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Jean Patou | prewar 3 : after World depression & the death of Jean Patou

はい、それでは次に世界恐慌後の香りを2種、ディヴィーヌ・フォリーとノルマンディをご紹介します。いずれもマ・コレクシオン版のオードトワレです。

戦前5【世界恐慌後~パトゥ生前】
12 Divine Folie (1933) EDT Henri Alméras, Ma Collection version
13 Normandie (1935) EDT Henri Alméras, Ma Collection version
 
12 Divine Folie (1933) マ・コレクシオン版
トップ:ネロリ、イランイラン
ミドル:オレンジブロッサム、スティラックス、アイリス、ローズ、ジャスミン、ベチバー
ベース:ムスク、バニラ

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ディヴィーヌ・フォリー パルファム30ml、EDT75ml マ・コレクシオン版
1933年に発売されたディヴィーヌ・フォリーは、ジョイよりさらにタイムスリップ感が味わえる、クラシック香水の真骨頂みたいなオリエンタルよりのフローラル・アンバーですね。今回、ジャン・パトゥの豪華伝記本を持ってきましたが、まさにパトゥの伝記本に出てくるソワレ姿の女性のイメージ。銀幕の時代にタイムスリップです。こんなの21世紀のデイタイムには出番がありません。夜のお出かけ、せいぜい真冬にどうぞって感じです。あああ~えええ~香りや!
最初は瑞々しく、その後は柔らかくパウダリックにまとまりますが、相応の緊張感を要する外向性の高い香りなので、特にクラシック香水に慣れていない方・気温の高い時期には体調を選ぶ香りだと思います。おまけにかなりの拡散力で、パルファムもあるんですが、ウエストにツーポイントつけて、真冬のオーバー貫いて香ってきますからね、ド迫力です。ケルレオ師匠が復刻したマ・コレクシオンの中で、私が一番好きな香りです。
 
13 Normandie (1935) マ・コレクシオン版
トップ:フルーツ
ミドル:カーネーション、ジャスミン、ローズ
ベース:バニラ、ベンゾイン、オークモス、シダーウッド、ウッド

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ノルマンディー EDT50ml マ・コレクシオン版
続いてノルマンディ。大西洋岸に面する港湾都市であるル・アーブルとニューヨークを結ぶ新しいオーシャン・ライナー、ノルマンディー号が1935年処女航海を行った際、大西洋横断速度の新記録達成時、ファーストクラスの乗客へプレゼントされたのが当時の最新作、ノルマンディーです。ボトルは船のレプリカをかたどっていたそうで、採算度外視のプロモーションに、お客さんは大喜び。勿論ファーストクラスだけですよ。お試しいただいているのはオードトワレですが、ノルマンディのパルファムはマ・コレクシオン版で復刻する際、通常の30mlボトルの他に、発売当時のノルマンディ号型ボトルも1000個、シリアルナンバー入りで限定販売されて、たまにオークションに出ています。カーネーションが効いた甘みのあるウッディ・フローラルですが、往年のフルーティシプレのアクセントがあるので、メリハリがあって、肌馴染みがよく、明るい意思のようなものを感じます。やはり、処女航海だの記録達成だのという時に、あんまりアンニュイな香りをお土産に渡されても、お客さんも何だかな、という気分になるでしょうから、その辺はパトウもわきまえて新作をぶつけて来たのかもしれません。
 
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左:EDT75ml 右:ノルマンディー号型パルファム15ml、いずれもマ・コレクシオン版
それでは、戦前編最後の香りを紹介します。 

戦前6【パトゥ死後】
14 Vacances (1936/2014) EDP
15 Colony (1938) EDT
16 Colony (2014) EDP
 
ノルマンディー発売の翌年、1936年3月8日、ジャン・パトウはなんと48歳の若さでこの世を去ります。パトゥは晩年、パリのオテル・ジョルジュ・サンク(ジョージ5世ホテル)を定宿にして暮らしていましたが、ホテルのバスルームで変死しているのを発見されました。スケジュール帳には、亡くなる前後の予定がびっしり書かれていて、パトゥは当時歯医者に通っていたようで、何月何日歯医者、何日歯医者、で前の日も歯医者。それで、その先の予約も入っていました。なんだろ、インプラントでもやってたのかな?そして、亡くなる翌日の3月9日には、お母さんと妹と昼食、って書いてあって、平生普段の様子からも自殺は考えにくい。どうも、新しもの好きなパトゥは、髭剃りにも電気カミソリを使っていたようで、バスタブに浸かりながら、当時まだ有線だったであろう、電気カミソリを使い、手が滑ってカミソリがバスタブに落ち、感電死したのではないか、と妹の夫であるレーモン・バルバスが答えています。フランスの電圧は220V、日本の2.2倍ですからね!このレーモンさん、パトゥにとっては義理の弟ですが、パトゥは生前良く言えばカリスマ、悪く言えば超ワンマンで、弟さん、薬学系の研究員出身だったんですが、パトゥの妹さんと結婚してから、表向きにはビジネスの片腕として相当こき使われていて、最初は倉庫番から始まって、関連会社をいくつも任される一方で、この弟さんには一切発言権がなかったそうなんですよ。ただ、1931年、その頃には香水事業が爆発的に伸びていて、香水部門のトップでもあった弟さんはようやく独立することができたんですが、その5年後に義理の兄が急死、レーモンさんは当時36歳。いきなりジャン・パトゥの2代目経営者になりました。そこからなんと1979年、79歳になるまで40年以上もワンマン兄さんからいきなり背負った会社を守り続けました。合掌。

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ヴァカンス 左:エリタージュ版EDP100ml 右:マ・コレクシオン版EDT50ml(ダミー)
14 Vacances (1936/2014)EDP エリタージュ版
 
はい、それではムエット14番、ヴァカンスです。バカンスは、オリジナルはジャン・パトゥが亡くなった1936年に発売されて、1984年にマ・コレクシオン版で復刻した際、一番人気のあった香りで、私が収集しはじめた2000年代後半には、既に手の届く価格での出物がありませんでした。それで、ずっと海外オークションで探してはきましたが、出物があっても日本には出してくれるところはなかったので、2014年に復刻されたコレクシオン・エリタージュ版のみのお試しになります。香りとしては、なるほど1984年に復刻されて、真っ先に売れたのもわかる、1936年当時としてはきっとすごく斬新なグリーンフローラルだったのではないかと思います。エリタージュ版は忠実ではなく誠実にリメイクしていますので、この通りではないにしろ、立ち上がりにぶちっと草をむしった時の青々とした爽快感に、ヒヤシンスやガルバナム、ミモザなど軽やかに香って、のちのシャマードにもどこかで通じる軽やかさがありますね。ただ、21世紀の鼻で嗅ぐと、グリーンフローラルの神髄はやはり戦後なのかな、ちょっと弾けきれないというか、勢いに欠ける気がしますね。
 
香調(マ・コレクシオン版):フローラル・オリエンタル
トップ:ヒヤシンス、ホーソーン、ガルバナム
ミドル:ライラック・ミモザ
ベース:ムスク、ウッド
 
15 Colony (1938) マ・コレクシオン版
16 Colony (2014) エリタージュ版
 
香調(マ・コレクシオン版):フルーティ・シプレ
トップ:パイナップル、ベルガモット
ミドル:イランイラン、イリス、カーネーション、オポポナックス
ベース:オークモス、レザー、ムスク、ベチバー

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コロニー 左よりマ・コレクシオン版EDT50ml、同75ml、エリタージュ版EDP100ml
パトウの没年である1936年にヴァカンスが発売されてから2年後、フランスから遠い南方の植民地に思いを馳せ、トロピカル感満載のコロニーが発売されます。
パイナップルをキーワードとしたクラシック香水としてはキャロンのアカシオサ(1929)が最も有名ですが、それから遅れること9年後、アカシオサのパイナップルはあくまでキャロンノートに則ったスイートフローラルの一端に香るかけらのようなもので、それほど主張しないのに対し、コロニーはパスッと切ったパイナップルの香気から、どっしりしたオークモスと時折煌く甘いフルーツとスパイスが絶妙なフルーティ・シプレで、酸味の強いパイナップルやトロピカルフルーツが全面に押し寄せてくる点ではコロニーに座布団を一枚やって欲しいところです。最初にご紹介した、トリロジーのクセジュにも若干通じるものがありますが、情緒不安定感はありません。ラストでようやくオポポナックスやムスクのまろやかな甘さに落ち着きます。

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コロニー マ・コレクシオン版EDT75ml
それでは、これにて戦前編を終わります。ジャン・パトゥ特集はここで一旦お休みで、9/3より戦後編を4回に分けてご紹介しますので、お楽しみに!
 
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