帰省中、ジェントルマンは今月のジェントルマンコーナーのお題である「ディヴィーヌ・レテとジェントルマンの夏休み」、今夏限定発売となったディヴィーヌのサマーフレグランス2作をかわるがわるつけていました。ディヴィーヌにとって、限定のサマーフレグランスをデュオ発売したのは1986年の創業以来初めてで、そういえばちょうど2年くらい前から、インスタグラムやメルマガを積極的に配信するようになり、もともと知的でシンプルなヴィジュアルイメージが、より印象的に、しかも頻繁に目にするようになったり、サスティナビリティが重視され、リフィルボトルを採用するブランドが増えてきた香水業界において、アルミパウチ型リフィルを他社に先駆けて投入したり「ディヴィーヌ、最近攻めてるなあ」と思っていたのですが、このサマーフレグランスを購入する際、備考欄に最近の所感を記入したところ、発送案内から数日後、心当たりのないメールがディヴィーヌから届きました。
「いつも応援ありがとうございます。私はセリーヌといいます。2年前、ディヴィーヌに入社しました。私の両親の会社なんですよ!今私は父と一緒に楽しく働いていて、これからのプロジェクトも沢山企画中なんですよ!ディヴィーヌの香りがあなたと一緒に東京を旅していると思うと、とても嬉しいし誇らしく思います。セリーヌ・ムシェル」
ええっ、ディヴィーヌのオーナー、イヴォン・ムシェル氏のお嬢さんからメール?!
これには本当に驚きました。たぶんお嬢さんは、このメールをくれた時、私がLPTのタヌだとは知らないで、きっとコメント入ってる注文には、自動配信メールとは別に、1件1件返事を書いているんじゃないかなって思うんですよ。もともと、新作が出るたびに香り付きの手紙が届き、毎回まんまと買ってしまう古典的かつ最強のプロモーションをしていたブランドです。経費面、作業面からさすがに郵送はなしになったんだと思いますが、イボじいのDNAを継いでいる方なら、やりかねないと思いました。
このセリーヌ・ムシェルさんは、バリバリの香粧品業界出身者で、フランスのトップ経営大学院でMBAを取得後、エスティローダーに就職。その後MACに転職後一時休職、半年近くアジアをバックパックで旅行した後、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路(フランスからスペインにまたがるキリスト教の聖地巡礼)を1600km、2か月半歩いて旅をした後復職、再びエスティローダーに、しかもディレクターとして戻ったのち、ザンビア(北アフリカ)のテキスタイル会社を経て2020年7月からディヴィーヌに入社という、猛烈な武者修行をしてブランドを継ぎに戻ってきた超新星です。なるほど、メインストリームのノウハウも、聖地巡礼の啓示も、すべてこれからのディヴィーヌに輝くと思うと、イボじい、いつお迎えが来ても安心だね!と滅相もないことを口にしてしまいそうですが、現実問題、これまで家族経営のブランドオーナーと実際にお会いしたり、お話を伺ったりしてきましたが、やはり「2代目」はないかな、と遠い目を空に向けるブランドが多い中、1社でも後継者問題が安泰なのは明るい話題です。
昼:えてしてこういう夏向けの爽やかな香りは持続性が低いのですけど、これはその中でも特に弱いかな。今年の8月頭酷暑、道玄坂の坂を登る最中に盛大に流れた私の汗にあっけなく洗い流された感じが。よーく鼻を近づければ微かに残ってはいるのですが。
15時位:もはや記憶の彼方に。これは一日に何回もシャワー浴びれるようなやんごとなき方々に似合う香水なのか?万国のプロレタリアートが団結してもこの香りは持続不可能だ。
夕方:消えました。
ポラロイドに映ったのは:高校の全員参加のマラソン大会で冒頭数百メートルだけ全力で走ってTOPグループに入り、最終的にはビリグループでゴール、もしくは途中棄権or行方不明の文系クラブ所属男子。あ、私だ。だから嫌いではないです。もう少し暑さが緩ければ真価発揮するはず。頑張れ!
Tanu’s Tip :
前置きが長くなりましたが、今回のディヴィーヌ・レテは、オランジュ・ルージュとナルギレのデュオ・フレグランスで、単品はもちろん、レイヤリングも可能な香調で、ディヴィーヌ作品としては数少ないユニセックスタイプです。
オランジュ・ルージュは、イボじいが「世界2大調香師」と太鼓判を押すヤン・ヴァスニエ(ジボダン)作で、ディヴィーヌのメンズ作品はすべて彼が手掛けています。
名前の通り、ビターオレンジをメインにした、すっきりとした酸味と苦みが爽やかなシトラスコロンで、ストレートにシャキッと酸っぱいレモンや、糖度たっぷりの甘いみかんではなく、皮がだいだい色の柑橘類が大集合しています。香り第一の苦みばしったビターオレンジを中心に、この香りの名前にもなっている、コクのあるブラッドオレンジ、まろやかなタンジェリンに、王道のコローニュには欠かせないベルガモットとネロリ-立ち上がりに拡がる、生々しい果実感から、隠し味のジンジャーとペパーミントで果皮の苦みと爽やかさがぐんと増して、ラブダナムやパチュリがオレンジを肌につなぎとめていきます。香りが持ちにくいとはいえ、シトラス中心の香りとしては、90年代以降に登場したニューシトラス系のように、つけた翌日まで香りが残っているようなあくどさではなく、汗さえ大量にかかなければ、所作と体温で立ちのぼるナチュラルなシトラス感がそこそこ持続し、朝つけて夕方シャワーを浴びた時に、オレンジを支えていた黒子のパチュリやラブダナムがぐいっと顔を出すリフレインノートがこれまた良いので、洗い流しのお楽しみも待っています。これ、飲み物でいったら、スライスしたたっぷりの生姜にブラッドオレンジを絞り、ソーダで割ってベルガモットリキュールをダッシュし、庭からちぎりたてのペパーミントを浮かべた、カクテル(ほぼノンアル)みたいですね。
なんだかんだ言って、ポラロイドに自分が映った時、その香りはジェントルマン高評価。なお、立ち上がりで見えた「クメール・ルージュ」「ポル・ポト!」とは、80年代を中心に活動したアメリカのハードコア/パンクバンド、デッド・ケネディーズのデビューアルバム「暗殺(原題:Fresh Fruit For Rotting Vegetables、左)に収録された代表曲「ホリディ・イン・カンボジア」の一節で、オランジュ・ルージュのルージュつながりで出てきてしまっただけで、香りとは何の関係もありません。ちなみに歌詞は私が23歳の時に対訳させていただきました。それも香りに何の関係もないですね、失礼しました。
昼:重めな香りなのにもうかなり弱まってる・・・ 意外だな。重いけど弱いって何?80年代の半ば位にいたバンド、最初はネオサイケなのにアルバム重なるとどんどんハードロックみたいになってきて、でも体幹弱いから成りきれないコスプレハードロックみたいな連中思い出す。言いたかないけどThe CultとかBallam and the Angelとか。文系ハードロックなら人間椅子まで行かないと。
15時位:こいつも早々に消えた。早いな。Orange Rougeはああいう香りなんで許せたが此奴はもはや許せん「征伐!」
夕方:薄らと残ってるが汗と混ってえも言われぬ香りに。こいつは秋から冬にもう1回試した方がいいですね。
ポラロイドに映ったのは:中学時代は「さだまさし」とか「チューリップ」とか好きだったのに高校入ったらいきなりメタル好きになって『IRON MAIDEN』とか『RAINBOW』とか騒ぎだした奴、でも髪型は長渕(初期)風から変わらない。で臭い人生訓とか言いたがる。近寄ってくるな!俺はメタルでもMOTORHEADとかが好きなんだよ!
だからといって、なんでモーターヘッドがポラロイドに映るんだろう。今回ばかりは解説のしようがありません。でもモーターヘッドは「ロック界におけるパンクロックとヘヴィメタルの架け橋」と称賛されるほど、ジャンルを越えて愛される珠玉のバンドで、私もジェントルマンも大好きです。リーダー&ヴォーカルのレミー・キルミスターが亡くなるまで9回も来日していたのに、一度も観れなかったのが悔やまれます。この「架け橋」という部分が、ディヴィーヌ・レテのレイヤリングに通じるのかな、と物凄いオチで夏を締めくくりたいと思います。
ディヴィーヌ・レテは、ディヴィーヌ公式サイトだと単品€145+日本向け送料€21、2本セットだと€275かつ送料無料で限定販売中です。
*シャリマーのオーデコロン:アメリカで根強い人気があり、2020年代のバッチコードがついた最新パッケージの並行輸入品が日本でもECモールで簡単に手に入りますが、なぜかだいぶ前から各国のゲラン公式サイトには載っておらず、アメリカゲランのサービスセンターに問い合わせたところ、廃番情報はおろか「サイトに掲載のない商品はゲランとは一切関係ありません」という厳しい答えが返ってくる謎アイテムです。
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