La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Divine, l'été Fleur d’Orange (2023)

立ち上がり:絶対昔嗅いだことある香りなのですが(香水ではなく)…何なのか思い出せない。雨あがりの草むらとかのイメージかなあ…それも明け方あたりの

昼:最初つけた印象だと、酷暑のこの時期はあまり持たないかな?と感じましたが、かなり生命力強し。香りは石鹸系の香りになってきました。

15時くらい:かなり強く残ってる。まだまだ!ここまで強いとなんか石鹸で体洗ってちゃんと流してないような気分にもなります。しかしこの季節で汗に負けないのはポイント高いですね。あまり重苦しい感じでもないし。

夕方:強い!まだまだ残り香あり。さすが帰宅時に強烈に蒸してると汗臭さに負けそうになりますが、この季節には良い香りだと思います。

ポラロイドに映ったのは:私の好きなシンガー、ケヴィン・エアーズのキャリア晩年のアルバム「Still life with guitar」の再発盤ジャケット。最初の発売時のジャケは手抜き臭くて、再発の方が良いデザインという珍しいパターンでした。今回は下品な表現&画像は思い浮かびません。たまにはそういう時もあります。

 

Tanu's Tip :

ちょうど昨年の今頃、帰省先でジェントルマンから放屁感染し、1日差でコロナ陽性となってから、持病の喘息が悪化して2類の自宅待機期間以上会社を休みながら、ディヴィーヌのサマーフレグランスデュオをご紹介しました。すっかり過去の話になっていたところ、今年6月、4年ぶりにピュアディスタンスのフォス社長と会った際、かなり最初の方で「いや〜、君たちは去年の夏コロナに同時感染したおかげで、どちらかを隔離しどちらかが世話をする必要がなく、同じ空間で普通に寝起きして、普段よりちょっと長い夏休みを一緒に過ごせて、良かったじゃないか!テレビもいっぱい見たろ、ハッハッハ!!」と突然私のコロナ感染話を蒸し返してきたのには驚きました。社長にとって、意外なところがツボなんだとわかった瞬間でした。

そして2023年、ディヴィーヌの新作は再びサマーフレグランスで、しかも前作とレイヤリングが可能なフルール・ドランジュが登場しました。調香はイボじいとのタッグで立派なマスターパフューマーに成長した、ディヴィーヌではお馴染みのヤン・ヴァスニエ。前2作がシトラス系とオリエンタル系で、今回はフローラル系と、だんだん香調のバリエーションが広がって、家族が増えていく感じですが、3作目は猛烈なジェントルマン高評価で、ここまで推すのも珍しいです。香りとしては、ネロリっぽい軽やかで繊細なシトラスフローラル。それ以上の感想が出て来ないのは、ジェントルマンがつけるとすごく高スタミナに持続し、一日気分よく香るのに、私の肌では瞬殺で、ネロリかな?と思った次の瞬間もういなくて、書きようがないからです。ところでフルール・ドランジュ=オレンジブロッサム、つまりオレンジの花のアブソリュート。対してネロリは水蒸気蒸留で採れる香料で、ネロリ、オレンジブロッサムに思い入れのない私には、その差があまり分かりません。ネロリだな、とはわかるんですが、オレンジブロッサムだな〜、とまでは分からなくて、鰻の背開きと腹開きを目隠しで食べてどっちも美味しい鰻だな程度の認知度しかないので、その違いもお伝えできません。同じネロリネタだったら、先月お届けしたイタリア物・レルボラリオ45年記念のネロリネロリの方が明快、かつ私の肌では持続もよく、あっちはプロフーモとは名ばかりのオーデコロンなはずなのに、EDP濃度のフルール・ドランジュよりしっかりしていたのは、アモーレの違いかもしれません。実際、香料も「イタリアン・ベルガモット、イタリアン・タンジェリン、ネロリ、オレンジブロッサム、アンブロキサン、パチュリ」と至ってシンプル、ただしネロリとオレンジブロッサムは両方入っています。夏の暑い盛り、ふっと乾いた(ここが重要)風に乗ったシンプルなシトラスフローラルが「あっ、いい香り」と、ただでさえ暑くて頭が回らない、色々考えたくない、そんな時の一服の清涼剤以上の効果は狙っていないんだと思います。

 

ディヴィーヌ・エテ|フルール・ドランジュ (2023限定) EDP 100ml

せっかくブランドがレイヤリングを推奨しているので、前2作と1:1の量で重ねてみました。

・オランジュ・ルージュxフルール・ドランジュ:前面に出るのはオランジュ・ルージュ、ほのかに酸味が和らいで、ほのかにフローラル風味が乗っかった感じで、香りが立体的・複雑になるわけではなかったです。

・ナルギレxフルール・ドランジュ:ナルギレのスパイスとアンバーに完全に喰われて、若干ナルギレのフローラル部分が華やかになったかな?あくまで「かな?」程度です。

なんか、ステージ構成を華やかにするためにコーラスを頼んだら、元々喉声で線の細いバンドのボーカリストを、猛烈な声量とか、どこまでも果てしなく通るちりめんビブラートで、コーラスが肝心のメインボーカルを食ってしまうライブというのを時々見ますが、今回はまさにそれ。フルール・ドランジュは、前2作とは重ねずに単品で使った方が、鎮静系ネロリ(≒オレンジブロッサム)の繊細さや軽やかな表情が、小声なりによくわかって良いと思います。前作は、2本で3本分の楽しみになっただけに、そういう意味ではこの新作は少々残念ですが、香水は本来それ1本で完成品であり、何でも重ねりゃいいってもんじゃない、というのを、ブランドの(売りたい)意向に反して再認識した次第です。

ポラロイドに映ったのは、青空xポピーxケヴィン・エアーズという、ジェントルマンの晴ればれとした心を投影した、大変良い絵が登場しました。多分、気分的にはケヴィン・エアーズの代わりに本人が両手を広げて笑っている。そんな感じだと思います。

来週はもう9月。案外周りでコロナ感染する方が増えていて、決して過去の話にはなっていません。どなた様もお元気で、毒暑を生き延びてください。来年もしディヴィーヌ・レテの4作目が出たら、きっと話の流れ的にコロナの話も蒸し返すでしょう。ただブランド的には毎年限定サマーフレグランスばかり出し続けるのはいかがなものかと、個人的には「このシリーズはこの位にして、あと限定ではなく定番にすれば良いのに」と思っています。

 

満開のポピー畑に遊ぶケヴィン・エアーズ。イギリスでは、1918年の第一次世界大戦終結にちなみ、毎年11月11日には戦没者慰霊式典が行われる。この時期になると、日本における赤い羽根募金のようにこの赤いポピーの造花が街で売られ、テレビの司会者は大概胸につけている



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