メゾン・ヴィオレ3作品の共通項を一言で表現すると「育ちの良さ」ではないかと思います。香調に奇抜さや斬新さはありませんが、普遍的な美しさ、浄らかさ、潔さ、温かさ、慈しみー未来永劫、人として失いたくないものだとしても、時として守り抜けないものーが、きちんと備わって生まれ、育まれ、紡がれて大人になったような人の横顔を垣間見ます。
アネール・ダポジェ 75ml
Un Air d'Apogee (1932/2017)
プープル・ドートンヌやスケッチの成功から8年、シンプルに"Apogee"名で1932年に発売され、そこに「空気感(Un air)」が添えられ復刻したアネール・ダポジェは、作品中唯一のレディス寄りユニセックス系で、プープル・ドートンヌの少し上のお兄さん的な雰囲気です。
プープル・ドートンヌのアイリスはそのままに、バイオレットを少しだけレザーに置換え、アンバーグリスの合成香料、アンブロキサンでドライなうっすらとした温かみを加えていますが、温かみが出てくるまでに時間がかかります。ただこのレザーは、立ち上がりに一瞬「あれ?バーチタール?」と錯覚した途端にほぼ消失、その後は主軸のアイリスと合流してベースのシダーとアンバーに埋もれてしまいますので、レザーノートど真ん中の香りをお探しでアネール・ダポジェを選んだら、ちょっと物足りないのではないかと思います。アイリスをキーにミモザとシダーでパウダリー感を演出しているので、淑女のブドワール的な粉っぽさではなく、もっと硬質な粉物感に仕上がっています。
寒い寒い冬の昼、旅行だか長期出張で長らく家を空けていた細面のお兄さんが、久しぶりに家に帰ってきて、外から薄日のさす部屋にいたおとなしそうな妹にただいまのキスをしている、そんな姿がなんとなく目に浮かびました。その頬を撫でる皮手袋をはずした冷たい手から、ほんのり漂う革の香りと、妹の粉スミレっぽい香りが合わさって、お兄さんお帰り、手は冷たいけれど唇まで冷えてなくてよかったわ、お兄さん…って感じです。
なかなかこういうお兄さんに、ここ日本でお目にかかるのは難しいと思いますが、映画かなにか見たと思って想像して下さい。ちなみに俳優でいったらピエール・ニネ(イヴ・サンローラン(2014、写真左)、婚約者の友人(2016)など)、バンドでいったらA Dead Forest Indexのアダム・シェリー(Vo.写真右の左)、特に後者が真っ先に目に浮かびました。
アネール・ダポジェとは「絶頂の空気」みたいな、なんかもう感極まっちゃって、ああ、あ…みたいな空気感を指すフランス語のようですが、この香りの雰囲気がピークタイムとしたら、これ以上興奮したら、あとはもう失神するしかないんじゃないかって位、薄口の絶頂感なので、ヴィオレ三部作の中では最も名が体を現していないと思いますが、レザーノートの香りをまといたいけれど、タクシーの後部座席みたいのはつらい、という方や、昨今流行のアイリスノートにレザーをレイヤリングしたような香りをお探しの方への良き扉になってくれる1本だと思います。
明日はいよいよメゾン・ヴィオレ特集最終日、ブランド主任調香師であるアントニー・トゥールモンドさんのLPT独占インタビューを本邦初でお届けいたします。お楽しみに!
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