La Parfumerie Tanu

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- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Homme aux Gants (2019)

A Gentleman Takes Polaroids Chapter Thirty Six : MDCI par AGTP in Winter
 
立ち上がり:甘い香り。私はあまり甘い香りが得意ではないのですがこれは良い感じです。甘栗みたいな香り?
 
昼:ウード系の香りが出てきました。この季節に合います。
 
15時位:ウッド系の香りが前面に出てきてかなり落ち着きました。ここまで破綻なく良い香りのままです。
 
夕方:午後から香りがあまり減衰せずここまで来ています。これは良いですね。つけてる人間がそれに値するかはさておき
 
ポラロイドに映ったのは:私服姿が想像できない、いつもスーツ着ていそうな感じの50代半ばの上品なおじさん(しかしOFFには全身ジャージ姿だったりもする)
 
Tanu's Tip :
 
前回のジェントルマンコーナーから実に半年近い年月が経ってしまいました。このページをご覧になっているという事は、皆様ご無事で今を生きていらっしゃるのだと思いますが、この半年、Team LPTは
 
タヌ:勤務先のリモートワーク推進に拍車がかからず、引き続き時差通勤&休業のセットで、休みは当然タヌワーク。なんだかんだ忙しかった
ハン1:LPT配送部の他にも在宅勤務契約先が増え、労働量150%UP(前年比)
ジェントルマン:午前中は在宅勤務、午後は出社。緊急事態宣言発出後は隔日にて在宅勤務と出社
 
と、三者三様、働き方は変わっても働いている量的時間はあまり変わらないか、ハン1さんのようにむしろ労働量が増えた者もあり、ああ忙しい、忙しいと言っている間に、あれ、なんだったっけ?という感じでこの世界難が去ってくれれば何よりなのですが、世界に目をやると中々そういうわけにもいかない感じで、まだまだ緊張を伴う時間が続きそうです。どうぞ皆さま、生きてください。Team LPTも生き抜いてまいります。
 
前回のジェントルマンコーナーもMDCI特集でしたが、今回もMDCIから過去未登場の作品で、寒い時期に本領を発揮する3作を「MDCIと冬のジェントルマン」と題してご紹介しようと思います。ちなみに、今回とMeet LPTVでのセシル・ザロキアン特集で登場するフェット・ペルサンヌ(2016)を併せると、LPTはMDCI全22作(廃番のアンレヴマン・オ・セライ含む)の全点踏破が叶い、国内唯一のMDCIアーカイヴとなります。LPTで全点踏破できている10作以上発売実績のあるブランドは、他にピュアディスタンスとグロスミスがありますが、ここにMDCIが加わり、10年来追い続けてきた者としては感無量の思いです。

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ティツィアーノ「手袋の男」

(原題:L'Uomo dal Guanto / L'Homme au Gant, 1523) ルーブル美術館収蔵

MDCIのメンズ最新作として、2019年に登場したペインターズ&パフューマーズシリーズの中で、冬向けと言えばこのロム・オー・ガントでしょう。初めて試香した際、日本では明らかに寒い時期のほうが美しく香ると思い、とっておいた作品です。この香りの主人公は、ルネサンス期のイタリアで活躍したヴェネツィア派肖像画家の巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオ(通称ティツィアーノ、1488-1576)が30代前半で描いた「手袋の男」。ヴェネツィア在住の青年、という以外、この男性についての記録は何も残っていないのですが、実直そうで、そうでもなさそうで、どこか天然系の雰囲気漂う彼の手元にご注目。左手に革手袋、右手はフレミング右手の法則になっています。ジョン・フレミングが電磁誘導の法則を19世紀末に発表する400年近く前の話ですが、何の関係もないと思います。

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作者のティツィアーノは、ユーロ前のイタリア紙幣(2万イタリアリラ、左)の裏面に肖像画が乗るほど高名な画家で、生まれた時から一度も生活に困ることなく運と実力で富と名声を手中に収めながら、美術史にとって重要な作品を数多く残す一方で、60過ぎた頃スペイン王フェリペ2世の依頼を受けて描いた肖像画で、イングランド女王メアリ1世とのご成婚が決まるなど、歴史も動かすいい仕事をしながら生涯現役バリバリでしたが、90を目前に控え、なんとペストで死去。人生何が起こるかわかりません。鬼籍で今般のコロナ禍をどう見ているのか、是非伺いたいところです。 

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ロム・オー・ガント EDP 75ml ウー度★★☆☆☆

ペインターズ&パフューマーズシリーズは、この75mlサイズのみ

調香は、ペインターズ&パフューマーズシリーズのレディス作品のうち、レメー(2020)を手掛けたナタリー・フェストエアで、香りとしては時流に即したウード感のあるアーシーなウッディオリエンタルですが、ムエットでは前面に出るウードっぽさは、肌に乗せると最初のいくばくかだけで、自然と他のウッディノートと同化し、ほどなくMDCIらしい、スケールの大きなヨーロッパの香りとなっていきます。体温に温められた甘さは坦々と柔らかく広がり、気持ちが解けていく心地よさは、確かに革手袋で温められた手のぬくもりのよう。ベースにはトンカビーン、ベンゾイン、バニラ、ガージャンバルサムなど甘々あったか香料満載、パチュリとシダーウッドで甘さに寸止め。これがロム・オー・ガントの種明かし。甘さの芯がほんのりパウダリーなバニラトンカ系で、さすがはナタリー・フェストエア、当世粉物二傑ナタリー(もう一傑はナタリー・ローソン)の名に恥じず、このほんのちょっとの粉物感で俄然肌なじみよく、年齢性別問わずお楽しみいただけます。どことなく店主タヌを彷彿する前髪パッツン、耳上おかっぱ頭の手袋青年、この髪型は当時のヴェネツィアで流行っていたんでしょうか。しかも、男らしさを演出しているつもりのうすらヒゲ、ない方が男っぷりUP(個人の感想です)。穏やかでいて、どことなく気もそぞろなあっち向いてホイ的眼差しは、頭の中では右手の指差しで「バキューン!」とでも思っているのかもしれませんが、まあ多少何を考えているかわからない位のほうが、魅力の伸びしろがあっていい気がします。
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左)バキューン!右)フレミング右手の法則。学校で習うのは左手の法則
手袋青年はせいぜい30手前といった風情なのに、ジェントルマンのポラロイドに映ったのは50代半ばの上品なおじさん。いつもスーツ着てそうでも、ウェブ会議じゃ下はパン1が常識の昨今、もはやジャージすら着ていないかもしれません。でも急に宅配便が来た時、配達員さんを待たせないためにも、在宅勤務中ジャージの下くらいは履いていて欲しいな、そうジェントルマンに期待します。バキューン!
 
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