La Parfumerie Tanu

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Azurée (1969)

1946年、ハンガリー系ユダヤ人の家系出身であるエスティ・ローダーが、おじで皮膚科医のジョーゼフ・ローダーと創立した世界的な化粧品会社、エスティ・ローダーは、現在もローダー家が全株式の87%を保有し、現在もトップに親族が名を連ね、アメリカの政界にも食い込んでいる同族企業です。日本には1967年に上陸、1976年には日本法人も設立しました。近年ではメゾン・フレグランスブランドや化粧品メーカーを次々と買収し、あれもあれもあれも裏を返せばエスティローダー、という寡占状態が拡大しています。LPT読者の多くがご贔屓のフレデリック・マルやキリアン、ルラボ、ジョーマローンもローダーグループの一員で、エスティローダーが次に喰らうのは誰だ?!と虎視眈々と市場を見つめている人も多いのではないでしょうか。実際、ローダーグループの収益を底上げしているのは、オリジナルブランドではなく買収を重ねた「元ニッチ」のラグジュアリーブランドとも漏れ聞こえます。

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売上を底上げした買収ブランドの面々が列挙する、ELGCグループの2018年度ラインナップ(エスティ・ローダー・カンパニー公式サイトより)
世界企業傘下にはいるメリットの一つとして「物流の制覇」があげられます。表向きはニッチブランドでも、物流は大量生産のマスブランド品と同じ待遇で世界の販売店へ納品が可能だからです。本年4月ピュアディスタンス本社に出張し、昨今騒がれる香水の国際配送問題について話を伺ったところ「香水の海外発送は、日を追うごとに厳しくなっていて、一昨年まではオランダから日本へはPost NL(オランダ郵便)で普通に送れたのに、まずフルサイズの製品が引火性危険物として発送できなくなり、それでもサンプルサイズ程度だったら送れたが、去年の今頃から香水は全面禁止になった。それで、DHLに切り替えたんだけど、今年に入ってオランダDHLも香水の発送を禁止して、危険物証明を中間業者に委託して、かろうじて発送できるようになった。一方で、エスティローダーやユニリーバ、ロレアルなどの世界企業が、自分たちの荷物を最優先に世界へ発送できるよう、この危険物取扱枠を世界規模で抑えてしまって、残りの枠を私たちのような小さな会社や香水店が奪い合っているという感じ。もちろん大企業はスケールメリットがあるから、相当の特値を強要しているはずで、世界中に香水を安く確実に発送できるのに、私たちは常に物流不安と経費負担を抱えながらオンライン販売をしなければならない(ネラ・タミステさん談)」と、香水物流を通して世界の縮図を見た気がします。

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アズレー EDP50ml、The House of Estée Lauder版
今回ご紹介するのはそんなローダーが買収したニッチブランドではなく、1969年からエスティローダー名義で50年も細々と売りつないでいる、彼らのロングタイム・クラシック、アズレーです。アメリカの公式サイトでは
 
「地中海の日差しをのんびりと浴びながら金色に輝く少女のように、生粋の楽天家な彼女は、どこへいっても明るい太陽」
 
…つまり、1969年当時は、行くところ行くところ、いつも明るい太陽が追いかけていくような女の子はこういう香りがしてたんですよ、という事?この香りでそういうイメージは全く浮かびませんが、こういうのが世代間ギャップというものでしょうか。 

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調香は、カボシャールを始め、アラミス、60年代後半のエスティローダー/アラミス、ラルフローレンなどアメリカン・プライドを多く手掛けたベルナール・シャンと、オリジナル版クロエ(1975)、ニナ・リッチのオードフルール/フルールドフルールなどでLPTでも頻出の女性調香師ベティ・ブッスの共同調香で、香りとしては、ビターグリーンとなんやらもわっ!とくる立ち上がりに、最初からパチュリ!コケ!ベチバー!ついでにヨモギ!!みたいな深緑なシプレベースが顔を出しつつ、アンバーとレザーとジャスミン、ローズ、アイリスなどの王道フローラルが重なるものの、甘さやフローラルな印象はほとんどなく、ドライなシトラスウッディシプレに仕上がっています。アイリスとパチュリで粉物感もあり、穏やかに野太く、この時代の作品としてはあまり序破急がなくフラットに香ります。カボシャールやアラミスと同系統ともいえますが、カボシャールよりは頑固でもなく、アラミスほどおっさんではなく、ベルナール・シャンがアズレーの2年後に手掛けた日本を除く世界的ロングセラーで、芳醇なフルーティ・シプレ、アロマティクス・エリクシール(1971、クリニーク)への流れへと通じます。

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1970年当時の広告。豊富なバスラインも揃っていた
通説的に、クラシック香水が処方変更を重ねていくとどんどん女らしさが欠落していって、ユニセックスというよりは女らしさがなくなった香りへと痩せていくことが多いのですが、幸いアズレーは昔の香りを知らないし、今のアズレーは決して朗らかではなく輝く笑顔も愛想もないけれど、女子会に誘うとちゃんと来て、笑うツボではちゃんと大笑い、その笑い方が結構野太かったりするので、あれ、あんたもしかして男?まあいいや、みたいなノリ(の良さ)を感じ、その辺がアメリカンで良い意味で大雑把です。カッコよくって大雑把。知的でスタイリッシュだけどどこか適当、でもロングで見るとすらっと背が高く手足も長くていい女、あ、男かも。アメリカ人が一番気にする「持続性」は申し分なくスタミナ充分、朝付ければ夜までタッチアップは不要。しかもアズレーの米国定価はEDP50mlでUS$58と非常に現実的な価格で、かつて「誰でも手の届く価格の商品を」と、ユースデューのバスオイルを発売し、全米が感動した「アメリカの良心」をここにも感じます。

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アズレーの外箱裏面。原料にしっかりオークモス使用と表記されている。世界企業はIFRAの縛りをもろともせず?
蛇足ですが、日本では、意外にもニッチ系ブランドよりメインストリームブランドの国内未発売品の方が入手困難な事は、案外な盲点です。特に、デパートで言ったら、店頭にはなく「〇〇ください」といって奥から出してきてもらうような類の、購買層が固定化しているロングセラー品は、ディスカウンターにも流れず並行輸入品も殆ど見当たらないので、さらに難しいです。ニッチ系ブランドは、高い送料に目をつぶれさえすれば、First in FragranceやLuckyscentなど充実した最旬の品揃えで日本へも発送してくれるオンラインストアもありますし、実はあのジョヴォワでさえ、ロンドンのメイフェア店はオンラインストア上の発送国リストに日本はないですが、メールで問い合わせ、Paypalで支払えば何でも発送してくれますし、パリ本店のみ取扱い商品も取寄せ発送可能です。ただし送料は2kgまで£80と手ごろな香水1本分かかりますので、2kg以内でお仲間と数本共同購入するのが現実的でしょう。世界展開しているブランドは、各国向けにオンラインストアを展開していて、国別の取扱品情報はわかりやすいのですが、発送は展開している国以外の対応は行いません。ブランドによってはIPアドレスを感知して本国サイトにアクセスすらできず、日本サイトに誘導されてしまう事も多々あります。だから、エスティローダーのクラシックコレクション、The House of Estée Lauder*にラインナップされているアズレーもかなり入手性が悪いし、アメリカでの定価が$58とわかっていて、並行輸入品で15,000円近く払う程の香りでもないので、渡米の際ニーマン・マーカスやノードストロムなどの老舗高級百貨店に寄るか、行く用事のある方にお願いするか、eBayなどの海外オークションサイトのセラーから買うしかありませんが、オークモスをきちんと使ったフルボディのシプレ系が好きで、米国定価相当で入手できる機会があったら、是非お試しいただきたい作品です。
 
(*注:The House of Estée Lauderは他にEstée(1969)、Aliage(1972)、Cinnabar(1979)、Spellbound(1991)、Tuscany Per Donna(1993)、Intuition(2000)、Beyond Paradise(2003)、といった「時代の顔」、つまり旬を終えたがリピーターを抱える香りが統一ボトル、50mlワンサイズにて集約展開されている)
 
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