La Parfumerie Tanu

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L'Erbolario 45th anniversary perfumes (2023)

LPTではブログ初期から長らくご紹介してきたイタリアの世界的ナチュラルコスメブランド、レルボラリオ。2021年秋には老舗繊維専門商社、タキヒヨーが輸入代理店となり、日本上陸も果たし、有楽町マルイをメインに全国の主要百貨店や公式オンラインストアで積極的に展開中です。

レルボラリオの魅力

レルボラリオの魅力は、単なるファンシーなナチュラルコスメというだけでなく、イタリア国内での取扱が直営店だけでなく、効能が信頼できる自然化粧品として全国のエルボリステリア(Erboristerìa、ハーブ専門薬局)で販売されているという点だと思うのですが、ナチュラルというキーワードが微妙にフィットしないLPT的には、お勧めはそこではなく、お値段以上のアフォーダブル香水、しかもメインストリームからちょっと外れた絶妙な匙加減のインスパイア系ともとれる作品を輩出してくるところが最大のおすすめポイントです。
一方で、レルボラリオはフレグランスをバスラインである「香りのシリーズ」の1アイテムとして作っており、数年でどんどん廃番になる上、バスライン以上の高尚な芸術作品を作っているという意識がないので、公式の香調(これがかなり事実誤認多し)と簡単なメイン香料以外は調香師や発売年などもはっきりしません。世界的香水アーカイヴ、マイケル・エドワーズ財団でもレルボラリオはノーマークなので、香水としての情報量は非常に少ないですが、その分理屈抜きに楽しんで欲しいと思います。イタリア香水らしく、バスラインの延長とは思えない丁寧な表情に反して、実際の濃度も適当な軽めの使い心地は、汗で香りが飛びやすい夏場なら、朝と午後とで香りを変える「二毛作」も可能です。

LPTでは、レルボラリオの日本未発売品も扱うイタリア・ヨーロッパ品の個人輸入サービス、Erbosteria Ca’Naturaで取寄せ購入しています。Ca’Naturaには、ちょうど10年前オーナーの松井絵美さんにインタビューしているので、是非合わせてご覧ください。

レルボラリオ45周年記念シリーズ。左からマンドルラ、ネロリネロリ、ペッターリ・フィオーリ、オランジェリー、ドルチェリシール すべてプロフーモ、125ml
ボトルと同色のサテンポーチ付き

今年はレルボラリオ45周年

1978年創業のレルボラリオは今年45周年を迎え、過去に発売された香りのシリーズで人気だった5作を復刻しました(日本未発売)。イタリアの公式サイトでは盛大なお祝いムードに溢れていますが、日本では完全に割愛されています。いずれも、Fragranticaなどでは「〇〇のインスパイア系」と高評価の立ったものばかりで、定番品を殆ど持たないレルボラリオのフレグランスファンから、この復刻は大好評らしく、今回個人輸入をお願いしたErbosteria Ca'Naturaさんによると「今回の復刻版の大成功に味をしめたのか、また復刻リクエストのアンケートを始めました。笑」との事。今回のラインナップが人気投票で決まったとは知りませんでした。次回は、かつてマルちゃんのムスクラバジューのインスパイア系として、その名を轟かせたメアレスあたりが次に来るかもしれません。

45周年記念香水のパッケージ。松ぼっくりみたいのが緩衝材でいっぱい入ってきました

【45周年記念シリーズ】
2023年7月現在、日本未発売。香調、香料情報ははレルボラリオ公式サイトより
125ml:€39.90(約6,200円)、50ml:€22.90(約3,600円)、15ml:€14.50(約2,300円)

㊗Dolcelisir(ドルチェリシール, 2010年発売)グルマンアンバー
 アンブルナルギレ(エルメス)のインスパイア系。
㊗Neroli Neroli(ネロリネロリ)シトラスフローラル
 ネロリ・ポルトフィーノ(トムフォード)のインスパイア系。
㊗Petali & Fiori(ペッタリ・フィオーリ)フローラルアンバー
 プチママン(ブルガリ)のインスパイア系。
㊗Orangerie(オランジェリー)アクアティックシトラス
 クァーカス(ペンハリガン)のインスパイア系。
㊗Mandorla(マンドルラ)グルマンバニラ
 ヘリオトロープ(エトロ)のインスパイア系。

続いて、各作をジェントルマンと共同でご紹介します。

<表記について>
発売年:初出の発売年がわからないものは、便宜上45年記念シリーズ発売年である2023年作と表記します。
濃度:現在レルボラリオは濃度表記をプロフーモ(パルファム)に統一していますが、体感的にEDT~軽めのEDPといったところです。元々はAcqua di Profumo (EDP)として販売し、アイリスなど人気シリーズにはパルファム、EDP、EDTと3濃度違いがありました。

Dolcelisir (2010/2023)

香調:グルマンアンバー
香料:キャラメル、ラム、エルダーベリー、ココアパウダー、バニラアブソリュート

名匠、ジャン=クロード・エレナ作、エルメッセンスの人気作、アンブル・ナルギレ。2023年7月現在の国内定価は100ml39,820円、ドルチェリシールの50mlが10本買える値段です。5年前、ジェントルマンコーナーで「水っぽい」と一喝し、物足りないアンバーの代表みたいな物言いをつけた香りですが、同じ薄口のグルマンアンバーだったら、スパイスは家にあるもので代用、アンバーも実は在不在があいまいだけど、キャラメルとラムで「アンバーもいます」と言い切るドルチェリシールに軍配を上げたくなります。価格1/5以下、持続はアンブル・ナルギレより長い。甘さも歯にしみるような伝統菓子のそれではなく、ミーンミンミン、セミグルマンとでも言いたい、健康に害を及ぼさない程度の甘味が、空気が多少乾いていたら、夏の夜にも心地よい塩梅です。同じナルギレネタで言うと、ディヴィーヌのナルギレのようにバニラ・トンカビーン抜きの「シャリマーEDC-バニラ」ではなく、むしろバニラは多めでフーディですので、無理して盛夏につけなくてもいいかな、と思います。

ドルチェリシール プロフーモ125ml

Neroli Neroli(2023)

香調:シトラスフローラル
香料:マンダリン、プチグレン、ベルガモット、ネロリ、ジャスミン、ムスク

ビターオレンジから採れる香料は、花から水蒸気蒸留でネロリ、葉や枝からはプチグレン、果実からはオレンジビターと部位によって異なります。ネロリ製油はリラックス効果が高いそうで、睡眠障害が強く出る時期用に、LPT読者のAOF-aromaさんにネロリのブレンド精油をオーダーメイドしていますが、個人的にはネロリが物凄く、溺れ沈むほど好きというわけではなく、シンプルにえええ~香りやぁ~~と、就寝前のふくらはぎマッサージに愛用しています。ネロリネロリはシンプルに「緩む香り」で、立ち上がりはプチグレンのすっきりしたグリーンが前面にでますが、すぐに生地で言ったら綿ボイルのような羽衣感のある、木陰の涼風のように優しいシトラスフローラルに馴染みます。香料にはないですがふんわりとミラベル系の酸味も重なり、ジャスミンとムスクはかなり抑えめで肌へのつなぎ役として存在する程度で、
盛夏でも、風通しの良い緩めのブラウスやワンピースのように楽しめる香りです。
レルボラリオのフローラル作に共通するのは「マンマの幻想」。どの香りも普遍的な母の断片がエレメントとしてあり、女性らしいとかセクシーとかではなく、すべての生物が還る場所、マンマの安心感を感じます。そういう意味で、ネロリネロリはトムフォードのネロリ・ポルトフィーノのインスパイア系として取り上げられることが多いようですが、手持ちの作品ではレメー(2020、MDCI)のマンマ感に相通ずるものがあり、レメーが好きならネロリネロリもお勧めです。

ネロリネロリ プロフーモ 125ml

Petali & Fiori(2023)

香調:フローラルアンバー(公称)/パウダリーフローラル
香料:ベルガモット、オレンジブロッサム、ローズ、バイオレットリーフ、バニラ、ムスク

イタリアを代表する香調といえば、タルコ系。うまく表現ができないのですが、単なる粉物というにはもうちょっと照準が狭い、独特のマットな「ふわふわした粉重さ」があります。タルコ系の粉物感を演出するメイン香料はアイリスではなく、ローズとムスクとヘリオトロープ。だからアイリスの硬質感が少なく、軟質に仕上がっている事が多いです。同じ曲でも、英語で歌うのとイタリア語とでは、響きの暑苦しさが異なるのと同じくらいの差がタルコ系にはあります。レルボラリオの香水も、ベースにタルコが来るものは殊更に出来がよく、このペッターリ・フィオーリも、タルコのタの字もないけれど、やっぱり入れっちゃった!なパウダリーフローラルで、LPT「心の包帯」特集でご紹介したブルガリのプチママンのインスパイア系と言われていますが、言われてみれば確かによく似ていて、ブルガリもレルボラリオもイタリアブランドという共通項と、どちらも粉物ですが、一番の違いは、プチママンはおチビちゃんとママン、二人の香りですがペッターリ・フィオーリにはバブバブ感があまりなく、バニラムスクの溶け込んだタルコ系ローズにバイオレットリーフが渋みのアクセントになって、甘さがそれほど立ち上がらず、あっさり系ですが香りに厚みがあって、ちゃんとおむつのとれた成人女性の姿が香ります。

ペッターリ・フィオーリ プロフーモ 125ml これだけすりガラス風で、香りの雰囲気をよく現わしている

残り2作は、男性にもお勧めの香りとしてジェントルマンにポラロイドをお願いしました。

Orangerie (2023)

香調:シトラスアロマティック
香料:ベルガモット、レモン、カシス、アクアティックアコード、マテ、ムスク

立ち上がり:名前から考えて柑橘系かな?と思ったらかなり強いオヤジ向け香り。ユニセックスらしいが女性これ使うのかなあ。結構ムスク系だけど

昼:オヤジ臭はだいぶ薄れてきました。この季節(梅雨明け間近の暑さ&湿気)の中でも結構流れず主張してきます。で、爽やかな感じも出てきてます。

15時頃:かなり薄くなってきましたが夏でここまで持てば上出来。で、後半にいくにつけフルーティーな香りになってくるという珍しい感覚も

夕方:ここまで来るとつけた場所に顔を近づけてようやく微かに感じるレベル。最後になってまたムスク系の残り香ですがつけ初めよりだいぶ印象が良いです。

ポラロイドに映ったのは:イタリアの香水ですし…つけ初めは目の前にイタリアのバンド、Banco del Mutuo Soccorsoのジャコモおじさんが現れたかと思いましたが、いつの間にかこれまたイタリアのALICEに出演者が変わった感じ。一粒で2度美味しいというというか、食い合わせがあまり良くないと言うべきか。

Tanu’s Tip :
レルボラリオ45周年記念香水の中で、一番、というかこれだけどメンズライクなオランジェリー。私がレルボラリオと出会った2000年代後半は結構人気だった記憶があります。イタリアで16世紀半ばに登場し欧州へ広がり、特に18世紀イギリスでは自国では採れないオレンジを育てて貧乏人に自慢した温室の事をオランジェリーといいますが、名前からしてオレンジコロン的なものかな?と思いきや、つけてみたらオレンジのオの字もない、アクア系炸裂の、1990年代に台頭したスポーツフレグランスの残党みたいな「今一番アウトな時代物」を、わざわざ令和の時代に再現した感がありますが、周回遅れが1.5周り位すると斬新に感じるのか、確かに最近アクア系、オゾン系って90年代とはだいぶアプローチが違いますけど、新作の香調を見ると出てきてますよね?2020年代のアクア系は、本当に顔の横で水が流れているようなマイナスイオンや、もっと進んで瓜、スーパーキューカンバーな進化系の瓜も感じますが、オランジェリーは復刻版ですのでそういうことはないです。

オランジェリーの序破:ジャコモおじさん(イタリアのプログレバンド、バンコのヴォーカル。2014年交通事故で逝去)急:アリーチェ(イタリアのシンガーソングライター)

そしてリニアに香って終わりではなく、ちゃんと序破急があることを、ジェントルマンはちゃんとポラロイドに写し撮っています。最初がだまし絵みたいなジオッサン、と思ったら端正な美人歌手。確かに二度おいしいけど、その振れ幅がデカすぎです。

オランジェリー プロフーモ 125ml パッケージに描かれている建物こそオランジェリー。
ジェントルマンもポラロイド中「オレンジ不在」を主張していた

Mandorla(2023)

香調:グルマンバニラ(公称)/パウダリーフローラル
香料:ベルガモット、ホーソーン、アーモンドブロッサム、ヘリオトロープフラワー、バニラ

立ち上がり:パウダリーで優しい香り…つけた自分も優しい気持ちになれそうだ…等と思えれば良いのだがこちとらむくつけき中年男。残念ながらこういう香りを身につけると可愛い子供達が楽しく遊んでる公園でベンチに佇んでそれをニタニタ眺めてる変質者風情が漂う。通報案件だ。そういえば20年ほど前、公園で子連れの奥様に道を聞こうとしたらすごい目で睨まれたの思い出した。公園は爽やかじゃない中年男には鬼門だ。

昼:こういう香りにありがちだがこの季節ではあっという間に香りが飛んでいってしまう。
ほとんどもうわからない。なので怪しい風情もややおさまるわけだが。

15時位:もはや全然つけてた事を思い出せないくらい。でもこういう香りで残香がきついのもそれはそれで考えものなので良いと思います。ベビーパウダー系の香りだし。こういうのつけて赤ちゃん気分に浸るのも少しなら良いと思います。公園で赤ちゃんプレイとかするレベルじゃなければ。

夕方:もう思い出せない。さようなら。ただ悪い香りでは無いです。自分に合わないだけです。すみません筆が滑りがちです…

ポラロイドに映ったのは:あづまひでおの漫画に出てくる変質者。

Tanu’s Tip :
日本を代表する春の花といえば桜の花、イタリアは同じバラ科サクラ属のアーモンド、イタリア語でマンドルラ。季節になるとソメイヨシノそっくりな花がブワっと真っ白満開に咲きます。イタリア香水にはマンドルラをモチーフにした作品が数多くある事から、よほど国民に愛されているのでしょう。杏仁豆腐の原料(本当は杏仁霜)、アーモンドブロッサムの香りに軟質粉物香料、ヘリオトロープとバニラが重なって、それはもう真っ白なシッカロールまたは赤ちゃんのおしり拭き級タルコが肌の上で炸裂するマンドルラは、Ca’Naturaの松井さん曰く「オリジナルはもっとアーモンドが強かった」そうで、いったいどれだけアーモンド過積載していたんだろう…と驚きました。そしてヘリオトロープはアーモンドと処方されると粉物効果が抜群なのと、シッカロールの香りを彷彿するのは、そもそも日本初のベビーパウダー、シッカロールを1906年(明治39年)に発売した和光堂が、シッカロールの香りづけに用いたのがヘリオトロープ香料だからで、当時はご婦人方も競って使う日本で大流行の香りだったため、それほどバブ味は強く感じなかったかもしれませんが、盛夏のふろ上がりにマンドルラをつけると、あまりのシッカロール香に本来のシッカロールをつけるのを忘れそうです。
エトロのヘリオトロープに近似値かというと、あちらもアーモンド&ヘリオトロープではありますが、ここまでアーモンド香は強くなく、もう少し甘さも控えめで香水らしい穏やかな香り立ちだった記憶があります。


使いようによっては殿方のグルーミング後、ああいい風呂入った系に転ぶと思ってジェントルマンにポラロイドをお願いしたのですが、マンドルラは彼の肌の上で強烈にバブバブし「子供おじさん」または「おやじ赤ちゃん」になりかねない際どいバランスでした。その為、ジェントルマンのポラロイドには、吾妻ひでお(1950-2019)の作品に登場する、一般的な変質者(左)が。一応レルボラリオはマンドルラをユニセックスフレグランスとして出していますので、いつか、イタリアでマンドルラっぽい香りがする普通のおじさんに会ってみたいものです。

 

マンドルラ プロフーモ125ml ジェントルマンは、子供おじさんとおやじ赤ちゃんだったら、後者の方が好ましいと言っていました

 

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