La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

無断転載禁止

L'Iris de Fath (2018) / Holy Grail (2019)

前回のジョヴォワ再訪レポートに続いては、実際店頭で試香および購入した香りをご紹介します。

 
 
下記は、去る2019年11月後半、ジョヴォワ・メイフェア店でリリス・ド・ファットを「浴びた」後、ホテルに戻って寝るまでの間、二度と実装の機会はないだろうと思い、必死に書き留めた印象を、加筆訂正なしで掲載します。
f:id:Tanu_LPT:20171023125124j:plain
f:id:Tanu_LPT:20200312154913j:plain
f:id:Tanu_LPT:20171028115400j:plain
左から)メールストロムのディレクター、ヨハン・セルヴィ、リリス・ド・ファット、調香師パトリス・ルヴィヤール
「リリス・ド・ファットは復刻に当たり、ジャック・ファットの親会社であるパヌージュは、国際コンペを開催、多数の調香師がコンペに挑み、独立系調香会社、メールストロムのディレクター、ヨハン・セルヴィと調香師パトリス・ルヴィヤールの若手チームが優勝し、再処方を行う権利を得た。
立ち上がりはまさに『アイリスの精』とも言うべき、めくるめくアイリスの世界そのものだが、硬質なアイリスが徐々にこなれてくると、ピーチが出てきて、このピーチが案外良くあるルームフレグランス系で人工的。ミツコ、ファムなどに感じる豊潤で完熟感のあるピーチではなく、非常にローファット。これは好き好きだと思うし、そもそものイリス・グリがそういう香りだったとしたら致し方ないが、アイリスのトルネードでわしづかみにされた気持ちが鎮まるのも案外早く、今までイリス・グリのオマージュとして試して来たもの(イリッシム、セントオブホープ)との比較としては、確かに冒頭のアイリス度はスケールが振り切れていて、全く追随を許さないものはあるが、夢の冷めるのが早く、トータルで言ってリリス・ド・ファットに関する世間の称賛は、リバイバルとしては納得するが、純粋にひとつの作品として来歴を切り離し、何の歴史的価値も前情報として持たず、ブラインドテストした時、果たして世間と同等に自分が称賛するかは疑問が残る。
ある意味、神社の遷宮やご秘仏の50年に一度のご開帳など「縁起物」的存在として受け止めた方が良いのかもしれない。何より高すぎる。実物をこの眼で拝め、一度だけでも実装(それもふんだんに)出来た事に感謝、その一言に尽きよう」
                                                                                           22 Nov. 2019, Tanu of LPT
 
あんなにお店で盛り上った割には低評価、おまけに「絵に描いた餅レポート」としか言いようのない内容ですが、貴重な体験には違いありません。
何とか皆さんにリリス・ド・ファット疑似体験させてあげたい…腕は洗ってしまったし…1947年に発売され、1954年のジャック・ファット逝去と共にこの世から消えたイリス・グリを何としても復元したい、と過去多くのチャレンジャーが挑みましたが、その特異なバランス感を再現できず、実際このリリス・ド・ファットですら、オズモテーク保存品を含むオリジナルのイリス・グリを、コンペで買ったディレクターと調香師が処方に頼らず必死に「鼻で」再現したとはいえ、私自身はイリス・グリを嗅いだことがないので比較のしようがないのですが、ここは腹をくくって、世紀の復刻と大絶賛のリリス・ド・ファットに、体感上最も近似値をマークしているインスパイア系を連れてまいりました!DUA FragranceのHoly Grailです。
f:id:Tanu_LPT:20200316225203j:plain
f:id:Tanu_LPT:20200316225207j:plain
ホーリー・グレイル P 30ml。定価US$105だがクーポン使用で実質70ドル少々で入手可能
アメリカのインスパイア系ブランド、DUA Fragranceは、パルファム濃度、30mlサイズの統一規格で、次々にニッチ系、ラグジュアリー系のインスパイア香水を作っているインディブランドですが、オーナーがアラブ人なだけに、遠慮も迷いも一切なし!公式サイトでは、気になるオリジナルブランド名でインスパイア作品がサクサク検索できるので、買う側も明るいニセモノ市場で楽しくお買い物が可能です。あ、ニセモノって言っちゃいけないんだ、インスパイア系はオリジナル作品への偉大なるリスペクト!
キリスト教における、最後の晩餐で使われた聖杯を意味するホーリー・グレイルは、転じて「実現が困難な目標、限りなく手の届かないもの」という、溜息混じりの称賛に用いられ、同義語にユニコーンがあります。海外香水コミュニティで「〇〇 is my unicorn...」というセリフをよく見かけますが、これこそ「欲しくて堪らないけど手が届かないもの」と言う決め台詞。確かにイリス・グリの復刻は、長年聖杯級のハードルで、過去私も「それらしき」ものを試し、ご紹介してまいりました。 

中にはDSHのセントオブホープのように、信頼できるブランドながら「香水として実装困難」なものもありましたが、ついに見つけました!ホーリー・グレイルは、リリス・ド・ファットと比べると酸味がまろやかでアイリス度は充分、しかも香り長持ち。ひとつの作品としてのバランスも良く、価格は1/15ですが、体感は中々の出来栄えで、むしろ個人的にはホーリー・グレイルの方が肌馴染みが良く、ブラインドテストで好みの香りを選ぶなら断然こちらに軍配を上げるでしょう。セルジュ・ルタンスのアイリス・シルバーミストに未熟なピーチましまし、アイリス大盛りにしたら、ホーリー・グレイルになるかもしれません。

f:id:Tanu_LPT:20200317084317p:plain

DUA Fragranceの基本アートワーク。ヤンキー臭ぷんぷん
おまけにこのDUA Fragrance、CG満載のアートワークが下品でドン引きなんですが、しっかり日本発送対応してくれるし、いつでも使える15%OFFクーポン、DUA15に加え、頻繁に30%OFFクーポン、DUA30を発行しているので、アートワークさえ目をつぶれば、かなり面白いインスパイア系が見つかるうえ(LPTでもおなじみのロジャ作、オーモンド・ジェイン、MDCI、ピュアディスタンスのMまでありました)、すべてパルファム濃度で出来は良いので、セールの時にネタでトライしてみるのもありだと思います。とにかく、ホーリー・グレイルはオススメです、リリス・ド・ファットよりもガッカリしません!
 

 

contact to LPT