La Parfumerie Tanu

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- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Cabaret LPT revisited | Shiseido 2 : 1960s

Chapter 2 | 1960年代 高度経済成長期

3. 禅(1964)香水
ハウスオブゼン、初の海外制作 アメリカ ジョセフィーヌ・カタパノ作

欧米人にとって「禅」は日本の魅力を1文字で現したキラーワード、雰囲気上等で実際はなんだかわからないはず、日本人の私でもわからないですよ。
今、禅という名前で海外向けに出すなら、ゴリゴリのインセンスものになるんじゃないかな?実際の香りは、伏目がちでくぐもったグリーンフローラルシプレ、このもたり感が国産香水です。ヴィンテージのパルファムは、当然濃度もありますが、肌に乗せると立体感が美しいんですよ。

禅 香水 17ml 海外流通品

禅は、資生堂が、1964年に初の海外専売商品として、鳴り物入りでアメリカ市場に殴り込みをかけた記念すべき作品です。資生堂は、禅から70年代後半まで、ジャポネスク路線を突っ走ります。ただし、調香は、自社ではなく、エスティローダーが1953年に出して社会現象にまでなった、ユースデューを手掛けたジョセフィーヌ・カタパノに依頼しました。翌年にはアメリカに現地法人、ハウスオブゼンを立ち上げ、現在も、オーデコロンが資生堂インターナショナル製として、現在もアメリカで生産されています。
禅は、日本では凱旋帰国品だったんですよ。アメリカでヒットしたので、日本向けに渋みを抑えた処方に変えて、濃度もオーデコロンにして翌年国内販売が始まりました。パルファムは、その後から国内発売されて、ラインナップとして同時発売されたわけではなかったんですね。1970年代までは、とくにアメリカで結構ロングヒットだったそうですが、私が女子大生だった昭和の終わり、友達の間では名前だけで抹香臭いと失笑を買って、敬遠されていた位なので、日本では、1980年代で既に「過去の香り」になっていた記憶があります。

左)禅 オーデコロン、香水各種。細身で背の高いボトルは現行品オーデコロン80ml 
右)禅 香水、国内流通品

4 琴(1967) 香水
和風三部作、禅の姉妹品として国内流通品として登場 オーデコロンとファンシーパウダーが現行販売あり
 

禅のヒットで、海外向けでない通常ラインでもジャポネスクで行くことになり、1967年に舞と琴が発売され、和風三部作が揃います。禅、舞、琴。欧米人が脊髄反射で日本をイメージするものばかりですね。琴は、3部作の中で一番手頃な価格帯の作品で、禅の複雑な表情をシンプルにして、ガーデニアを足して粉物度を300%アップした感じです。和風三部作はいずれも重たい粉物の要素があって、着物にもバッチリです。なぜならこの時代、20歳で香水をつけ始めたとして、ほぼ全員戦前生まれですよ。盛装の場は着物の場合が多いので、やたらとバタ臭い香りでは出番が少なかったのではと思います。特にこの琴は、オーデコロンですらどっしりしたパウダリーシプレで、アメリカでは「ジャパニーズ・パウダリー・シプレの傑作」という声もある位評価が高く、かつては銀座の料亭などで、おしぼりの香りづけにも使われた人気の香りでした。琴も現行商品で、オーデコロンとファンシーパウダーが残っています。

Story①                          

2011年の春、ちょうど東日本大震災の直前だったんですが、勤め先のそばにある郵便局に行ったら年の頃は60位の、ディバインが松坂慶子に擬態したかのような、あるいはミッツ・マングローブのお姉さんのようなごつい郵便局員の女性が応対してくれて、動くたびにふわりというよりはぶふぁっ、とどこか陰のある重い粉物系のシャージが溢れ、中々にお似合いで香りも良かったので、さぞ往年のクラシック香水を浴びるようにつけているのだろうと恐る恐る何をつけているか尋ねた所「良く聞かれるんだけど…資生堂の琴よ。化粧品店で取寄せているの。皆さんにお褒めいただくのよ。オーデコロンにファンシーパウダーを重ねづけしているのよ。お奨めするわ」との事。オーデコロンでもボディパウダーを重ねづけする事で、それだけのシャージが出せるのも驚きでしたが、この安価なコロンを取寄せてまで使い続け、しかも堂々と香らせている彼女の迫力に、感動を覚えずにはいられませんでした。ちなみにミッツさんはまだ同じ郵便局にいまして、先週また行ったら、香料のきっついハンドクリームを塗っていて、局内に結構充満していました。

左)琴 オーデコロン、香水(1度目のボトルリニューアル品) 右)舞 香水

それでは、1970年代の香りに進みます。

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