La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Bois Impérial (2020) / Essential Parfums

A Gentleman Takes Polaroids chapter Thirty Six : Affordable Gentleman in Spring
 
 
立ち上がり:ベチバーとスパイシーな香り甘さの中で複雑に絡まってます。今の季節ならいい感じ。
 
昼:ウッディな香りが強くなってきました。甘い感じはまだ強く残ってますがそれほどしつこい感じはしません。
 
15時位:この時間まで香りがかなり残っています。強いなこいつ。甘い感じは中景に退き、木とスパイスの感じが前面に
 
夕方:ようやく落ち着いてきました。暑い季節には少し重そうですが、春秋あたりには個人的にこれからも使ってもいいかなと。
 
ポラロイドに映ったのは:我が家で5年程前に立ちあげた水槽内、立ち上げから今に至るまで5匹居た中、1匹のみ未だに健在なヤマトヌマエビ。強靭だ。
 
Tanu's Tip :
 
来週はもう4月と、あっという間に四半期が終わってしまう2021年。諸々の大事が、目の前に霞のかかったような状態でスッキリしないまま時間だけが過ぎていく日本の春は年度末。異動や退社など環境の変化に伴う出費が重なる方も多いのではないでしょうか。もしくは環境の変化(もしくはコロナによる精神的負荷の膠着)がストレスとなり、財布の紐が盛大に開いてしまった方もいらっしゃる事でしょう。よくわかります。そこで今月は「年度末で懐寒いよジェントルマン」と題して、ユニセックス~メンズ向きアフォーダブル系香水を3作ご紹介します。
 
ここ1-2年の動きとして、価格が高止まりだったメゾンフレグランスの反動として、中間価格帯を目指すブランドが増えてきました。アフォーダブル香水の発掘をライフワークの一つとしているLPTは、昨年はメゾン・ヴィオレのクラウドファンディング型商品・CYCLE001を筆頭に、レミニッセンス、アラビアン・フレグランス等ご紹介しましたが、昨秋のLPTV及びブログ本編にて、調香師カンタン・ビシュ特集を行った際、自薦にはなかったものの、カンタンが最新作を手掛けたブランド、エッセンシャル・パルファムに目が留まり、今回ご紹介するボワ・アンペリアル(2020)のボトルとディスカバリーセットを購入してみました。100mlEDPが72€、フルボトル購入で2本サンプルがいただけて、ディスカバリーセットは7本入って20€、これは後で値引してもらえて、送料はたったの9€、〆て101€のお買い上げ。今結構な円安ですが、購入時は今より1€5円位安かったので、コミコミで12,500円ちょいと言う感じでした。
 
1990年代半ばよりオーブッソンなどのファッションフレグランスのアジア向けエージェントから香水業界のキャリアをスタートさせた、香水ブランドの起業及び海外進出コンサル会社、インターナショナル・ビューティリンク社長、ジェラルディーヌ・アルシャンボーが2018年に自身のブランドとして立ち上げたエッセンシャル・パルファムは、長年のマーケティングリサーチ経験を活かし、もはや香水の価格ではないような作品が当たり前のように登場するメゾンフレグランス業界において、これからのマーケットにミートするのは中間価格帯の商品、狂った価格帯の軌道修正ーと「Create haute perfumery at an affordable price(手ごろな価格で高級な香水を創る)」を旗印に、まるで「SDGs徹底遵守」と言わんばかりのトレンドワードーサスティナビリティ、エコフレンドリー、シンプリシティの大行進、パッケージ費用や販促費なども最低限に抑え、脱プラスチック対策として、フルボトルにはフィルム包装を一切せず、段ボールを積み重ねてボトルをはめ込み、帯留めしたパッケージを採用しています。
香りのコンセプトとしては、メゾンフレグランスにありがちなコンセプトの浴びせ倒しや、曖昧模糊かつ魑魅魍魎な精神世界を追求せず、数種の天然香料とサポート役の合成香料(当社説)に絞り込んだシンプルな構成で、香料そのものが持つダイナミクスをマスター・パフューマーの腕で最大限に引き出し、全作品がジェンダーフリーのユニセックス対応です。
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左)錚々たる有名調香師が名を連ねるディスカバリーセット(€20)、次回購入時値引あり

 右)100mlボトルと段ボールパッケージ。ラベルはVC&Aっぽい

とにかく母体がコンサル会社なので、トレンドの先読み&牽引には長けており、かつ元々アジア向けのマーケティングから始めた方なので現業もおのずとアジアに強く、2021年春にはセフォラとタッグを組みアジア進出を果たし、香港のセフォラと中国市場にも進出、案外日本にもサラッと上陸しそうな気もします。公式オンラインストアは勿論世界対応、日本にも発送してくれる上送料も非常に良心的で、サンプルセットの代金はフルボトル購入時に値引と、最近のオンライン香水販売のビジネストレンドをしっかり押さえています。①香料にフォーカスして②マスターパフューマーが手がける③アフォーダブルなブランドというと、作品の立ち位置的にはサークルデパフューマーに近いものがありますが、エッセンシャル・パルファムの価格帯は2割安、歩の進め方が圧倒的にファストファッション世界企業然としており、どこかZARAやユニクロ的なものを感じます。ただし、このこだわりの香料が、ボワ・アンペリアルの場合、かなりジボダンの合成香料にこだわっています。

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ボワ・アンペリアル EDP 100ml
ボワ・アンペリアルは、キー香料がベチバー、ゲオルギーウッド(シダーウッド様の合成香料)、アキガラウッドとジェントルマンのハート鷲掴みなすっきり系ウッディで、アキガラウッドの絶妙なバランス感で「ガニメデ系」というジャンルを確立したかに思えるカンタンらしい作品です。賦香率16%、ビーツ由来の植物性アルコール使用、無着色、93%天然成分、ユニセックスと「香水のSDGs」バッチリ仕様。アキガラウッドは数年前から多用されているジボダンの特許香料で、パチュリからウード様のスモーキーでレザー感のある芳香成分を抽出した、自然由来の合成香料(ジボダン社では自然製品としている)ですが、ジボダンのオリジナル香料だけあって、ジボダン所属調香師は使いたがるので、カンタンだけでなく同じジボダン所属のダニエラ・アンドリエもミウミウシリーズなど2010年代後半の作品でキメの香料として使っていますが、硬質で透明感のある香りづくりが特徴的なカンタン・ビシュは、まさに「アキガラ職人」とでも呼びたいくらい多用してします。一昔前の「インテル、入ってる(Intel in it)」的にアキガラウッドが入っているとウリになる昨今ですが、これまたふた昔前のカロンの様に、時代の顔になりすぎて禁忌扱いにならなければ良いけれど…と思います。
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左)アフォーダブル系ブランドとラグジュアリー系ブランドを別かつもの、それはパッケージ裏の商品説明。アフォーダブル系のパッケージには、キャッチコピーから香りの特徴までびっしり書かれるのが古今東西のお約束で、香水はコスメの延長である事がわかる。ラグジュアリー系ブランドパッケージではほぼ見られない。逆を返すと高額商品に調香師からのメッセージ等あると、少々残念に思う 右)ジボダン入社後9年でシニアパフューマーになった破竹の調香師カンタン・ビシュ。昇格して電球感アップ
つけ心地はスッキリ、キーン!というのが主印象ですが、不思議と周りの方には「温かくて柔らかい、いい香りがする」と、何人の方にも褒められて、どうも拡散力が強く、自分の周りの香りと、少し離れた方に届く香りにズレがあるようで、硬質な内層と柔和な外層の二層構造で展開し、その二層が所作の動静で交じり合ったり、内層/外層だけを感じたり…確かに時々、ふんわりと包まれるように甘い香りが重なってくるので、単調にならず、かといってさほど複雑な表情は敢えて持ちあわせない、トップからラストまでほぼ同じトーンで香ります。合間にふっと香るフローラルな感触は、40種の分子と10種の天然花香料からなるジボダン特許調合香料・ペタリア。ジボダン所属調香師しか使えないフルーティなピオニーローズ系の秘蔵っ子香料で、確かにカンタンもフルール・ナルコティーク(2014、イクス・ニイロ)、エルマン(2015、ELO)、デリーナ(2017、パルファン・ド・マルリー)、シャンドメ(2020、ルガリオン)等々、調香作品の多くでペタリアをアクセントに用いています。またもう一つ甘さを演出しているのが、これまたアンブロフィックスというサトウキビから抽出精製したアンバー様のジボダン香料で、100%生分解性のサスティナビリティを売りにしていますが、肌に乗せて消えるだけの香りに生分解性というのも、そこまでSDGsに結び付けなくても…と、だんだん書いていてお腹いっぱいになってきました。要は、天然由来の合成香料を束ねて93%天然由来、という表現は自然化粧品メーカーの常套手段で、人工甘味料の天然由来というのにも通じるものがあり、せっかくシンプルに香料で勝負したい、と断り書きをしているのだから、あまり自然由来を数値化して売ると、逆に別の意味で香ばしくなってくる気がします。

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褒めてるんだか、けなしているんだかわからなくなってきましたが、ジェントルマン的には高評価。私用にお迎えしたいくらいだと申しておりますし、周囲の評判も上々、あとは実装評価でお願いします。日本では概してマイナス要因になるが欧米で良い香水の必須条件である拡散性と持続力は十二分、ここもしっかり計算の上で作られており、ポラロイドに映ったのもタヌ家で異例の長寿記録を更新しているヤマトヌマエビ(写真左)。平均寿命2-3年のところ、この4月で6年目に突入する生き残りのように、5年後10年後も中間価格帯の人気ブランドとして生き長らえて欲しいです。
 
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