La Parfumerie Tanu

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Terre d'Hermès Eau Intense Vetiver (2018)

立ち上がり:少し甘さがあるENCRE NOIREという感じです。柑橘系&スパイシーな香りでベチバー感は甘さの部分で多少感じるくらいか。
 
昼:スパイシーな感じは背景に退き、ベチバー形の香りが前面に出てきました。柑橘系の香りと相まって重さはなく爽やかな感じ。
 
15時位:最初から軽い感じの香りだったのでこの時間位になると大分弱い。
 
夕方:上品な甘さの余韻を残して終了。この季節には合いそうです。盛夏は汗ですぐ流れそうかな。
 
ポラロイドに映ったのは:全体的は爽やかなのだが声だけが時代劇や特撮の悪役声の青年。や、私はそういう声好きですよ。「抹殺!」
 
Tanu's Tip :
 
前回の「秋のベチバージェントルマン」で登場したエルメスのベストセラー、テール・デルメス。日本では既にフレグランスは終売で、2019年10月現在、公式オンラインストアにはソープとアフターシェーブバームしか取扱がありません。本国では濃度違い、サイズ違い、限定デザインボトル、バスライン、そしてドジョウがわんさか継続販売中で「Terre d'Hermès」で検索すると、ヒット数は実に50件!たとえそれがロングセラーでも、日本じゃそんなの関係ねえ、あれだけ大々的に上陸してもあっという間に飽きられ消えていく様が、わかりやすく理解できる好事例です。オリジナルのテール・デルメスは前エルメス専属調香師、ジャンクロード・エレナ作でしたが、2018年夏に発売したばかりのドジョウ、テール・デルメス・オー・アンタンス・ベチバーは、エレナ師から世代交代したクリスティーヌ・ナジェルが手掛けており、発売されてまだ1年なので当然今でも現役ですが、ハイエンドラインのエルメッセンスはやたらと珍重されるのに、こういうメンズのレギュラーラインは逆に話題作りが難しいのか、日本では上陸したのかも記憶にありません。
 

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テール・デルメス・オー・アンタンス・ベチバー EDP 100ml 日本未発売
香りとしては、今回ご紹介した秋のベチバー中、最もそつなくベチバーを楽しめる逸品で、一言で言って「辛口グレープフルーツベチバー花椒味」。オリジナルのテールデルメスにぐっとベチバーとグレープフルーツをチューンナップし、そこに麻婆豆腐の決め手役、四川山椒がキリッキリ香り、爽やかなシトラスアロマティックに仕上がっています。 

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この四川山椒が、傍で香るとアンクルノワールとベチバーのいいとこどりのような、しびれる爽やかさと淡麗だけではない肌馴染みの良さとメリハリ、そしてオードパルファム濃度に恥じない持続性、オリジナルに敬意を表しつつ、より若々しく仕立てた秀作です。メンズらしい香調ですが、アンクルノワールを着こなせる方だったら女性でもお楽しみいただけると思います。個人的にはそこはかとなく甘ったるさが残るオリジナル版より、このベチバー版の方が好みで、ジェントルマンにもお似合いでした。さすがはジェントルマンご贔屓の双璧、ゲランのベチバーとアンクルノワールの中間地点を彷彿した香りです。オリジナルが肌の露出が少なめの知的で品の良い殿方だったら、テール・デルメス・オー・アンタンス・ベチバーは、彼より少し若くて、瞳の色が薄くてきれいな品の良い青年。だけどどこか刺さるものがある。そう、声がちょっと悪い。ガラガラ声とか汚い声ではなくて、いい意味で悪役声。だから余計に印象深い。「あの男の子、黙ってると薄口のイケメンだけど、しゃべるとなんか迫力あるのよね~」「抹殺!とか叫んだら最高似合うわね」なんて、妙齢加齢のご婦人に大評判です。そこでポラロイドに映ったのが、宇宙刑事シャリバン(1983-1984)に登場する悪役、 栗原敏演ずるガイラー将軍。

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ガイラー将軍(右)と上官のドクター・ポルター(左:吉岡ひとみ)。双方、とても役作りとは思えない弾けた笑顔。どの回のショットかは是非「宇宙刑事シャリバン」の再放送で見つけてください。ちなみに吉岡ひとみは、ドクター・ポルター役を最後に女優業を寿引退しました
当時の栗原敏は32~33歳、まさにテール・デルメス・オー・アンタンス・ベチバー世代です。決め台詞は「抹殺!」話の回によって、平常心で抹殺!という話もあれば、指さし半ギレで「抹殺~!!!」と絶叫する回もあり、画面を見なくても音声だけで悪役だとわかるのは、まさにポラロイドに映った青年そのもの。ガイラー将軍のヘアスタイルはハリボテですが、口ひげは栗原敏の自前で、その証拠に同時代に出演した彼の姿は、現代劇・時代劇を問わず同じひげ。ひげがないと丸目丸顔な栗原さんは甘口になりすぎるのか、ひげでワイルドさを演出していたのかもしれません。
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特撮、現代&時代劇。自前のひげが引き締め役の栗原敏
さて栗原敏さんは1990年代から現在日光江戸村で活躍中。江戸村では、入場すると武士や忍者姿の時代俳優たちが親しく挨拶してくれます。20世紀の終わり頃、ジェントルマン同伴で江戸村に行きましたが、門をくぐると「ごゆるりと楽しまれよ!」と侍装束の男性が出合い頭に威勢よく声をかけてくれました。さすがに声まで覚えていませんが、あれは、もしかしたらガイラー将軍だったのかも…と思うと嬉しさ倍増です、抹殺~!!
 
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