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Jean Patou | postwar 2 : Jean Kerleo, the third in-house perfumer

それでは、次は1970年代、1000とオードパトゥです。
 

戦後2【ジャン・ケルレオ:70年代】アンリ・ジボレから3代目調香師ジャン・ケルレオへ
5 1000 (1972)  P
6 1000 (1972)  EDP 
7 Eau de Patou (1976)  EDT 
8 Eau de Patou (2013)  EDT 
 
5 1000(1972) オリジナル パルファム、1970年前半品
6 1000(1972/2013) SAデザイナーズ・パルファムズ版EDP 

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ジャン・ケルレオ師、2000年初めのお姿。ここからすでに10数年経っている
いよいよジャン・ケルレオ師匠の登場です。御年87歳、ご在世です。パトゥの専属になった時は34歳。男盛り、これからが本番って時代ですね。ケルレオ師といえば、何といっても代表作は1000(ミル)。1972年に発売されました。ムエットは5番が1970年代後半から80年代初頭のパルファム、6番が2011年以降、デザイナーズ・パルファムズ版オードパルファムです。インデックスにはオリジナル版が1970年代前半となっていますが、ロゴの感じだともう少し後の年代だとわかりましたので、訂正してください。

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1000.左から嗅ぎたばこ型7ml、15ml(1970年後半)、7.5ml(1980年前半~半ば) 微妙にフォントが違うので、外箱がなくても大体の年代は特定できますね
香水の書籍には、必ず「天然香料だけでできている」「千種類の香料が使われている」「幻のきんもくせい香料」「ロールスロイスで一件一件手渡し訪問販売」と、半ば都市伝説的な紹介ばかりで、店頭にはおいてない。さっぱりわかんない。ちなみに今のは全部盛った話。実際は、「何がなんでも後世に残る傑作を」と力んだケルレオ師が、構想10年、試作1000回でようやくできた。執念の千本ノック、なので名前は1000、フランス語でミル。構想10年っていうけど、1962年から練ってたって事?パトゥに自分のやりたい企画持込みで契約かな?今は消滅してしまったデザイナーズ・パルファムズの公式サイトでは「中国広東省で春、1年にたった数時間しか花開く事のない幻のキンモクセイから得られる天然香料使用、絶妙なさじ加減のチュベローズとジャスミン、そしてベルベットのようにパウダリーなオリスとバイオレットが織り成すハーモニーと、美しきブーケを束ねるマイソール・サンダルウッドからなる重厚なフローラル・シプレ」と書かれていましたが、香りの第一印象は「地鳴り」。戦前のパルファムと同じく、ミルのパルファムも、オーバーコートを軽く貫通します。重厚で、香りの空気に全然隙間がない。織物でいったら水一滴通さない、目の詰まったじゅうたんみたいです。きんもくせいの香りだ、と字数の関係で簡単に解説されている事が殆どですが、はっきり言いますが、きんもくせいはもっと爽やかだよね!なんか一つの香りを作るのに、10年間で1000個も試作して脳内で時空が発酵しちゃったのか、10年の歳月を振り切り、背後に近代香水史すべてがひと固まりになって、目の前は真っ白、みたいな時空の静止点みたいな、混沌とした香りです。

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執念の千本ノック、1000。ジョイよりかなり高め設定だが、未使用品がオークションでまだまだ見つかる。私見だが、1000は立ち上がりの酸味が強く、劣化しているのか、もともとそういうものなのか、ヴィンテージで嗅いでも、今でも最後の一歩で確信が持てない。キャバレーにご参加くださった、1000を80年代から愛用してしるという読者の方は、私が明らかに劣化していると思っていた嗅ぎたばこ型ボトルを嗅いで「こういう香りだった」と言っていたので、ますます自信がなくなった
最新版のオードパルファムは、パルファムと比べると、圧力はパルファムの3割程度ですね。オークモスのもっさり感が抑えられ、ベースが現代的なホワイトムスクになって、通気性が良くて体感も楽ですね。たかが香水、わざわざ苦行を強いることもないです。もしこれからミルを使うなら、最近のものでもやっぱり時間は止まってますので、最近のオードパルファムをお勧めします。
 
7 Eau de Patou (1976)  EDT オリジナル版、1990年代品
8 Eau de Patou (2013)  EDT エリタージュ版
 
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左:70年代の広告 右:90年代の広告 ボトルデザインもエナジードームに変わります
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ケルレオ師が空前の超高級香水、ミルのあとにパトゥから発表したのは、グッと肩の力が抜けた、海風に吹かれてちょっとレモンをかじってみた、そんな爽やかさが当時の女性の心をわしづかみにした、フルーティ・フローラルシプレ、オードパトゥです。発売当時の広告です。ポスターでは、女性が海でマッパ!こんなに自由かよ!途中からボトルデザインが変わって、DEVOのエナジードームを思わせる筋入り三角垂のボトルになりました。。P&G買収時に廃番となり、数年前まではデッドストックをちらほら見かけましたが、さすがにもうないですね。オークションではまだ見かけます。

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DEVO エナジードーム。

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DEVO公式サイトより入手したエナジードームをかぶるジェントルマン Tシャツにも注目

たぶん、1960年代から70年代初め、オーソバージュに始まって、オードランコム、オードロシャスが出てきて、シトラスアロマティックなシプレが一つのトレンドになったでしょ、パトゥにはこういう理屈抜きに爽やかな女性ものってなかったから、うちでも欲しいって作った気がするんですよね。オリジナル版は爽やかななかにも立体的なフルーティノートと、フローラルブーケを後押しするのは、ここでもやはり圧倒的なオークモスの存在感にシベットとドライなムスクで、ちょっとエッチ。単なる爽やかな香りにとどまらない、真っ白なシャツの上からうっかり胸を触ってしまったらノーブラだった、ボイン。みたいなどこか肉感的な柔らかさを携えています。爽やかなだけじゃなくて、この濃度でもきちんと起承転結があって、ミドル以降はオリエンタルな表情すら覗かせ、シトラス多めの香りとしては結構持続のよい方だと思います。続いてエリタージュ版は、オリジナルとの一番の違いは肉を感じさせない涼やかさ、甘味のない材木系のウッデイノートとアイリス様の冷涼なトーンを感じます。ミドル以降は、物凄くいい風呂上がりみたいな寛ぎの香りに展開して、こんな風呂だったら湯上がりに死んでもいい、って気分は捨てがたいですが、シトラス以外の骨格がすべて違うのか、手足がすらりと長く、シャツの上からうっかり胸を触ってしまったらぺったんこだった、貧乳。みたいな中性的な冷涼感を感じます。一般的にシトラス香料を多用したフレッシュ系のヴィンテージは劣化が進みやすく、必ず状態のよいものが手に入る保証はないので、エリタージュ版はほぼ別物、オリジナル版はギャンブル、あとは好みと運次第。というのがオードパトゥです。ちなみにオリジナル版のエナジードームボトルは、スプレーヘッドの品質があまりよくなくて、新品未開封品を買っても、使っているうちに香料で表面が溶けたり、ワンプッシュした後2度と中身が出てこないものもあるので、余程普段の行いが良い人以外はババをつかむ可能性が高いです。私も3本買って1勝2敗でした。

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オードパトゥ 1990年代ボトル、EDT30ml。シュリンク包装もそのままの新古品だったが、ワンプッシュした途端スプレーヘッドが壊れ、何度プッシュしても接合部分から汁のように漏れだすだけになった。一番コンディションが良かっただけに残念
続いて、ケルレオ氏が手掛けた1980年代の香りをご紹介します。パトゥ・プールオムとマ・リベルテです。P&G買収時にすべて廃番になりました。
 

戦後3【ジャン・ケルレオ:80年代】
9 Patou pour Homme (1980) オリジナル
10 Patou pour Homme (2013) EDT
11 Ma Liberté (1987)  EDT  Jean Kerleo, original circa after 1990s
 
9 Patou pour Homme (1980) オリジナル
10 Patou pour Homme (2013) EDT、エリタージュ版
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ジャン・パトゥは、男の中の男だったので、頭の中は女性で一杯でした。かつて戦前、ルシアンというユニセックス系の元祖と言われる香りを出しましたが、基本は女性のためのブランドなので、生前は男の香りなんか作る気毛頭なくて、戦後も女性らしい香りばかり作りました。それでは時代に取り残されると思ったのか、1980年、パトゥが似合う女性のパートナーに相応しい男性の香りとして、初めて登場したのがパトゥプールオムです。甘さのあるアロマティック・フジェールで、カジュアルには似合わない、スーツ必至の正装感はさすがパトゥです。お子様無用、大人の男の香り。今こういう雰囲気のいい大人の男はいないですね、お会いしたことがありません。オリジナルはほぼ空のボトルからかっさらってムエットにしたんですが、まずまずエリタージュ版と比較してもよく再現できていると思います。再現はできたけど、上等すぎて着ていく所のない、おあつらえのスーツみたいで、ちょっと出番が少なそうですよね。

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パトゥ・プールオム エリタージュ版
さて、パトゥプールオム発売から4年後、ケルレオ師はパトゥ一世一代の大復刻作業、マ・コレクシオン・シリーズを総指揮します。1925年から64年までの作品で、往時と同じ香料で復元出来るものだけを復刻しました。そのおかげで、今皆さんが、カビジュースじゃない状態で往年の香りを試すことができているわけです。裏を返せば、1984年当時でも、もはや作れないものがあったわけですね。ケルレオ師匠の想いは、21世紀のゾンビ系みたいに「現代的解釈」ではなく、昔と同じ姿でパトゥの名作を蘇らせる。その一言に尽きます。12種類の香りのうち、実に11種がアンリ・アルメラスのが手掛けたもので、戦前物が10種、戦後ものは2種だけ。この「過去の偉業を未来に残す」激アツな執念が、1990年4月26日のオスモテーク設立へと直結します。パトゥやりながらオスモテーク。会社で仕事しながら、頭の中は好きな古い香水のことで一杯。なんか、他人事じゃないですね。

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マ・リベルテ EDT50mlフラコン
11 Ma Liberte (1986)
はい、次はマ・リベルテ。オードパトゥから、実に10年ぶりに登場した女性ものの新作ですが、ブラインドテストをしてこれをレディスと言い切れる人がどれだけいるかな?ドライでハードなアロマティックウッディノートのユニセックス系、むしろメンズ寄りと言えそうです。非常にドライでハーバルなラベンダーとレモンで始まるところは、往年のモマン・スプレームのオマージュともとれますが、そこから決して甘だるくはならず、一貫してドライなウッディノートが「昔嗅いだ、おやじの頭」みたいな印象を受けます。メンズのアロマティックフジェールよりのベースに太田胃散みたいなスパイスが押してくるので、最後まで片意地はって可愛いげのないおやじ臭いあたりがケルレオ師が描く女性のチャーミングポイントだとしたら、ケルレオ師は相当の上級者と察します。1986年といえば、すでに世の中はココとかプワゾンとか、ボンバスティックな女の香りが台頭してきて、過剰なフェミニティへのアンチテーゼかもしれませんが、その中でこのおやじ臭さは霞むよな、と正直思います。
 
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