La Parfumerie Tanu

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LPT Tour de Nederland 3 : Neverending story with Puredistance, part 2

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社長とタヌの爆裂エンドレストーク(後編)
 
どちらの取材かわからない。社長、店主タヌに質問攻め
 
社長「ところで、君はプロのジャーナリストなわけ?」
 
ー違います。
 
社長「新作のシェイドゥナはもう試したかい?」
 
ー第一印象は、ホワイトの年上の従姉って感じでした。控えめだけれど、深い奥行きがありますね。伏目がちに見つめる視線と、すらりとした美しい手足が見えました。
 
社長「控えめだが、深い(Understated, but deep)...いいリアクションだ。成功だな」
 
ーよくできた香りには、人格がありますから、映画を見るように声やしぐさ、体温、音色、思いまで感じることができます。
 
社長「なにか楽器は演奏するのか?」
 
ー残念ながら楽器は何も弾けないんですよ、バンドを組んでも楽器ができないんで、消去法でヴォーカル担当です。
 
社長「歌か、声は最高の楽器じゃないか!そういえば、音楽を聴いて涙が出ることがあっても、香りで泣けてくることはないな」
 
ーそうですか?香りは記憶と結びつくと、猛烈な涙の起爆剤になりますよ。私の父はシャネル5番のパルファムを使っていたんですが、当時は子供だったからわからなくって。その父も晩年要介護状態になりまして、ある時シャネルカウンターでたまたま5番のパルファムを試香したら、元気だった頃の父を思い出して、カウンターの前で号泣ですよ。お店はいい迷惑ですよね。認知症の父に何か思い出すかな、と5番のパルファムをつけてあげても、もう何も思い出せないようで、さらに泣きました。6年前父が亡くなった時、1/2オンスのパルファムを1本買ってきて、納棺の際たっぷり振りかけてあげました。
 
社長「泣ける話だな…シャネルと言えば、私はピュアディタンスを立ち上げるまで、30年アンテウスを使ってきた。シャネルは大企業だが、独立系企業なんだよ。シャネルの歴史を見てほしい、案外慎重に、大事に香りを発売している。無駄にラインナップを増やしては廃番にしたりしていない。いい会社だと思う。ピュアディスタンスは100%家族経営の小さな会社、買収とは無縁だ」

f:id:Tanu_LPT:20161018082554j:plainピュアディタンスの皆さん

 
社長、ジェントルマンを大絶賛「香りは、イノセンスだ!」
 
社長「最近ブログの反応はどうだい?」
 
ー反応というか、LPTはこれまでメンズフレグランスは殆ど取り上げてこなかったんですが、結構男性の読者も多いし、ブログの幅を広げたいと思い、メンズフレグランスのコーナーを立ち上げました。ただ、正直なところ、自分でいかにも男らしい香りを一日中まとってリアルな記事にする、というのは中々難しいので、主人に依頼して香りを使ってもらい、感想を書き留めてもらうことにしました。しかし、彼は香水評論が全くの未経験者なので、つけた後、数時間ごとに感じた事を少ない言葉で書き留め、最後に、もしその香りをポラロイド写真で撮ったら、何が写るか?人でも、建物でも、色でも何でもいい、とにかく頭に浮かんだものを「写して」もらうことにしました。結構これが評判よくて、猫のお腹が見えた、とか10年前の俺がいた、とか、まあ…
 
社長「素晴らしい、君のご主人は素晴らしい!」
 
ーえっ?
 
社長「君のご主人は純粋に香りを表現している。私も調香は全くの素人だが、香りには純粋なヴィジョンがある。無心に、かつ明確にヴィジョンを具現化していくのがピュアディスタンスだ。香りは、イノセンスだ!!」
 

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今秋新発売の5mlサイズギフトアトマイザーには、会社のヒストリーブックが
封入されている。これは昨秋のランチミーティングの一コマ、寿司と焼き肉が
食べれる人気店、SUMOにて。スモウか…。オランダは寿司が大人気で、アルバート
ハインでも大きな寿司売り場があった。メアリさん、ちょっとシュワちゃん似

 
社長、日本の思い出を語る
 
社長はピュアディスタンス創業前経営していたデジタルストックフォト会社の商談で2度来日経験があり、東京も銀座や六本木など、主な商業地には足を運んでいるそうで、日本の思い出を語ってくれました。社員さんも興味津々で聞き入っています。
 
社長「日本の街頭ディスプレィは本当にクオリティが高い。特に高級ブランドや百貨店のディスプレィがひしめく銀座中央通りには目を奪われたよ。そしてホテルやレストランのサービスも素晴らしい。ホテルで朝食の際、オムレツを頼んだんだけど、オーダーして30秒もしないうちにマネージャーが飛んできて『大変お待たせして申し訳ありません』って、頭を下げに来るんだよ。それで、普通にオムレツが出てきて、2,3分すると『お味はいかがでしょうか』ってまた頭を下げに来るんだよ」
 
ー皆さん、たぶん社長は物凄いいいところに宿泊されたので、これが日本標準だと思わないでくださいね(笑)
 
社長「カフェでお茶を頼んだら、ユーロに直して10数ユーロもしたよ」
 
ーだから、それはよっぽどいいカフェですってば!!
 
社長「韓国経由で日本に渡り、後はオランダに帰るだけだったので、成田空港でユーロに換金したら、自動換金機が故障して、どんどんユーロが出てきたんだ。嬉しかったなあ」
 
ーそこで儲けてどうするんですか!!
 
社長「こないだ、テレビで日本の寿司職人のドキュメンタリーを見たよ。銀座の、超高級寿司店の話だ」
 
ーそれ、きっと数寄屋橋次郎ですね。オバマ大統領が来日時、せっかく国賓として連れて行ってあげたのに、箸が進まなかったという有名な店ですよ。
 
社長「職人は、最初卵焼きばかり、毎日毎日練習するんだ。1年後、師匠に味見してもらって「駄目だ」って言われて、また1年、毎日毎日卵焼きを焼くんだ。2年目も、師匠は許してくれない。3年目、卵焼きを味見した師匠が初めて「よし」っていうんだ、そして、職人が、泣くんだよ…(全員爆笑)
 
ーいやいや皆さん、そこ、笑うところじゃないですから!!
 

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ディスプレィボードも社員が自社で作成。写真右奥のカードホルダーは、
ゆったりした一人掛けのソファをイメージした(ネラさん談)とか

 

君は、常に主流を目指さないだろう?
 
どうにも話の止まらない社長、オフィスでの対談と、夕食にご招待いただいたレストランでのひと時を数えるとゆうに4時間以上話しっぱなし。名残惜しいですが、最後にこれだけは聞いておかないと…
 
ー21世紀に入り、香水が廃番になるスピードが非常に早くなりました。ピュアディスタンスは、1,2年に1作という手堅いペースで新作を発表していますが、今後、どうしても売れ行きが芳しくない商品については廃番の可能性はあるんでしょうか。例えばオパルドゥはホワイトやブラックのようなヒット作ではないとの事ですが、個人的には絶対廃番にしてほしくない1本です。
 
社長「ピュアディスタンスの製品は、どれも我が子と同じ。子供は、育てるものだ。親が、子供を見捨てるわけがないだろう?子供は、育てるものだ。グレース・ケリーのように静かな美しさの1、私の母をイメージした、芯の強いグリーンのアントニア、スタイリッシュなM、レトロクラシックなオパルドゥ、ミステリアスなブラック、そしてハッピーなホワイト…そしてオリエンタルシックなシェイドゥナが加わり、どれもが確固たるパーソナリティを持った家族だ」
 
ーそれを聞いて安心しました。
 
社長「私は、ピュアディタンスの香りはたまの贅沢に使って貰えればいいと思っている。食事だって、毎日高級レストランでおいしいシャンパンじゃ、飽きるだろう?贅沢も毎日続くと当たり前になってありがたみがなくなる。私はプロテスタントの家庭で育った。君も知っているように、オランダはプロテスタントの国で、カソリックと違ってプロテスタントは贅沢を嫌い、保守的で厳しい側面があるが、宣教師の祖父やその子供である母は私を自由に生きる道を選ばせてくれた、だから今の私がある。親には感謝している」
 

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フローニンゲンの顔、マルティーニ塔(教会)の表(左)と裏(右)。右の彫像は第二次世界大戦戦没兵の慰霊塔。石造りのゴシック建築だが、何故か教会の頭頂部だけ素材が違う。その理由は、その昔どこかの国と戦って勝った際、喜びのあまり市民が教会のてっぺんに火をつけて燃やしてしまい、燃え落ちた部分を異素材の銅で再建したからだとか。どれだけ熱いんだフローニンゲン市民

 

「我々の住む、ここフローニンゲンは、パリやミラノといったメインストリームから離れているが、逆にそれがいいんだ。時流に飲み込まれないで、我が道を行く。君は、常に主流を目指さないだろう?ピュアディスタンスも同じだ」
 
常に主流を目指さない…そこまで理解していただき、店主タヌ光栄の至りです。その時、すでに夜の10時半を回っていました。
 
「ところで君は明日、何時にフローニンゲンを出発するんだ?」
ー8時過ぎのロッテルダム行特急に乗る予定です。
 
翌朝、ホテルまで車で迎えに来てくれた社長は、手提げ一杯の製品ギフトと共に、亡き母・アントニアさん手作りのブローチをひとつ「記念に受け取ってほしい」と選ばせてくれました。駅のホーム内では、ロッテルダム行の切符を手配してくれたあと、いよいよの別れ際、オランダの鉄道駅では普通においてあるピアノで、なんと別れの曲を演奏して送り出してくれました。
 

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動画でお届けできないのが残念です エリックサティとか弾いてくれました

 

想像を遥かに越える、心からの手厚いおもてなしに、ただただ頭を下げるばかりで、一路リアンヌさんの待つロッテルダムへと向かいました。今度はちゃんと二等車で。

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