令和3年、資生堂が新作香水「GINZA」を発売しました。資生堂の香水で、新作というだけでは特段の話題にもならないのですが、ひとつ驚いたのは、国産香水の新作としてオードパルファムだけでなく、香水(パルファム)を同時発売した事でした。香水の価格は20ml40,000円、税込価格44,000円と、ゲランで言えばミツコやシャリマーの30mlと全く同じ、容量換算で言えば1.5倍の価格差です。先日、ザ・ギンザにて香水、EDP共にボトルを見る事はできました。しかし感染防止対策として、フラコンに収められた香水は、キャップで肌へ直接タッチアップすることができないという理由で、残念ながらムエットでの試香のみ、EDPのみボトルからスプレーしていただきました。戦前よりフラコンにてパルファムを販売してきた会社としては、展示用とは別にアトマイザーへ詰め替えた試用見本を用意するか、フラコンならば使い捨てのスポイトなどで販売員が間接的に肌へ乗せ、スポイトはその都度廃棄するなどの工夫が今一歩欲しいところで、資生堂の旗艦店ですら香水はムエット1枚の試香しか叶わないというのは、4万以上する香水を買う文化が崩壊(「成熟していない」のではなく「崩壊」と表現させていただく理由は、以降のキャバレー抄録にてお話します)している日本では、はなから一般の購買層はターゲットに置かず、本来であればコロナが年末には収束し、旧正月で再び中国からの観光客が来て即断で日本限定の香水を購入していくのを皮算用し、2021年1月8日に発売を持ってきたのではないだろうか、とまで穿った眼で見てしまう自分に嫌気がさしました。香りとしては、EDPと香水のムエットを併せた感想ですが、戦後昭和の資生堂が香水の髄としてきたグリーンフローラルの香調を鮮明に想起させる、生花の渋みや手折った草の露を感じる、瑞々しい軽やかな仕上がりで、ミドル以降の花粉様のマットな甘さが昭和の資生堂にはない展開で、銀座に行く機会があれば再挑戦したいところです。
同じころ、資生堂は日用品事業を欧州系投資ファンドに売却、利益率が大きい高価格帯の化粧品に注力する方針を明らかにしました。新型コロナウイルス感染拡大で経営環境が変化する中での会社分割ではありますが、要はこのザ・ギンザ香水も高価格帯の化粧品に注力する方針の一環のようで、これからの資生堂が香水に対し高級路線に舵取りを変えた場合、現在まだ残っている、メモワール、禅、琴、モアのファンシーコロンなど、日用品事業寄りの商品である戦後昭和の国産香水は一網打尽になるのでは、と、ちょうど4年前の今頃「戦後昭和の国産香水」というテーマのキャバレーLPTを開催した時にお伝えした思いが、再び溶岩のように沸きあがってきました。そして、当時のキャバレーはレジュメを誌面で公開していなかったので、ここに3回連載に再編してお届けしたいと思います。
2017年2月開催時の告知。Cabaret LPTが一般募集を行わなくなった記念すべき回でもありました。