La Parfumerie Tanu

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SLM <Sous le Manteau> : Olfactory love potions

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かねてより復刻系作品には目がないクラシック香水紹介ブログ、LPT。これまで多くの「蘇った」香りを紹介して参りました。蘇生ストーリーの一例としては①大洪水に遭った地下室の復旧作業中、処方が偶然出てきて復興②テレビのルーツもの番組にハマって自分も先祖巡りをしていたら、数代前が王室ご用達級の香水会社で私財投げ打ち復興③合成香料だけの香水ブランドを起業したオーナーが、すべての処方を所有している親族を指南役に復興④勤務先が買収した斜陽企業を上司に復興提案するも却下され、退職し投資家として買取をかけ子孫と共同復興⑤在学中の起業プランで権利売却中のブランドを買い取り、卒業後仲間と復興…と、復興系にも色々パターンがありますが、今回登場するのは香水の処方ではなく、なんと19世紀末に記された薬局の調剤台帳に残っていた処方をベースに、21世紀の現代、香水に姿を変えて蘇った媚薬たちー

 

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本来媚薬とは、内服及び外用薬として、日本では意中の相手を振り向かせるというよりは、既に交渉成立している相手をより感度良好にさせていい雰囲気に持ち込む、実用目的の局部外用薬が多かったようですが、西洋のオペラ等では、自分に興味のキの字もない相手を、媚薬を飲んだらめでたく恋が成就しました、ありがとう媚薬!みたいな使い方(ドニゼッティ「愛の妙薬」)から、昔々某国のお姫様が、政略結婚で嫁ぐ王様との初夜に内服するはずの、母君がわが娘に持たせた超絶媚薬(持たせんなコラ)を、護衛係でやってきた王の息子と一緒に飲んでしまいマッチング成立、壮絶な親子不倫状態に陥るという間違った用法(ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」)まで「飲んで相手をどうにかする」内服系が多く、しかもそれはあくまで架空の話として効果を誇張したもので、かなりの眉唾物というのが現代における共通見解のようです。原料は、一応医学的に恋愛感情が証明されたフェニルエチルアミン(PEA)を微量に含有しているチョコレートやココア、バニラをはじめ、サフランや朝鮮人参などの民間伝承薬、ムスク、アンバーグリスと、案外香水原料としても使われているものがなくもないのが面白いところです。
 

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左)SLM創業者オリビア・ブランズブール 右)調香師ナタリー・フェストエア
Sour le Manteau(SLM)は、ニューヨークを拠点に活動するアート・プロデューサー、オリビア・ブランズブールが2016年に立ち上げたブランドで、オリビアさんはフランスで多言語翻訳やアート系キュレーション、美術史を学んだ後、ギャラリー勤務を経てベルリンのホロコースト記念碑の設計に携わった現代アーティスト、ヨッヘン・ゲルツのスタジオで長らくプロジェクト・マネージャーを務め、2005年に独立後ファッション&アート融合マガジン’ICONOfly'を創刊(2015年休刊)、雑誌と連動して2009年には最初の香水ブランド、アタッシェ・モアをスタートしましたが、より本格的でコンセプチュアルなフレグランスラインとしてマスター・パフューマー、ナタリー・フェストエアとタッグを組んだのがSLMというわけです。ICONOfly運営の傍ら、2012年からSLMを起業するまでの間、高砂香料のクリエイティブ・ディレクターも務め、香水業界へも深く関与していたオリビアさんは、たまたま19世紀末の薬局が使用していた調剤台帳を手に入れます。そこには、治療薬は勿論、なんと媚薬の処方まで記されていて、エタリーブルドランジュの粉物香水、プタンデパレをご自身のシグニチャーとして愛用していたオリビアさんが、プタンデパレを手掛けたナタリーさんに「古い媚薬の処方をベースに、香りを作って欲しい」と依頼したのがSLMの始まりでした。 

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19世紀末の調剤台帳。この頁にはヴァプール・ディアブロティーヌの原型となる処方が記されている
処方台帳に記された媚薬を基に、21世紀の現代に現れた5つの「香る媚薬」、その名は
 
-Poudre Impériale (皇帝の粉) ウッディオリエンタルアンバリー
-Fontaine Royale(高貴なる泉)フローラルパウダリー
-Cuir d'Orient(東洋の革)オリエンタルアンバリー
-Essence du Sérail(後宮の露)フローラルオリエンタルアンバリー
-Vapeurs Diablotines(悪魔の吐息)オリエンタルスパイシー
 
と、その名もにぎにぎしいものばかり。どこかヴィンテージ感を伴うタイムレスな香調で、明るく弾けた爽やかで快活な香りは一つもなく、一言で言って「ダウナー系」。ゆるゆると展開するドゥームな序破急は、まさにLPT2021年上半期超新星と言っても過言ではありません。5作とも甘くけだるい共通のパウダリーなトーンがあり、ベースになったそれそれの媚薬自体「似たりよったり」で、匙加減として特定の原料を「ムスクましまし」「シナモンましまし」で風味にバリエーションをつけている感じなので、そこに香水処方として粉物女傑ナタリー・フェストエアの魔法がかかると、仕上がった香りの媚薬が大なり小なりパウダリーな表情になるのは自然の成り行きと言えましょう。
 

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本国フランスでは2017年より、アメリカでは2018年より販売開始したSLMですが、イギリスへの上陸は2019年だったようで、昨年9月、英国フレグランス協会主催、UKアワード2020にてブランドがニューカマー・オブ・ザー・イヤーを受賞し、発売から数年経っていたとはいえ、一気に世界の注目を浴びることになりました。ちなみに私も、SLMは全くノーマークだったのですが、同じFIFI UKアワード2020にマルク=アントワーヌ・バロワのガニメデがメゾン・フレグランスにおける最優秀賞、パフューム・エクストラオーディネールを受賞した際、表彰式ではガニメデの前後で表彰されたのがSLMで、調香が全作LPT御好、粉物女王ナタリー・フェストエア(前出のプタンデパレをはじめ、MDCIの近作や今秋発売予定のピュアディスタンス新作、N°12というLPT的に錚々たる作品群)というのも聞き捨てならず、オリビア・ブランズブールさんがオンラインで表彰コメントを述べていたのもうっすら覚えており、ブランドサイトなどを見るうち、さすがは媚薬の香りを売るだけあって、寝ても覚めてもSLMが気になるようになり、最初は取扱いのある香水店で2本ブラインドバイしたら大勝利、他の香りも欲しくなり今度は公式サイトに注文をかけたところ「確かに世界発送対応しているが、日本に出したことがないので、もし遅れなかったら返金します」という、アワードウィナーとは思えない初々しさで、初の日本人注文客として、パースサイズを送ってくれました。 
 
ここまでじらされて辛抱堪らなくなったところですが、長くなったのでレビューは次回! 
 
おまけクイズです!
冒頭の復興系ブランド例について、①から⑤まで、どのブランドか当ててください!全問正解の方には②~⑤のブランドから各1種、SLMから1種、計5種のLPTおすすめ詰め合わせサンプルセットをプレゼント!ブログのコメント欄(応募コメントはブログ上で公開いたしませんのでご安心ください)より奮ってご回答ください。
〆切:2021年4月30日(金) 
 
※当選は景品の発送をもって代えさせていただきます。
※当選者には、LPTより個別に連絡いたしますので、コメント時メールアドレスの記入をお願いいたします。
※回答は、後日当記事に追記いたします。
 
画像提供(本ページのみ):オリビア・ブランズブール
 

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SLMクイズ回答:

①パラッツォベッキオ

②グロスミス

③ルガリオン

④リュバン

⑤メゾンヴィオレ

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