La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Bleu Satin (2019)

立ち上がり:これもつけ始めの香りが刺すように強烈。でもこれは柑橘系の香りで朝の目覚めにはこれ位が良いような感じもする。

昼:こいちもやはり持続力強い。ここで少し瓜系の感じが出てきて香りが和らいだような気も。

15時位:香りはまだまだ持続中ですが、ウッド系の落ち着いた香りになってきたので良い感じです

夕方:さすが大分弱くなった、かなり男性香水の残香あるあるの感じ、レザー&ウッド系を残して終了

ポラロイドに映ったのは:やはり白スーツだが、こちらの中身は中は一重瞼、五分刈り、薄い唇の旧日本海軍将校 

 

Tanu's Tip :  

2003年より創業者クロード・マーシャルの揺るぎない美学を香りに昇華してきたMDCIですが、前回のル・バルビエ・デタンジェで一旦シリーズが終了し、2019年より装いも新たな新シリーズ、Painters and Perfumers が始まります。それまでの作品は、主にオペラや戯曲、小説をテーマにしたものが多く、チョウチョウサンを除き我々日本人にはあまり身近ではない作品が多かったので、その香りの背景が見えづらかった(逆に言えば、テーマに気を取られず、香りそのものに集中できる利点とも言える)のですが、新シリーズのテーマは「肖像画」。近代絵画史の至宝を、特命受けた調香師が嗅覚の絵画へとトランスフォームさせているのが、このペインターズ&パフューマーズシリーズです。絵画なら、ボトルや外箱がその世界を教えてくれますので、オペラや小説がテーマよりダイレクトコンタクトしやすいですね。ただしボトルにプリントされた絵は、記念切手より一回り大きいサイズ、外箱は割と簡潔なサイズなのと、Painters and Perfumersシリーズに登場する絵画はパブリック・ドメインになっており、高解像度の画像がウィキペディアなどで閲覧できますので、是非大画面でご覧ください。

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ブリュ・サタン EDP 75ml

新シリーズの筆頭を飾るのは、18世紀イギリスの肖像画家、トマス・ゲインズバラの代表作「青衣の少年」。当時18歳だった裕福な金物商の御曹司、ジョナサン・バトールの肖像画です。1770年の作品ですが、この子が着ている服は約150年程遡る17世紀前半の装束。つまりコスプレ絵画というわけで、今の日本でいったらさしずめ幕末か文明開化期のホンモノの装束を10代のアイドルに着せて写真集でも作った感じでしょうか。この青いサテン地の衣装から、香りにはブリュ・サタンと名付けられました。このシリーズより、ボトルにテーマ画がプリントされ、シンプルだった外箱もテーマ画が印刷してありますが、タッセルは前シリーズから継承され、赤と金のフリンジは男性向け作品の共通カラーです。

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18世紀英国の肖像画家、トマス・ゲインズバラの代表作「青衣の少年」
(原題:The Blue Boy、米カリフォルニア・ハンティントンライブラリー収蔵)
パブリック・ドメイン、Wikipediaより転載


ブリュ・サタンは、ピュアディスタンスのシェイドゥナでお馴染みのセシル・ザロキアンが手がけており、 香りとしては、タンジェの床屋と同じくアロマティック・フジェール系の男らしい香りですが、床屋のバキバキ感はなく、いたってナチュラルで透明度の高いフルーティ寄せのフジェールで、ベルガモットやレモンなどシャキっとさっぱりしたシトラスに囲まれたキーノートはジャスミンとスイカ。中でもこのスイカが、かつての瓜系のようなあくどい爽やかさではなく、本当のスイカの良さ-瑞々しく、体の渇きを癒してくれるような、カリウムたっぷりの心地よさ。セシルさん、スイカ使いがうまいなあ…日本人を恐怖に陥れた瓜の記憶を払拭してくれる清涼感に、あの時代は終わったと言ってもよいでしょう。ベースにサフランやレザーノートを置いていますが、かなり脇に徹していて、かといってフルーツがメインでも子供っぽくならないのは、きっちりベースが身なりを整えて、若々しさの中に威厳を湛えているからでしょう。この品格はMDCI作品に共通するもので、ちょうどポラロイドに映った、軍刀に設えた刀緒(とうちょ)をひるがえす若き大日本帝国海軍士官のようです。

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ポラロイドに映った旧日本海軍将校 参考資料:「戦う男の軍服図鑑」二見書房刊

ちなみに上記のイラストは、ジェントルマンのいう「旧日本海軍将校」というのが絵的に良くわからなかったので、画像検索したところヒットしたもので、ジェントルマン曰く「そうそう、こういうの。特に右の図のイメージだね。顔の感じも」というので、一生懸命参考資料を探しましたが、右の図が何の本に載っているかわからず、とりあえず2冊、絵はもっさりと野暮ったいが内容はしっかりした軍装図鑑と、史実としては間違いだらけだが、雰囲気上等の腐女子系イラスト集を買ってみたら、後者がまさかの大ビンゴ、晴れてご紹介出来た次第です、ってブリュ・サタンのレビューより旧日本海軍将校の説明にかなり労力を費やしてしまいましたが、軍装はコスプレファンも多いジャンルですので、青衣の少年に通ず、という事でお許しください。

 

 

 

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