La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Cabaret LPT vol.4 | Pola, Nippon Menard, Oppen

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パターン2:訪問販売系化粧品会社                      
 

〈東名阪訪問販売系〉
まず、訪問販売という業態について述べさせていただきます。
訪問販売は究極のパーソナルコンサルテーションですね。今回ご紹介するメーカーでは、ポーラが昭和初期から始めていました。戦後にはきちんとした販売戦略の元、沢山の販売員を指導育成し、顧客満足度の高いセールスを行いました。戦後昭和の購買層は圧倒的に専業主婦、しかも販売員がお客様の家族構成、世帯主の職業、ひいては年収まで把握することも可能で、家に伺うと言うことは、視覚的情報収集と、確かな情報に基づいた最適な提案型営業がその場で同時に出来ます。玄関がすべてを教えてくれる、いわば教師の家庭訪問と同じ情報収集力があるわけです。
よって、自然とお客様が欲しくなる商品を提案できるし、販売員との信頼関係で「誰々さんだから買う」という心理的効果も生まれます。また流通面では、卸商を通さないので高利益販売が可能でした。昭和の終わりまで、訪問販売で化粧品や香水を買う方は結構多かったのですが、女性の労働環境の変化で、女性が日中あまり家にいなくなり、訪問販売は徐々に下降線をたどっていき、販売員の数も半減しました。そこで、時流に合わせ、働く女性には会社帰りに、もちろん専業主婦でもエステサロンへ足を運んでもらうか、カタログまたはインターネットの普及でオンラインショップなど、通信販売で購入するスタイルが主流になっていきました。
うちの母もポーラを愛用していて、香水はつけなかったのですが、いつも基礎化粧品に合わせパヒュームパウダーを購入していて、風呂場ではなく鏡台のど真ん中の引き出しの一番手前に入れていました。
 
<東名阪訪問販売系>東京:ポーラ化粧品
 
東京は、ポーラをご紹介します。
ポーラは、今回ご紹介する訪販系メーカーの中ではもっとも古く、昭和6年、1931年に創業しました。対面で香りをお奨めできる訪問販売の良さを生かし、多くの香水をラインナップしていましたが、2015年、サクラガーデン1種を残し、全種終売してしまいました。戦前から香りには力を入れていたメーカーだっただけに、非常に残念です。
 
ランコントレ(1975)

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ポーラ ランコントレ 香水 20ml
★神秘的なブーケ・グリーン(公称)
グリーンフローラルアルデヒド
クリーミーでニベア・オロナイン系ですね、優しく肌馴染みがよいですね、肌に乗せて香りを試していて非常にくつろげました。おかーさーん!と叫びたくなる、これがポーラトーンなのでしょうか。
高度成長期、ランコムのクリマなどを彷彿しますが、一番の近似値は当時空前のヒットを放っていたフィジー(1966)でしょうか。日本人に大変親しみやすい路線の香りです。
 
シャスレス(1981)

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ポーラ シャスレス 香水
★「夢を射る女性」逸る心をイメージしたブーケ・フルーティ(公称)
清楚なブーケにフレッシュなカシスでアクセントをつけた、現代的で可愛らしい、甘酸っぱいときめきの香り。
ランコントレとベースはほぼ近似値、立ち上がりにヘディオンとガルバナムでスカっとグリーンに始まりますが、あまりフルーティは感じませんね。この当時のフルーティは、バブル期以降に出てくる、食べられそうなフルーティフローラルとは次元が違います。その後はやはりオカーサーン!なポーラトーンに落ち着きます。
 
 
<東名阪訪問販売系>名古屋:日本メナード
 
メナードは、1959年、ヘアケア商品のダリヤから訪問販売部門を独立し、名古屋に創業したメーカーで、香水製造という点で最も勢いのあるメーカーと言って良いでしょう。海外ではメゾンフレグランスブランドとして位置付けられ、フィレンツェのピッティフレグランツェなどニッチ系ブランドのフレグランス展示会に出展したり、ワルシャワの最高級香水店、クオリティミッサラにてフレグランスやスキンケアラインの取扱があるなど、他のメーカーに比べて独自の路線を行っています。
 
モンプティルウ(1973)

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日本メナード モンプティルゥ 香水
日本メナードのフレグランスの現行ラインナップとしては最長寿となるモンプティルゥは、メナードが岩下志麻、松坂慶子と専属契約した翌年、創業より14年目にあたる1973年7月に発売され、昨年メルファムのパルファムが終売した2017年2月現在、メナード唯一のパルファム(香水濃度)となりました*。ちなみにメナードは、1970年代に発売された香りをなんと5種類も現行品として作り繋いでおり、クラシック香水ファンにとっては桃源郷のようなメーカーです。
 
フランス語で「愛しい人」「小さな恋人」の名を持つモンプティルゥですが、まさに「愛しい昭和の恋人」。ちょっとだけ悪い女の予感も持ち合わせた、体臭のある芳香を放つ生身の女性を感じる、戦前の黄金時代の香りにも通じる往年のシプレーアルデハイド(フローラルアルデヒドシプレ)です。厚み、深さ、染み出し感、そしてパウダリーなベースと、クラシック香水への期待すべてに応えています。
 
濃厚なパルファムならではの抑えた香りの拡がりを武器に、肌の上でじわじわと香りの雲に変わり、ふとした動作にのぼる香りの色っぽい事、ここ日本で、国産香水の中から、廃番ではなく現行品で見つかり、真新しいボトルの金線を切ることが出来るのは、日々ヴィンテージを漁ってはカビジュースに撃沈を食らうクラシック香水ファンとしては、まさに「灯台下暗し」の幸せです。そして特筆すべきは、何と言っても1日の終わり、脱いだ下着に染み入る残り香の美しさで、自分で脱いだ服に自分で顔を埋めて「えええ〜香りや〜〜〜」と嗚咽を漏らす密かな愉しみのオマケ付きです。しつこいけどこれね、現行品で普通に買えるんですよ、夢みたいでしょ?これをね、おばあちゃんの鏡台の香り、とかいう人は別に買わないでいいんですよ、せっけんの香りとかつけてりゃいいんです。 うちはクラシック香水紹介ブログですからこれだけ推すんです。
 
メルファム(1979) 
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日本メナード 左:メルファム 香水 右:メルファムEDT,香水、香水(リフィル)
メルファムは、1979年の日本メナード創業20周年を記念し、かのギィ・ロベール師(1926ー2012)に共同調香を依頼するという、全社あげて発売した記念碑的香水です。まずパルファムが、2年後の1981年にオーデトワレが発売となりましたが、パルファムのボトルは、限りなく広がる宇宙空間に存在する太陽、月、そしてそれらにかかる霞や雲を表現しており、この贅沢なガラスボトルが製造できなくなり、惜しくも2015年に販売終了発表となったそうです。それでもしばらくは顧客の要望に応じ、詰め替え用ボトルにて販売していたそうです。現在のラインナップはオーデトワレとパフュームドパウダーという国産香水のミニマムスタイルになっています。
 
香りとしては、非常にスケールの大きいフローラルブーケパウダリーで、映画のスクリーンサイズで言ったら70mm、カメラレンズなら20ー24mmの広大なスケール感に満ち溢れています。現代の主流である薄くて軽くてきつい香り立ちとは無縁の、朝霧のようにくぐもってはいるが、すみずみと広い風景を眺めているような、達観した美しさがあります。私の体感では、グリーンフローラル・シプレに近いですね。シプレの基本、ベルガモット・ジャスミン・ガーデニア・ローズ・オークモス・パチュリといった王道の構成ですが、グリーンシプレ感が強く、ここが今の人が「古臭い」と一歩引くところかもしれません。このもたり感ですよ、向こうが透けない透明感ね。ここが確かに昭和然としています。今お試しいただいているオーデトワレより、パルファムの方がグリーンシプレ感が強いです。言葉は少ないながら佇まいですべてを語れる、女性の根源的な包容力があり、先ほどのモンプティルゥが肉体美なら、メルファムは精神の美だと思います。今メルファムをつけると、高揚感というよりは一歩、二歩…と自分の立居振舞いが穏やかになる錯覚に陥りますね、この落ち着きを日本女性の美しさとしてロベール師は表現したかったのだと受け止めます。現行のEDTとパウダーを重ね付けしたら、パルファムのくぐもったグリーンシプレ感がフローラル寄りにシフトして、敷居が低くなると思います。ここまでのスケールを持つ香水が日本にあり、まだ手に入るという意味では、クラシック香水ファンであれば一度は試して欲しい作品です。
 
*追記2021.2.19 上記レジュメは2017年1月現在の内容で、改廃情報はそのまま修正しておりません。2021年2月現在、日本メナードのフレグランス製品は、オードトワレ4種(緑映、重ね香、ルナモール、ブルワール)オードパルファム2種(オーセント、たおや香)を残しすべて廃番となっております。
 
<東名阪訪問販売系>大阪:オッペン化粧品
 
ホール・オブ・ビューティ(1978)

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オッペン化粧品 ホールオブビューティ(第二世代)
1953年 大阪に創業。もとは龍宝堂製薬という名前でした。現在は医薬部外品や健康食品にも力を入れています。
オッペンは、何といっても本支店ビルのデザインと「言ったもの勝ち」の迫力あるネーミングが特徴です。強気なコピーライトの勝利ですね。例えば
・六本木ロアビルにあったエステサロンは「東京ゴールデン・ドア(黄金の扉)」
・現在5代目となる看板香水は「ホール・オブ・ビューティ(美の殿堂)」
いずれも「めくるめく」という形容詞が似合います。
 
全国の主な本支店の建物も、異様という表現をしていいかわからりませんが、例えば昨春金沢へ行ったんですが、小松空港から金沢市内へ入っていく道のりに、ミニチュアの大仰な四角い香水瓶が、やはり大きなネオンサインをつけた巨大な横長のビルになったような、一目見て昭和の建物だとわかる異形の建物が出てきて、何だこりゃと思ったんですが、後で調べてそれが全国24か所の一つ、オッペン金沢支店で、ネオンサインは有名な「ネオン塔」と呼ばれるものでした。
 
オッペン(大阪)ホール・オブ・ビューティーは創立25周年を記念して1978年に発売されました。社花であるバラを用いた、カリスマ的存在感を持つローズのシングルノート(ソリフロール)、というより天然ローズオイルをアルコール希釈したもので、厳密にいえば調香を施したものではないが、天然ローズ香料の良さ100%を楽しめる、まさにバラ好きな日本人のハートを直球でわしづかみした「作ったもの勝ち」の香水。センチュリーローズをイメージしているそうです。大倫のバラですね。
ローズオイルはブルガリア産ダマスクローズで一年に一度の摘み取り花だけを使っているそうで、プレスリリースでは香水の究極、シングルフローラル」。ここでも言ったもの勝ち発言が出ていますね。 パッケージのモデルチェンジを重ね、現在第5世代として現行販売中です。
 
初代:1978年発売(香水)
二代目:1989年発売(香水)
三代目:1992年発売(香水)
四代目:2000年発売(オードトワレ)
五代目:2014年発売(香水)
今お試しいただいているのは1989年に発売されたホールオブビューティ 第2世代ですね。
 
ちなみに現行の第5世代ホールオブビューティーは、
〇2,000個限定発売
○IFRA規制クリア(天然精油安全性規制)
○ノンアルコール香水
◇20ml 30,000円(税別)
 
2021.2.19追記
*現在ホールオブビューティは第6世代、オードトワレに代替わりしている
 
 次はカリスマ美容家系をご紹介します。
 
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