La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Les Indes Galantes (2015) / Fêtes Persanes (2016)

立ち上がり:甘い香り系なのはL'Homme aux Gantsと同じですが、こちらはやや柑橘系の印象。最初一瞬アルコール臭さがキツいか?と思ったがすぐ落ち着いた。
 
昼:甘い香りを維持、これは良いものなのは判るが女性向だな…よほど中性的な男性には良いかもしれないが髭親父には荷が重いかも。
 
15時位:少し落ち着いてきてこれくらいの香りなら髭親父でもなんとかつけてるの許せるくらいのレベルか。シナモンみたいな香りが出てきました。
 
夕方:この会社の香水、持ちが良いです。この時間でもしっかり香りの芯が残ってます。でもやはり甘いな…肉体改装でもしないと似合わないかな私には。
 
ポラロイドに映ったのは:なで肩&肩幅の狭い男。JOHN FOXX

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レザンド・ギャラント EDP 75ml キャップはレディスのバストトップと差し替え可能、
他に100mlのシルクロードボトルも有

Tanu's Tip :
 
レザンド・ギャラントは、音楽理論の祖であり、18世紀のフランス音楽界を牽引した王室作曲家、ジャン=フィリップ・ラモーのオペラ=バレ代表作「優雅なインドの国々(原題:Les Indes Galantes、1735年パレ・ロワイヤル初演)」をテーマにした作品です。
オペラ=バレとは、フランスのバロック時代(17世紀末~18世紀後半)に流行したオペラのジャンルで、中でもオペラ=バレといえば「優雅なインドの国々」と言う位人気があり、現在も度々世界中で上演されている作品です。全4部からなり、各話40分前後で、内容は
 
第1部)寛大なトルコ人(Le Turc Généreux)
第2部)ペルーのインカ人(Les Incas du Pérou)
第3部)花々、ペルシャの祭り(Les Fleurs, Fêtes Persanes)
第4部)未開人たち(Les Sauvages)
 
第3部、ペルシア編のタイトルはフェット・ペルサンヌ(Fêtes Persanes)、つまりレザント・ギャラントの次作名でもあります。


タイトルの「インド」は、現在のインドを指すのではなく、当時フランス人に馴染みのなかったヨーロッパ以外の諸国全般を指し、我々日本人が日本人以外をすべて「外人」と言う位ざっくり、かつ広範な国々で起こるエキゾチックな恋愛4部作です。17世紀、大航海時代が終わったところで、世界は下々の民草まで一気に開けたわけもなく「トルコ人は狂暴で、アメリカ人は野蛮人、以上。」みたいな、風刺画や聞き伝えだけで知る価値観の時代、人間の普遍的なテーマである恋愛を、当時のフランス人が見たことも聞いた事もない世界の人々が繰り広げたら、そりゃ「すごインド」「超インド」でウケるのもわかる気がします。
 
調香は、MDCI全22作品中、現時点で最多の6作を担当しているセシル・ザロキアンで、セシルさんは「オリエンタルの女王」の異名を取るほどスパイスを効かせたオリエンタル系に強い調香師ですが、一方でシトラス使いが上手く、表層の煌めきをシトラスフルーティで巧妙に演出し、濃厚なコンポジションに引きずられない軽やかさを持たせた作風(シェイドゥナルビコナなど)や、きりっとしたシトラスフローラル(チョウチョウサンなど)にも技が光ります。

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レザント・ギャラントのいう「インド」、つまりヨーロッパ以外の世界はオリエントとも呼ばれることから、おのずとこの香りもどっぷりオリエンタル。しかもかなり甘いのですが、オレンジピールやジンジャー、ブラックペッパーなどをあわせると、生地の甘さが相殺されるうえに双方の味わいが引き立つチョコレートのように、とにかく癖になる甘さで、しかも胃もたれしないおいしさです。立ち上がりにジューシーなオレンジと、チクっと苦味のあるベルガモットとゼラニウムが光った後は、ふんだんに使用したマダガスカル産バニラが甘さの決め手として登場します。バニラは過積載でも欧米人にとっては多幸感ましましになるだけの安心素材、そこに常日頃慣れ親しんでいるスパイスであるクローブとシナモン、アーモンドが入り、もう幸せいっぱい。特に肌近くで香るクローブはカーネーション香を彷彿とするフラワリーな香り立ちで、往年のクラシック香水の貫禄も醸し出しています。クローブとシナモンといえば、和香料でも丁子や肉桂(桂皮)として、お香の材料としてもなじみが深く、松栄堂のお線香、堀川を彷彿とする弛緩系の甘露な表情もあるので、日本人の私たちにとっても親しみを感じる香調です。この冬、外出する機会は少ないものの、出かける時は高確率でレザンド・ギャラントをつけていましたが、必ずと言っていいほど褒められ「動いた時にふっと香るのも、そばでじっくり嗅ぐのも、とてもいい香り」と、普段香りを使わない人にまで褒められました。インドは意外に遠い国ではなかったです。 

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フェット・ペルサンヌ EDP 100ml シルクロードボトル
ちなみにレザンド・ギャラントの翌年に登場したフェット・ペルサンヌは、オペラ=バレ4部作の一話を切り取っただけあって、明らかに同じ作者が、先作をもとにアレンジした感のあるオリエンタルで、レザンド・ギャラントのバニラをぐっと引っ込め、ガイヤックウッドやシダーウッドなど骨太なウッディを盛り、その上にカルダモンやブラックペッパーなど辛みスパイスを思いきり効かせた作風で、カレーで言ったら同じメーカーの甘口と辛口の違いで、どちらを選ぶかはお好みの辛さで…という感じです。どちらもMDCIとしてはレディス作品として、75mlボトルには女性の頭がつきますが、レザンド・ギャラントは確かに女性向け、フェット・ペルサンヌはユニセックスにお使いいただけます。どちらも秋冬に本領を発揮する香りですが、通年使うとしたらフェット・ペルサンヌに軍配が、冬一番のお楽しみならレザンド・ギャラントをおすすめします。
 
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ジョン・フォックス。左より①30代初め②③30代後半(1983年初来日当時)④50代後半 
②は3作目’The Golden Section'のアルバムジャケット。当時アナログ盤を手にして、
ジャケット幅30㎝に肩が収まり、この顔の大きさ…と、あまりの肩幅のなさに驚愕した
こんなにふくよかであったかい香りなのに、ジェントルマンのポラロイドに映ったのは、この香りの極北にいるようなエレポップの巨匠、ジョン・フォックス。レザンド・ギャラントのどの辺がジョン・フォックスなのか本人に聞いたところ「なで肩で身が薄く、金色に輝いているところ」???つまり、彼の3作目、ザ・ゴールデン・セクションのジャケットだそうで、この色味と微笑みが香りに通じているらしいですが、本年初のジェントルマンコーナーに、微妙なものが映ったポラロイドでした。私がジョン・フォックスにどれだけ傾倒して今があるかは、LPT annexのmusicコーナーに詳しいので、久しぶりに「LPTはこんなもので出来ています」をおさらいしていただけると嬉しいです。
 
 
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