La Parfumerie Tanu

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1969 | Parfum de Revolte (2001)

1969年特集、最終回は「1969年を名に持つ香り」、イストワール・ドゥ・パルファン(HdP)のベストセラー、1969をご紹介します。実際の発売は2001年である1969の正式名称は1969 Parfum de Revolte (反乱の香り)。HdP作品の中では「カルト・ブックス」の一つで、ブランドの代表作であるアンブル114も同じシリーズです。「香りの図書館」(歴史上の人物)シリーズとほぼ同時期に発売、1725年のカサノヴァから始まる設定年から数えると、1969年は一番若いのですが、その年に由来する特定の人物をイメージしているのではなく、1969年という時代を香りで表現しています。
 
1969 turns fifty プロモーションビデオ(公式サイトより)
 
1964年、オルレアンに生まれ、幼少時代をモロッコで過ごしたイストワール・ドゥ・パルファン創業者、ジェラール・ジスランがいう「1969年を象徴する事柄」とは-
 
「フワラーチルドレン、ラヴ&ピース、コンコルドの初飛行、自由という風を謳歌した年、1969年。
音楽、それ自体が革命だった-エルヴィス・プレスリーのカムバック、フランク・シナトラがマイ・ウェイを歌いあげ、ビートルズは解散。そしてセルジュ・ギンズバーグとジェーン・バーキンが”エロティックな年、1969”と、奔放という火に油を注いだ年…」
 
ジェラール5歳、しかも当時モロッコに住んでいた5歳児にとって、これらの事柄は当然後追いであり、ほぼ実体験ではないはずです。だから、発売年である2001年当時、37歳だった彼にとって魅力的だと思うツボを束ねたイメージがこの香りの骨子な訳ですが、同じ1969年を語るにおいて、これほどまでにツボが違うものか、と驚きました。1969年、ジェラール5歳、タヌ2歳。ジェントルマンも同じく2歳、ハン1さんは12歳。お茶の間の白黒テレビで血の日曜日を謳歌したリアルタイム世代はハン1さん一人だけ。それとも、これは世間一般的に言うステレオタイプの最大公約数を取ったらこうなったのだろうか?もちろん、育った環境も国も違うから、響くツボが違って当然ですが、後追いで心を掴まれた時代の出来事はいくらでもあるのに、音楽ひとつをとっても、我々Team LPTには何も響かないものばかり。1969年の象徴である因子がぶつかり合う。しかも自分にとって全くの圏外な因子が。

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1969 60ml EDP
せっかくの1969年特集の千秋楽に、これは困りました。そういうわけで、この香りのテーマを頭から外し、純粋に香りについて体感を語ることにしました。最初にコンセプトありき、の香りは、そのコンセプトに魅力を感じる場合、作品の評価の底上げにもなるでしょうが、全く共感するものがない場合、何を判断基準にするか、もう自分の鼻と心を信じるしかありません。あとは好みの問題です。
 
香りとしては、一言でいえば「食い合わせが悪い香り」。ピーチ、ローズ、パチュリ、チョコレート、コーヒー、スパイス…グルマン系というジャンルを確立し、社会現象となったエンジェル(1992、ミュグレー)を鼻祖に、追随するものが枚挙に暇のない組合せですが、立ち上がりから幕引きまで硬い匂いが常に意識を引っ張り、あまり寛げる香りではありません。まろやかなはずのピーチがキリキリ、甘いはずのチョコレートがギリギリ、品よくまとまるはずのパチュリローズが硬すぎる。食い合わせの悪いハーモニーが舞い上がる、まさに「反乱の香り」。イストワール・ド・パルファンは、アンチパフューム系のはしりとして2000年に登場したブランドで、奇をてらった意外性の高い香りと、至って王道な近代フランス香水の伝統を感じさせるものが混交していますが、1969はブランド駆け出しの作品なので「あっと驚くものを作らなきゃ!」と、まだまだ肩に力が入っていたのかもしれません。EdPがブランドを上げて「1969年から50年祭り(注:1969自体は2001年発売なので18年しか経っておらず、あくまで1969年という時代から50年を記念している)」をいるので、少しはご祝儀代わりに褒め口上のひとつでも書きたいのに、何回肌に乗せてもいい表現が見つからないので、ジェントルマンと出かけた際につけ、横でスナップをお願いしたところ「硬い香り」「ケミカルな感じ」「ケミカル・ブラザーズか?」と3ショット撮れました。
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「1969 turns fifty」限定パッケージ。ラヴ&ピース万歳
この香りが唯一快く香るのは、ムエットの上。肌に乗せた時の硬さが寸止めされ、ジューシーなピーチやトロピカルフルーツとカカオ成分72%以上のチョコレートがエスニック系スパイスと共に紙の上で弾けます。カードムエットにポチっと一か所穴をあけ、お気に入りのサイケなリボンでも通して栞に仕立て、手帳やノートに忍ばせたり、今回Humble Mumbleマンプク宮殿で紹介した、1969年に登場した映像/音楽作品のパッケージにでも挟んで「この頃はこういう香りがしたんだべ~」とタイムスリップすることをお勧めします。ただし、行先は1969年ではなく2001年より過去には遡れませんが。
 
1969およびHdP製品は、国内ではノーズショップ全店および同オンラインストア、ユナイテッドアローズ等で購入可能(15ml:4,860円、60ml:12,960円。2019年7月現在、税込)ですが、HdPの公式サイトでは現在国内展開のない120mlサイズや、バスラインが揃っており、€20で2mlx10本入りサンプルセット、€130以上の注文で日本へも送料無料発送と、なかなか憎いサービスを提供しています。世界中のニッチ系香水店が取り扱っており、日本にいながら、どこに住んでいても、いつ日本撤退しても問題ない入手容易な心強いブランドなので、今回はちょっと微妙な結果になりましたが、オペラシリーズなど秀逸な作品も多いので、これからもイストワール・ドゥ・パルファンは折々紹介していきたいと思います。
 
【The Semicentennial : the year called 1969 サンプラー販売のお知らせ】
 
今回の特集でご紹介した、1969年生まれの香りを中心に集めたサンプルセットを、数量・期間限定で販売いたします。ブログ記事と合わせてお楽しみください。内容に応じて全4種のサンプラーをご用意いたしました。内容、価格については下記リンクよりご確認ください。販売数に達し次第終了いたします。
販売期間:2019年7月26日(金)~8月9日(金)
発送時期:ご注文を受けてからサンプラーを作成する予約販売の為、
下記の日程で発送いたします。
①発売日より8月2日までにご注文の方:8月上旬発送予定
②8月3日より発売終了までにご注文の方:8月中旬発送予定


 

 

 
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