立ち上がり:これも最初は爽やかだ。が、すぐ独特のケミカルな感じが出てくる。ケミカルだけど嫌いじゃない・・・というか好きな食べ物の味。あれだ!海のパイナップル!ホヤだよ。
昼:ホヤ臭?は収まりだいぶ普通のメンズフレグランスの感じに落ち着いてきました。レザー系の漢な感じか?
15時頃:より落ち着いてきてウッディな感じですね。だいぶ落ちついていい感じです。
夕方:仄かな甘みとスモーキーな感じが合ってこの季節の夕方にはぴったりではないかと。夏はどうかな?という感じもしますが。 最初は私の好きな食べ物で釣っておいて最後は大人な落ち着きで締めるとは策士よのぉ・・・
ポラロイドに映ったのは:リアス式海岸絶壁(北山崎?)に佇む文士、はたから見ると自殺志願者に見えがちだが、頭の中は今晩泊まる宿で夕飯にホヤが出るのを待っている。
Tanu's Tip :
ディヴィーヌのメンズ作品特集でご紹介する6作のうち、前編3作はどちらかと言うと重さのある香り、後半3作は軽め、もしくは爽やかな香りを選んでいます。皆さんご存知の通り、ジェントルマンは端麗辛口な香りが好きなので、前編では結構苦戦しています。その辺を案分してお読みいただければと思います。
ここで、前後編でご紹介するディヴィーヌのメンズ作品を時系列でおさらいします。
★前編(重め) ☆後編(軽め)
☆L'Homme de Coeur (2002)
★L'Homme Sage (2005)
★L'etre Aime Homme (2008)
☆Eau Divine (2009、ユニセックス系)
☆L'Homme Infini (2012)
★L'Homme Accompli (2016)
こうしてみると、軽重重、軽軽重といい感じで緩急ついています。ちなみに昨年発売された最新作、レスプリ・リーブルもユニセックス系の「軽」に当たりますので、ディヴィーヌのメンズ作品は、バランスよく守備範囲が広い、と言う事になります。重厚な香りが苦手なジェントルマンには、気温の低い今のうちに「重」作品のポラロイドを撮ってもらいました。
その中でもメンズとしては最新作にあたる「成し遂げた男」の意を持つロム・アコンプリは「人間らしさを忘れずに、生き抜いた男をイメージした」とイボじいこと創業者イヴォン・ムシェルが壮大なテーマで調香師ヤン・ヴァスニエに作らせた香りです。前編でご紹介する香りの中では最も中庸をいっているウッディアロマティックで、立ち上がりのベルガモットとレモンが閃光の如く瞬時に肌から飛ぶと、そこからじんわり香るのは、穏やかで落ち着いたウッディレザー。シダーウッド、ガイアックウッド、ベチバーと乾いたウッディトーンにベースのスティラックスが控えめな地塗りとなってまとまっており、レザーも控えめ、スパイスに至っては前回のレートル・エメ・オー・マスキュランに比べたら入ってないも同然の塩梅で、レートル・エメという「愛すべき珍カップル」がカプセル状態で互いの世界に生きているとしたら、「成し遂げた男」の感慨は深く、しみじみと、広い空、打ち寄せる波、そびえたつ断崖絶壁を満ち足りた気分で何もかも懐に受け容れる、そんな達観した穏やかさがあります。ラストは渋いレザーとほのかな樹脂の甘みが肌の上でまとまります。
お若い方向きの溌剌とした香りではありませんが、人生成し遂げた感がこみあげてきた、今見た感じ80近いイボじいが、2016年当時70を過ぎてヴァスニエに作らせた香りかな、と考えたら納得です。そこにマーケティングだの市場トレンドだの、はるか遠く、そんなの関係ねえ世界にお住まいなのでしょう。かといって、決して時代遅れの香りではなく、ディヴィーヌらしいタイムレスエレガンスを感じます。オンタイムの香りとして、スーツの似合うお父さんにプレゼントしたら、お父さんちょっと老け込んで見えるかもしれませんが、スーツは数段良いものに、会社員なら役職が上がって見えると思います。
ジェントルマンに高評価だった証として、立ち上がりには(私には微塵も感じませんでしたが)ホヤの香りが、ポラロイドには彼の故郷、岩手の絶景・北山崎が映り込みました。人生を達観し、虚無にそよいでいるようで、頭の中は美味しいものでいっぱい。それは私の目に映る初老カウントダウンのジェントルマンそのものです。