「腕に覚えのある」香水ファンの間で話題に上るようになって久しいですが、2017年4月の初来日イベント当時よりも、2019年の今の方が盛上りを感じます。一方で熱しやすく冷めやすく、付和雷同でスタイル優先、ブランド信仰の強い日本の香水ファンにこの外連味のない実直なブランドがどこまで根を張っていくのか、世界的にも熱心なファンの自発的な発信でここまで広まってきたブランドだけに、日本での今後が楽しみです。
 
 
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