La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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LPT Tour de Nederland 2 : Neverending story with Puredistance, part 1

 

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社長とタヌの爆裂エンドレストーク(前編)
 
ー「元気、モリモ~リ!」スキポール空港で衝撃の洗礼を受けた店主タヌ、狼狽する余裕もなく陸路にてフローニンゲンへ向かう事2時間。初めてのオランダ、フローニンゲンは終点だから乗り過ごすこともないから安心だ。ここは奮発して一等車の切符を買い、無事列車へ乗り込み「やっぱ、一等車は広さが違うね、あんまりきれいじゃないけど」としばし寛ぐも、そこが二等車だと気づき、一等車の車両に移動、若干シートが大きいだけで大した差がないことに驚くが、それどころか一等車なのに窓ガラスの汚れで外がよく見えない方が驚きだった。ようやく見えた車窓、それは何処まで走ってもぺったんこの風景、まさに国名通り「低い土地の国」だった…
 
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フローニンゲン行き特急 やっぱり行先が終点だと安心なのは万国共通
 
通年雨が多くあまり暖かい日のないフローニンゲンとしては「100年に一度の晴天」だったその日は日本と変わらぬ暑さで、ホテルから街の中心部を抜け、迎えに来てくれた広報担当のメアリ・グディングさんと一緒に歩く事10数分、質実剛健で端正な建物のピュアディスタンス社に到着。海外営業主任のネラ・タミステさんや撮影担当のイリス・フォスさんら、数名の女性社員さんが迎えてくれました。3分割のメゾネットにリノベーションされた中心部分をピュアディスタンス社がオフィスとして使用しています。様々な国のスタッフが働く社内の共通語は英語。
 

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フォトブース。天窓からの自然光を利用して製品写真を自社で撮影

ピュアディタンスは、製造委託先から仕上がったボトルの組立から梱包、サンプルアトマイザー作成、取引先やオンライン注文の発送は勿論、製品のプロモーション写真や宣材作成まで、すべてこのオフィスで社員自ら作業を行っています。パッケージにかけられたリボンの結び方ひとつで、誰が結んだかすぐにわかるそう。吹き抜けの天井には天窓があり、自然光のもとで美しい写真が撮れるスタジオブースまで整えてあるのは、デジタルフォトストック会社出身のフォス社長こだわりの設備と言えます。営業時間は8時から4時9時から5時のフレックス制で、季節や家庭の都合で好きな時間帯を選んでよいのだそうで、訪問した9月はサマータイム中という事もあり、皆さん8-4時で働いていました。4時は三々五々片付けて、自転車で帰宅するのはさすが自転車天国のオランダ流、通勤時間はせいぜい10分だとか。羨ましい限りです。

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メアリさん(左)とネラさん(右) 二人とも大の猫好きで、日本語で猫は何というのか聞かれ、
教えてあげたら「ネコ♡」「ネコー♪」としばらく言っていた。次来たら猫カフェ行こうと誘われた

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パッケージ用部材。ボトルのアセンブリング、パッケージ詰からラッピング、
発送まですべて社員が自社で行っている。リボン掛けの形で、誰が作業したか
一発でわかるとか。ある意味最強の一元管理

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ピュアディスタンス社屋になる前の教会。玄関に「Hersteld Apostlische Gemeente K1923(英Restored Apostolic Church:復元使徒教会、1923年竣工)の表記が見て取れる
 
ほどなくして、通常は主に在宅勤務のヤン・エワルト・フォス社長がオフィスに到着、挨拶もそこそこに、割といきなり
「私の祖父は宣教師で、母はバレエ教室の先生だったんだ。それでこの社屋はもともと教会で、50年前売りに出された後はバレエ教室になった。2000年にバレエ教室が閉館した後、わが社のオフィスとなったんだ。すごい偶然だろ?」
と、気づいたらすでに社長とのエンドレストークのゴングは鳴っていました。
 
ピュアディスタンス最大のマーケットはロシアの件
 
ー2007年にピュアディスタンス1をリリースしてから9年で、すでに30数か国に販売拠点を設けていますが。
 
社長「ピュアディスタンス製品を一番よく理解してくれているのはロシア人だ。ロシアには、ロマノフ朝から続くエルミタージュの文化が脈づいていて、ネームバリューではなく作品の出来で評価してくれるんだ。ほかの国みたいに、有名ブランドの製品だから、とかどこどこのセレブご愛用だから、とか、そういうのは関係ない。 一番よく売れるのもロシアだ。特にロシアの富裕層の女性にわが社の製品はよく売れる」
 
ーそれじゃロシアの富裕層の女性って、一体何して稼いでるんですか?
 
社長「何もしてないよ」
 
ーええっ、働かないんですか?
 
社長「そうだよ、お金持ちの旦那さんを見つけて自分は働かずに幸せにやってる、熟年層の女性に一番よく売れるんだ」
 
ー大した身分じゃないですか。羨ましいですね。
 
社長「ロシアの女性は、旦那が稼げなくなると、すぐ見切りをつけるんだ。また、男性もお金ができるとすぐ若い女性に乗り換える。そういう文化だ」
 
ーあまり賛成できませんけど、商売繁盛はいいですね。
 
社長「ロシア人は、より複雑な香りを好むね。しかも即決だ。ピュアディスタンスの香りを試して『うん、うん…いいわ、これ頂戴!』だからね。アメリカ人は単純だから、複雑なものを理解できない、だからピュアディスタンスはなかなか理解してもらえないんだ」
 
ー社長、アメリカ出身のメアリさんがそんな事ない、ってふくれてますよ(笑)
ところで、ラインナップ中一番売れているのはどの香りですか?
 
ネラ「ホワイトね。製造委託先から、入荷しても入荷してもとにかく在庫がすぐ切れる程よく売れるのよ。ホワイト発売前はM(2010)とブラック(2013)がベストセラーだったんだけど、ホワイトが出てからというもの爆発的に売れて、1年半たった今でも売れ続けているわ。あなたの好きなオパルドゥは、やはりクラシック香水好きの方に人気があるわね」
 

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世界地図上の赤い点がピュアディタンスの進出拠点。こうしてみると、中東って
ヨーロッパから見たら日本なんかより全然近い。遥かなるニッポンよ…
そんな大事な世界地図にLPTマグネット(非売品)を貼ってくれました

 
そして話はニッポンへ
 
社長「日本の流行は、単刀直入に言えば甘ったるくてガキっぽいだろう?安物しか売れないし」
 
ーよくご存じですね。
 
社長「一方で、これだけの伝統があり、また高級ブランド品にお金を払える購買層があるのに、香水にはお金を払えない。香水の文化が成熟していないんだ。日本には、香りの教育ー啓蒙活動が必要だと思うんだ」
 
ー率直に申し上げて、成熟していないのではなく、退化しているんです。私の親の世代ー戦後昭和の時代には、大人の女性が身に着けられる大人の香りを、国内メーカーがきちんと作っていたんです。大人の女性からはきちんと大人の女性の香りがしていました。また、例えば手頃な国内メーカーのものは日常使い、高価な舶来品の海外メーカーはお出かけの時に、と使い分けをしている方も多かった。国産メーカーもきちんと自社調香した新作を、きちんと広告を打ち、何年も売りつないでいました。それが20年位前から、気が付くと大人の女性が長く使える香りや、香水製造に殆ど力を入れていません。購買層も、例えば地方百貨店では、一番買うのは高校生というシャネルカウンターもある位で、若年層を取り込む製品に注力しているのは明らかです。そういった世代は、まあ大人もですが、ブランドネームやセレブご愛用品にかなり流されますね。
 
ここで、持参した「忘れられない香り-The Unforgettable Scent -」掲載のパルファム誌を広げ、ここに載っているあたりがまあ、当たらずも遠からじの日本市場、ってところだと思ってください、と説明したところ、一同「ああ…」という反応が。ハイエンドな製品のブランドだけに、尚の事日本上陸はハードルが高そうです。
 
社長、店主タヌを熟年女性呼ばわり
 
ーピュアディタンス社の製品はすべてパルファム濃度ですが、海外ブランドで新作を発売する際、これは時流ですがパルファムまできちんと作るところは殆どなくなりました。ゲランですら次々にパルファムを廃番にしています。国産パルファムについては、例えば資生堂はホワイトローズナチュラル(1936)とすずろ(1976)、たった2種類しか残っていません。前者は22,000円、後者は47,000円(いずれも30ml)で、リピーターの方しか買わないのが現実だと思います。他のメーカーについては、もっと高額なパルファムを多数出していたポーラは過去の香水をすべて廃番、メナードも公式には1種類、もうひとつリピーター向けの受注販売のみで表向きは廃番になっています。パルファムに限らず、ロングセラー品も消滅の一途ですね。
 
社長「小さくてもいいから、きちんとピュアディタンスを紹介してくれるショップが一つでもあれば、そこから発展すると思うんだ」
 
ーでも、ピュアディタンスの直販サイトには日本からの注文もきているんじゃないですか?実際LPTの読者も、記事を読んで購入したと言っている方がいらっしゃいました。
 
社長「確かに新作が出ると必ず注文してくれる日本のファンもいるが、オンラインショップは、直接試香できないから、そうはいっても中々発展していかないのも事実だ。やはり、実際に製品を手に取れば納得して貰えると思うんだ、君のような違いの分かる熟年女性にね」
 
ー…言いましたね(笑)ところで、日本の代理店はどこかすでにアクションを取っているんですか?
 
社長「いや、していない。我々はこちらから取引を持ち掛けることは一切しない。もちろん、製品は売れて欲しいとは思う。だが本当に取り扱いたいと思う相手が動くまで、じっと待っているんだ。タイミングを見誤るとすべてが台無しになるからね。だから、商売は時間がかかるんだ。でも、それでいい。香水業界は、我々を出し抜こうとする人間がいっぱいいる。営業主任のネラが窓口を担っているんだが、危ない取引を持ち掛けられると、彼女は夢でうなされるんだ。取引は慎重に、相手を見極めていくのが大事だ」
 
ー悪念察して取引中止。すごい危機管理能力ですね。
 
あの写真はブカレストで自撮りした
 
ーずっとお聞きしたかったんですが、この写真(写真下)はどちらで撮影されたんですか?
 
社長「ブカレストだ。ルーマニアは、モゴショアヤ宮などを持つ美しい文化のある国だったが、戦後は旧ソ共産圏に入り、さらにはチャウシェスク政権下、美術品や建築物は政府に没収されてしまったんだ。この階段の装飾も没収されていたんだが、1989年のチャウシェスク政権崩壊後、幸いなことに装飾品は元の持ち主へ返還されたんだ、この階段もね。そこで、正面が鏡だったんで、鏡に映っている自分を自撮りしたんだ」
 
ー実は、私はずっとこの写真は社内で撮られたものだとばかり思っていて、いつか同じ場所で同じポーズの写真を、社長と一緒に撮りたいなあ、なんてバカな夢を抱いていたんですが、ブカレストだったとは。私、この写真が大好きなんですよ。装飾品も戻ってきて、持ち主も良かった良かった。

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社長と言えば、この1枚。昨年パルファム誌にも掲載され、製品より一足お先に日本上陸

 
次回、来るのが精一杯で大した質問も考えてこなかった店主タヌに、こんどは社長が次々質問しまくる急展開!お見逃しなく!
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