La Parfumerie Tanu

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Vetiver Insolent (2016)

立ち上がり:ベチバーというより強烈なニッキ臭が・・・浅田飴でも食べた気分になります。
 
昼:この時間で既に大分香りが弱く・・・残暑に負けているのか?残香はまだまだニッキ。ベチバーはどこに?
 
15時位:おーい?どこ行った?微かなニッキ臭&モス系の香りがそこに居たであろう痕跡を残してるが。捜索願を出すか・・・
 
夕方:失踪届を出しました。
 
ポラロイドに映ったのは:喉が弱い虚弱体質の男、夏でも長袖を着てる。顔に常に斜線かかってる感じ。藤子不二雄Aの漫画に出て来る気弱なキャラタイプ。
 
Tanu's Tip : 
 
イギリスの女性調香師ブランドとして、現在最も有名なのはジョー・マローンだと思います。ちょっとコスメやフレグランスに興味のある女子なら、ジョー・マローンの名前は知らない人はいないと思います。1999年エスティローダーに買収され、大きめな空港なら単独店が幅を利かすほど世界中で大人気のブランドに成長したジョー・マローンですが、国内でも新作が出れば大々的にプロモーションイベントを行い、通りがかりのデパート客に香り付きムエットをじゅうたん爆撃のように配っているイケメン販売員に幾度も遭遇した事があります。

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リン・ハリス。あなたのフルオーダー待ってます♬
一方、イギリス北部出身で、5年間がっつりフランスの調香学校で学び、老舗香料会社ロベルテに所属した後、故郷に錦を飾らんと母国に戻ってきた女性調香師、リン・ハリスがパートナーのクリストフ・ミシェルと未公開株投資会社、ネオ・キャピタルの支援で創業したブランド、ミラー・ハリスのデビューは、さきのジョー・マローンが、同年ロンドンにフラッグシップ店をオープンした翌年の2000年。英国ブランドに特徴的な、ボタニカルな空間演出路線は共通点があるものの、ミラー・ハリスはイギリスのお天気さながら、どこかほんのり薄曇り、晴れたと思ったら通り雨。もちろん資本規模の違いもありますが、なんとなく図書館司書の妄想的な、アノラックな不思議少女路線が漂うところが、ジョー・マローンとの大きな違いです。「英国で唯一古典調香を学んだ女性調香師」と言われるリン・ハリスは、天然香料を多用し伝統的な調香技術で制作する中2006年、女優のジェーン・バーキンに「レール・ド・リヤン(虚無の空気)」をオーダーメイドした事からその名声が決定的になり、世界60か所以上の販売拠点を持つインディ系メインストリームの頂点にたちましたが、自分には成長しすぎたと感じたのか、2015年ミラー・ハリスを離れ、オーダーメイド中心のラボ型香水店、パフューマーHを立上げ猛烈なダウンサイジングを行いました。イギリスでは意識高い系メディアによく取り上げられていて、レディメイド作品は100ml175ポンド(≒23,000円)から、顧客が自身の名前を付けて永久欠番となり、いつでも再オーダー可能な「処方販売」は1500ポンド(≒20万円)、フルオーダーメイドフレグランスは15,000ポンド(≒200万円)から注文可能です。

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ミラー・ハリスは、2000年代に日本上陸した後一時撤退、2016年にインターモード川辺が輸入代理店となり再上陸しました。近年は経営戦略を見直し、腕利きの若手ディレクター、セーラ・ロゼラム(33、写真左)を迎え、2023年までに売上高の10倍増を目標に据えた5か年計画ポートフォリオのもと、英国内だけでなく中国や香港などアジアへも積極展開、季節ごとに新作をバカスカ出す普通のメインストリームブランドになり、2019年上半期だけでも既に6作出ています。昨年の伊勢丹サロンドパルファンでも来日しプロモイベントに登場した、銀髪のセーラさんを覚えている方もいらっしゃると思います。再上陸後の作品は、当然調香もリン・ハリスではなく、メゾン系売れっ子調香師のマチュー・ナルダン(近作ではアニック・グタール、ペリス・モンテカルロ、ウビガンなど多数)とベルトラン・ドシュフュールが調香を手掛けています。
 

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ベチバー・アンソラン EDP50ml 国内価格13,500円(税込、2019年9月現在)
今回ご紹介する「生意気ベチバー」の名を持つベチバー・アンソラン(国内表記:ベチバー・インソレント。国内では英語発音に則った発音表記ですが、英語表記なら'Insolent Vetiver'となるため仏語表記が正しいと思います)は2016年、マチュー・ナルダンの手によるもので、日本でも取扱があるため、お試しになった方も多いのではないかと思います。香りの印象は、生意気というよりは「錯覚ベチバー」。ベチバーをテーマにしていながら、爽快なベチバーを感じるのは最初の一瞬で、煙香とともに、甘辛スパイスやウッディノートが混然一体となって、何故か辛口のウード香に錯覚します。ジェントルマンも香調には記載のないシナモン(ニッキ)を強烈に錯覚していますが、私の肌では完全ウード。甘くておいしく懐かしい浅田飴ニッキ味はついぞ登場せず、いつまでもくぐもった素敵なスモーキーウードのまま、気づいたらフェイドアウト。 

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前回のベチバー・オリエンタルよりは持ちがよく、同じ条件で寝香水としてつけた翌朝、肌の上にはまだウード香が残っていました、ってあれえ?ベチバーだよね?ベチバーじゃないなら、カッコつけないではっきり言ってよ!その辺が生意気なんでしょうか。でも全体的な印象は弱含み。この辺がジェントルマンのいう「気弱なキャラタイプ」なんでしょうか。ただ、ベチバー・ウード・パチュリは、前世は兄弟か?と言う位、印象が端と端で繋がっている香料なので、ベチバーかと思ったらウード、パチュリだと思ったらベチバー、という嗅ぎ分けの難しさも実はあるという事を、お香の調香師である香司の方に伺ったことがあり、ウードとベチバーを間違えるのは、当たらずも遠からじで別に鼻バカというわけではないようです。でもシナモンとベチバーは流石に間違えないと思うのですが…。
 
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ドーン!ドーン!!ドーン!!!
ところで、LPTとしては初登場ブランドの、しかもこの作品をいきなり連れてきたのは何故?それは、ミラー・ハリス今春の新作、バイオレット・アイダが、個人的にどストライクで大満足の石膏系粉物だったので「今まで単なるボタニカルな空間演出系の意識高い系ブランドだと思ってノーマークだったけど、こういうのも出すんだ!」と俄然興味がわいたのと、ミラー・ハリスは(多分)5か年計画が立ち上がった前後から、ディスカウンターにどんぶらこっこ流出しており、このベチバー・アンソランも50mlで40ドル程度とアフォーダブル系の仲間入りをしていたので、いい出会いを探して、つい出来心で…ドーン!!というわけで、ベチバーという名で素敵な錯覚を味わいたい方、あれこれ混ざってウードっぽく香るスモーキーでアーシーなベチバーってどんなもんか試してみたい方にはおすすめです。もう一度、ドーン!!
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