La Parfumerie Tanu

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Cabaret LPT vol.14|What is Parfums MDCI ?

20ème anniversaire du MDCI

      - Index - 

はじめに

トークセッションの前に、今回はMDCI特集という事で、ブランド側から映像素材やサンプル用香水の提供など、大変お力添えをいただきました。またMDCIの映像素材は、スロヴェニアの映像作家、ダニエル&マルーシャの作品で、オープニングビデオなどの二次使用に際しあたたかい応援をいただきました。この場を借りて、心より御礼申し上げます。

シプレ・パラタン 75ml フルプレゼンテーション

パルファムMDCIとは

パルファムMDCI(エムディシイ)は、化粧品業界に長くいたクロード・マーシャルさん(72)が、構想10年の末、奥様のカトリーヌさん(61)と2003年に始めた独立系香水ブランドで、MDCIの正式名は Marchal Dessins et Créations Indépendantes(マーシャル・デッサン・エ・クレアシオン・ザンデパンダン、マーシャルの独立したデッサンと創作物という意味)ですが、フランス語のエム(M)ディ(D)シ(C)イ(I)の発音が、イタリア・ルネッサンスの極みである、メディチ家にも音が似ている事からつけられたという由来もあります。 

制作および対外交渉はクロードさん、財務および発送・在庫管理はカトリーヌさんの担当で、2015年からは、カトリーヌさんが登記上の社長となり、2022年の年商は円換算で1億円強、前年比22%の伸びとコロナを越えてV字回復しています。昨年より次女のコリーヌさんが入社し、現在は全部で3人の家族会社になりました。ご自宅の一室をアトリエ兼作業場にして、世界30か国で販売されています。15年以上ニッチ系香水店の動きを見てきましたが、MDCIを置いている店は格上またはセレクションのお目が高い、という印象があります。毎年8月は、オフィスを完全に閉めて、フレンチアルプスの別荘で家族全員過ごすという、古き良きフランスの伝統を守った営業を続けています。

ラ・バルビエ・ド・タンジェ EDP 75ml シンプルプレゼンテーション

続いてブランドの特徴をご紹介します。 

①正式な来歴がはっきりとはわからない

これまで、創業年がはっきりせず、LPTブログでも統一できていませんでしたが、昨年リニューアルしたMDCIの公式サイトにはっきり「創業2003年」と明示されたので、今回の創業20年祭につながりました。基本的に、率先して取材やインタビューには答えないブランドで、近年は創業者のクロード・マーシャルさんが放送事故的にSNSなどに登場する事もありますが、創業者や関係者のオフィシャルな紹介写真はなく、公式サイトでもクロードさんご本人の「思い」が熱く語られているだけです。

②作品の発売年も割と適当

Indexの発売年は、Fragranticaを参考にしましたが、インデックスの1から5番、最初の5作は、実際は制昨年や発売年が前後しており、名前もコードネームだけでした。
この5作に現在の名前を付け、2007年にリブランディングを行い同時再発、2008年に出た最初のルカ・トゥリン香水ガイドで5つ星を5作中3つ取ったのがブレイクのきっかけとなり、2008年に発売された6作目のペシェ・カーディナル以降は、発売時にメディアで紹介されるようになったので、時系列でわかるようになりましたが、相変わらず新作の発売日などがあいまいで、市場より公式サイトの更新が遅いブランドです。

③採算度外視で調香師に腕を振るわせる

そういうコンセプトのブランドは、今でははいて捨てる程ありますが、世間の動向に疎く、我が道を行くクロード・マーシャルさんは、MDCI創業当時、フレデリック・マルが2000年、一足お先に同一のコンセプトでブランドを立ち上げていたことを知らなかったそうです。

④新人や女性調香師の積極採用

同じコンセプトといっても、マルちゃんは基本マスター・パフューマーに腕を振るわせるのがブランドの謳い文句ですが、MDCIの場合、まだ学生だったり、キャリアの浅い調香師に依頼して、結果その調香師が大勢してMDCI作品が代表作、と言われるようになっているのを見ると、長年化粧品業界にいたクロードさんの先見の明が光っていると言えます。

MDCIが依頼した女性調香師の面々。中には制作当時学生だったステファニー・バクーシュ(左)も。
当世スター調香師にばかり頼らず、未来予知に近い才能を見出す先見の明がある
⑤香りが太い

フランス伝統香水の復興をメインコンセプトに掲げているMDCI作品は、一言でいって「香りが太い」。メンズものは胸板の厚い、骨格のしっかりした男らしい香り、レディスはピーチシプレの宝庫で、一人の美しい女性の肖像画を、様々な画風で描いている一貫した雰囲気があります。すべてオードパルファムですが、しっかり持続して香り立ちも華やかで、上等な香水とはこういうものだ、というのが体でわかる丁寧な作風が特徴です。また、ニッチブランドはジェンダーレス作品が多くなっていますが、MDCIは現在もはっきり女性向け、男性向けとジェンダー分けをした香り作りに徹しています。

⑥ボトルが凄い

中身より前にボトルコンセプトから入ったMDCIは、クロードさんが自らデザインし、制作から仕上げまで手作りの男性・女性のバストが付いたボトルで有名ですが、創業当時はリモージュ製の頭付ボトルが、2007年の発売当時1,200€で、クリスタルガラス製だと100mlリフィル2本つきで3,700€というのもありました。それではあまりに手が届かない…というので、途中から現在の樹脂製に代わりました。このボトルの生産数がとても少なく、年間販売量が限られてしまうので、日本のファンから「海洋堂で作ってもらえ」という声も上がったほどです。

フルプレゼンテーションのバスト。台座のリングにはニードルペンでクロードさんのサインや購入者の名前、購入年が記されることもある。バストの肩には「CM」とクロード・マーシャルさんのイニシャルが刻まれている。マーケティング由来のデザインでは考えられない、作り手の思いが込めに込められたなボトル
⑦直販ならではの規格外サービスが凄い(が微妙にハードルが高い)

一方で、香りを気軽に試して欲しいと、公式サイトから直接フルボトルを買うと、11mlが5個と5mlが3個という、おまけだけでフルボトル相当なすごい量のサンプルがいただけます。サンプルセットだけでも購入可能で、2007年当時は45mlアルミ缶で130€とか、現在は11mlで5個セットのコフレが€100(2014年当時は5個入送料込90€)と、純粋にMDCIを試したい方にも門戸は広く広かれていて、実は高いだけでなく懐事情に合わせて楽しめるブランドでもあります。ただしコンタクトはすべて直接クロードさんにメールして、欲しい物を伝える必要があります。

それでは、これから時代別に作品をご紹介します。(次回に続く)

 

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