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Cabaret LPT revisited | Door-to-door sales companies in the postwar SHOWA 1 : POLA

Theme 2 : 東名阪訪問販売系
昭和を代表する究極のパーソナルコンサルテーション

後半は、東名阪に現存する訪問販売系メーカーと、前回ご紹介できなかった重要ブランドをご紹介します。

訪問販売とは                            

まず、訪問販売という業態について述べさせていただきます。
訪問販売は究極のパーソナルコンサルテーションですね。今回ご紹介するメーカーでは、ポーラが1920年代後半、昭和初期から始めていました。戦後にはきちんとした販売戦略の元、沢山の販売員を指導育成し、顧客満足度の高いセールスを行いました。戦後昭和の購買層は圧倒的に専業主婦、しかも販売員がお客様の家族構成、世帯主の職業、ひいては年収まで把握することも可能で、家に伺うと言うことは、視覚的情報収集と、確かな情報に基づいた最適な提案型営業がその場で同時に出来ます。玄関がすべてを教えてくれる、いわば教師の家庭訪問と同じ情報収集力があるわけです。
よって、自然とお客様が欲しくなる商品を提案できるし、販売員との信頼関係で「誰々さんだから買う」という心理的効果も生まれます。また流通面では、卸商を通さないので高利益販売が可能でした。昭和の終わりまで、訪問販売で化粧品や香水を買う方は結構多かったのですが、女性の労働環境の変化で、女性が日中あまり家にいなくなり、訪問販売は徐々に下降線をたどっていき、販売員の数も半減しました。そこで、時流に合わせ、働く女性には会社帰りに、もちろん専業主婦でもエステサロンへ足を運んでもらうか、カタログまたはインターネットの普及でオンラインショップなど、通信販売で購入するスタイルが主流になっていきました。
うちの母もポーラを愛用していて、香水はつけなかったのですが、いつも基礎化粧品に合わせパヒュームパウダーを購入していて、風呂場ではなく鏡台のど真ん中の引き出しの一番手前に入れていました。

それでは、まず東京の老舗訪販メーカー、ポーラをご紹介します。

 

 

TOKYO:POLA|2015年に戦後昭和の国産香水はすべて廃番

ポーラは、今回ご紹介する訪販系メーカーの中ではもっとも古く、昭和6年、1929年に創業し、1985年からは通販部門のオルビスを立上げ、2006年にホールディングス化してポーラ・オルビスホールディングスとなりました。2015年までは鈴木一族が経営する同族企業でした。ポーラは1940年「ポーラ化成工業株式会社」を設立し香水の製造を開始、初の香水はサイクラメン(1940)でした。サイクラメンはミレニアム限定で2000年に復刻しました。対面で香りをお奨めできる訪問販売の良さを生かし、多くの香水をラインナップしていましたが、2015年にサクラガーデン1種を残し、全種終売してしまいました。トップに同族がいなくなった瞬間ジエンドです。戦前から香りには力を入れていたメーカーだっただけに、非常に残念です。

それではポーラの1960年代の香りをご紹介します。

11. モンスクレ(1963-2014) 香水

パルファムのみ発売された、ポーラの中では手頃な価格帯の香水でした。2015年のクラシック全廃番の1年前、2014年に廃番になりました。クローブ香の利いたクラシックなフローラルシプレで、1963年発売ですが、スタート時点で気分は戦前、発売当時としても既に古臭かったと思いますね。こういう香りは「おばあちゃんの鏡台系」と十把ひとからげに言われてきましたが、もはや「ひいおばあちゃんの鏡台系」ですね。とても1963年発売の作品とは思えないです。戦前の流行をひきずった訪問先の奥様のニーズに応えたのでしょう。「奥ゆかしいシプル・スパイシィ、和服にも合う気高い香り」で、資生堂の琴でも話しましたけど、当時まだ勝負服は和装の方が多かったし、訪販使う奥様の懐事情も考えて、ニーズに合った香りだったと思います。やみくもに廃番になるのは悲しいですけど、店頭販売のメーカーだったら、ここまでクラシックな香りは早々に見切りをつける所、ご高齢の訪販利用客に合わせて、ギリギリまで残しておいた感じです。老朽化マンションの建て替え問題にも通じるものがあります。

このボトル、凄くレトロでキュートなんですが、所有している一番古いモンスクレのキャップを開けようとしたら、堅かったのでぎゅっと回したら掌で握りつぶしてしまいました。突然異能が発現したかと思いましたが、プラスチックが劣化していただけでした。

モンスクレ 香水 終売直前に流通していたと思われるボトル。国産香水はゲランやシャネルのように製造番号(バッチコード)の体系化した情報が少なく、ヴィンテージ品の製造年代を特定する事が難しいが、日本は昭和の終わりとバーコードの普及時期がほぼ同じで、外箱にバーコード印刷があれば平成(1989-2019)の製造、更に平成元年(1989)より消費税制度が始まり、税抜・税込表示と消費税率の違いで数年スパンの製造年は特定できる

次は1970年代の香りです。

12. アデリーヌ(1972-2015)

アデリーヌです。戦後昭和のポーラ香水はベースがニベアとかオロナインを彷彿とするフローラルブーケで、トッピングで香りのバリエーションを作っていました。モンスクレと同じく手頃な価格帯だったアデリーヌも、冒険せずに手堅くスキンケアの延長戦にある、当たり障りのないクリーミィなフローラルブーケです。唯一ボディパウダーだけ現存していて、POLAの販売店でのみ取寄せ販売しています。

アデリーヌ 左よりオーデコロン、香水、ダスティングパウダー(ローズアコード) 
パウダーのみ現行販売あり

ちなみにポーラは、ボトルには中栓をつけ、その上にシーリングをして販売していたので、未使用品のコンディションが凄くいいんですよ。今回ご紹介するメーカーで、一番コンディションの良いものが手に入るのはポーラです。しかも、全部廃番とは言え2015年までは結構残っていたし、海外ブランドだったらデッドストックレベルの新古品が手に入るので、戦後昭和の国産香水にチャレンジするならポーラからをお勧めします。

左より)①香水の中栓にシュリンクラップ ②オーデコロンの本体にスクリューキャップ+シュリンク ③さらにキャップを開けると中栓付き。スプレーは別添で、つけなくても使用可 ④スプレーが本体にセットされているものも、キャップ+シュリンク付。中栓付のボトルは他メーカーでも多いが、当時のポーラの品質管理には感服する

13. ランコントレ(1975-2015)

ポーラの資料では、神秘的なブーケ・グリーンとあります。体感的にはグリーンフローラルアルデヒドです。クリーミーでニベア・オロナイン系で、優しく肌馴染みがよいですね、肌に乗せて香りを試していて非常にくつろげました。おかーさーん!と叫びたくなる、これがポーラトーンですね。高度成長期、ランコムのクリマなどを彷彿しますが、一番の近似値は当時空前のヒットを放っていたフィジー(1966)でしょうか。日本人に大変親しみやすい路線の香りです。ただ、発売年を考えると、10年古いかなって気がします。
ところで、さっきからオロナインが解説に頻出しますが、オロナイン使った事あります?1953年に発売された、きずなどの塗り薬で,今年生誕70年。後ほど登場するオッペン化粧品と同い年です。薬なのに凄いフローラル香料が入っていて、原料の匂いをマスキングするための工夫だったみたいですが、今売ってるオロナインは原料の精製が進んだのか、かなり香りが控えめになって物足りないんですよね。昭和のオロナインは誰でもイメージできた、クリーミィなフローラル香で、登場した50年代のレトロな香りを今に留める生き証人みたいな存在で、LPTで「オロナイン系」は高評価です。

ランコントレ オーデコロン、香水 右後ろの丸い容器はパウダーではなく香水ケース。70-80年代、ポーラの香水(パルファム)は香水+香水ケース+ケースを引き上げて取り出すポリシート+外箱、といういたせり尽くせりのパッケージだった。
少し前の海外高級ニッチやアラブ物の過剰包装とはベクトルが違う過剰っぷり

次は1980年代の香りをご紹介します。

 

14. シャスレス(1981-2015)

シャスレス、ポーラの資料では「夢を射る女性」逸る心をイメージしたブーケ・フルーティ。清楚なブーケにフレッシュなカシスでアクセントをつけた、現代的で可愛らしい、甘酸っぱいときめきの香り」とあります。
ランコントレとベースはほぼ近似値、立ち上がりにヘディオンとガルバナムでスカっとグリーンに始まりますが、あまりフルーティは感じませんね。この当時のフルーティは、バブル期、平成以降に出てくる、食べられそうなフルーティフローラルとは次元が違います。その後はやはりオカーサーン!なポーラトーンに落ち着きます

シャスレス 香水、オーデコロン

ポーラの最後は、セレニオンをご紹介します。

15. セレニオン(1989-2015)

セレニオンは、1989年とギリギリ平成の作品ですが、当時10万したというのでネタで紹介します。当時はおりしもバブル景気絶好調、私が就職した年ですが、賞与が年3回出た年もあるほど、沸きに沸いた時代で、今コロナ明けで伊勢丹が31年ぶりの過去最高益をあげたとニュースになっていましたが、この31年ぶりとは1992年の売上で、バブルが崩壊する直前ですね。ただ、今は貧富の差が拡大して、ド金持ちがコロナで行くとこなくてデパートで買いまくっているのと、徐々に戻ってきた外国人観光客が円安で爆買いして最高益だったのが、当時は日本人が本気で買い物をしてました。そんなわけで、訪問販売で、10万円の香水が新登場でも、買っちゃう勢いってあったと思うんですよ。当時の販売員さんのおすすめトークを聞いてみたかったですね。

セレニオン 香水 30ml もちろんこれにも引上げ用のポリシートと外箱付

香りとしては、これも確かに重厚で荘厳なフローラルシプレで、それまでの親しみやすいポーラのオカーサンテイストがぐっと引っ込んで、フローラルも、花香料だとわかるけど、何の花だかわからない、未体験ゾーンの花畑で、「世界各地の効果で珍しい香料を調合。気品に満ちた重厚な香りは、世界でも指折りの傑作です」と言い切りたいポーラの気持ちがよくわかります。ただ、もうすぐ90年代に入るというタイミングで出るには、15年くらい古いかな?さきほどのすずろの辺りに出てくるならわかりますけど、資生堂のようにゲームチェンジャー的な香りを作って社会現象を起こすより、おしなべて今の流行よりちょっと前を目指したほうがよく売れる客層向けだったんだろうな、と思います。

続いて、名古屋・大阪の訪販系メーカーをご紹介します。

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