Parfums de Nicolai, createurs de parfum
website : http://www.pnicolai.com/en/
現オズモテーク*会長であり、レジオンドヌール・シュバリエ勲章(フランスの最高勲章)叙勲者、ひいてはゲラン一族の血筋を引く調香師、パトリシア・ド・ニコライ(57)がご主人のジャン-ルイ・マショーの起業により興したパリのブランド、パルファム・ド・ニコライです。自社調達の天然香料を中心にして、クラシカルで品格のある上品な香り作りが得意で、主張しすぎない丁寧な香りが多いのが特徴です。
*オズモテークは前ジャン・パトウ専属調香師、ジャン・ケルレオ師が創立した香水文化機関で、近代香水のアーカイヴや各種レクチャーなどの文化活動を行っており、ケルレオ師の後継としてパトリシア・ド・ニコライが2008年会長に就任しました。
肩書きだけでも恐れ多いニコライさんですが、1989年にご夫婦で始めたブランドの商品は、原料調達から調香、製造まで彼女が行い、ビジネスの方をご主人が担当しているのですが「うちの母ちゃんは立派だぞう」と調香師と品質を前面に押出している割には商売が及び腰というか、宣伝下手でパッケージセンスもいまいち野暮ったく、良い原料を惜しみなく使っているのがよくわかる上質な香りを幾つも輩出し、公式オンラインショップで世界対応しているにも関わらず、本国以外では過小評価なままの調香師及びブランドの一つだと思います。現在パリに6店舗、ロンドンに1店舗の出店があり、日本でも代理店がありますが(後述)、先日ロンドン店の店員と話をした際も「ここイギリスでも、中々評価されないね。ま、奥さん(ニコライ)が全然商売に興味ない人でさ、いいものを好きに作れればいい、ってスタンスなんで、まともな宣伝もしないで、こんな小さな店(注:うなぎの寝床状態、ただしフラム地区でハロッズも徒歩圏内の好立地)でやってるんだ。ウェブサイトだと発送も遅いしね(注:実際は迅速に発送、リクエストでサンプルも同梱してくれます)。ニッチ・フレグランスってやたら大風呂敷で法外な値段で売ってるところ、多いだろ?時々、全然中身に見合わない値段の物もあったりして、商売上手だよな。その点うちは、この品質にしては値頃な価格でやってるし、その辺も商売っ気ないんだよ」とボヤキとも自慢とも取れる胸の内を立て板に水の如く話してくれましたが、裏を返せば本国フランスで充分な評価を得て足りるを知り、身の丈の商売をしているのかもしれません。
さて、一方日本の代理店といえば、香水とは(多分)無縁の会社が、ブランドや商品の事をよくわからないまま「最高級香水」という言葉だけをやみくもに繰り返し、オンラインショップも首をかしげたくなる紹介内容が多く、明らかにパルファム・ド・ニコライ本社との同期・連携がとられておりません。もともと限られたアイテムしか販売していませんが、ムスク・アンタンス以降の新作(ウード2種、ムスク・モノイなど)は扱いがない一方で、とっくの昔に本国では廃番になったサクレブリュやルタンデュヌフェトなどが普通に販売されています。その上オークションサイトにて国内販売価格より安かったり、値引き交渉付で出品しているので、このブランドの売りである品格が台無しになっており、これなら日本代理店のない方がブランドイメージが傷つかずにすむのに、と残念に思います。本来は良心的な価格設定のニコライ品が、国内販売価格も倍近く取扱商品も限られているので、送料をかけても公式オンラインショップで購入するか、海外の通販サイト等でお求めになる方が賢明だと思います(注:初稿2012年当時。ユーロ高が影響して現在では国内価格との差が多少縮まりました)。自社イメージを格段に下げる、こういう代理店をつかまされるというのも商売下手の現れかもしれません。ちなみにロンドン店でも、店員の胸先三寸で「今なら10%引きにするよ」「100mlサイズなら2割引くよ」「うちの店から直接日本に送ってあげるよ」と勝手な商売し放題で、客のこちらが心配になる程でした。
続いて、代表作の紹介です。
Number One Intense (1989/2008)
ニコライ初出の香り、ナンバーワンが発売から約20年、既存の香りのアンタンス版であるマニフィーク・シリーズに2008年、ナンバーワン・アンタンス(全部英語読みならナンバーワン・インテンスですが、ニコライの商品名は英仏混在なので、どちらかは不明)として加わりました。初出のナンバーワンは在庫限りの販売で、なくなり次第アンタンス版だけになりました(サクレブリュなど、他の香りも同様)。オリジナルのナンバーワンはフランスフレグランス協会1989年度ベスト・パフューム・クリエイター国際賞を受賞し、ブランドのスタートを華々しく飾りました。アンタンス版もオリジナル版と同じEDPですが、より深みと持続が増した調香となります。
香りは、チュベローズ主体でシプレ寄りのホワイトフローラルで、トップで香る苦み走ったグリーン香が過ぎると、クリーミィで暖かいフローラルブーケになりますが、チュベローズ系ホワイトフローラルが陥りやすい鳩胸でっちりなやかましさを、うまくオークモスやサンダルウッドが丸めています。フラカEDPを100db(デシベル)とすると、ナンバーワン・アンタンスは60db程度なので、スクエアで穏やかだけど主張もあるチュベローズが欲しい時にはお勧めです。華やかさだけにとどまらず、フランス香水の王道を行く古典的格調を湛えていますので、幅広い年代の女性にお似合いになると思います。日本未発売。オリジナルと香りの印象は殆ど違いありませんが、さすがはアンタンスというだけあってかなり持続がよく、胸板の厚みが増した感があります。ちなみに、ニコライの香りはいずれもアンダートーンに大なり小なりチュベローズの面影を感じますので、この若干脂性のチュベローズ香が、ゲランでいうならばゲルリナーデ、キャロンで言うならキャロントーンなのだと思います。これが、案外にこのブランドの香りの好き嫌いを決めてしまう両刃の刃になっている気がしないでもなく、時々くどさというか、野暮ったさを感じてしまうのですが、概ね品の良さが勝っており、中でもナンバーワン・アンタンスは、ニコライの中でまず1本選ぶならこれかな、と思う一品だと思います。
100mlボトル(旧デザイン、現在は長方形)
・ロンドン店ではいきなり「100mlボトルなら2割引にするよ」と店員に言われました。でも慎重な日本人は丁重にお断りして30mlサイズを購入。入店前の1割引ビラでしっかり値引きして貰いました。そういう商売もブランドの品格に障ると思います