連作「恋の成り行き」は、時の国王ルイ15世の公妾、デュ・バリー夫人がド貧民から王の妾にまで成り上がり、王から邸宅であるル-ヴシエンヌ館を賜り、調度品のひとつとしてフラゴナールに依頼したもので、納品から1年くらい館に飾られていましたが、この妾、事もあろうに館の内装をロココ調から当時最先端の新古典主義へリフォームし「うちのインテリアに合わないから、返すわ。もう他の絵描きに新しく描いてもらったし」と納品後1年もしないうちにまさかの返品。一点ものを依頼しておいて、フラゴナールは納品時ちゃんと代金は受け取っていたのか気になりますが、フルオーダーは常にノークレームノーリターンでお願いしたいところ、狭い屋敷でもないくせに、納屋にでもしまっておけばいいものを、不用品扱いで作者に返すって、なんつう失礼な女!しかしながら当時のデュ・バリー夫人は絶大な権力を掌握し、フラゴナールは物申す事もできず、すごすご返品を受け取り、自分ちにも置く場所がなかったのか、4枚とも従弟の家に飾ってもらったそうですが、返品した翌年の1774年、ルイ15世が天然痘で崩御するやデュ・バリー夫人はみるみる失墜、フラゴナールもざまあ見ろとばかりに連作の続編にあたる「棄てられて:物思い(原題:Abandonnee ou Reverie、1790-91年、米フリック・コレクション収蔵)」をフランス革命の翌年に描き、めくるめく恋愛成就だった連作のオチを女が棄てられどっとはらい、に更新し、デュ・バリー夫人は1793年斬首刑になるも、その後フラゴナール自身も這う這うの体で没落、1806年失意と貧困のうちに生涯を閉じるという、聞いたこちらも拳の降ろしどころはおろか、振り上げどころすらない幕引きとなっています。