La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Chypre Mousse (1914/2012)

A Gentleman Takes Polaroids chapter twenty one : Chypre Gentleman
 
立ち上がり:草!雑草摘んで箱に密封して2-3日放置した後空けた時の匂いだ。むー電車乗るとき周りが気になる
 
昼:草臭いのは変わらない クサと言ってもオランダのコーヒーショップで堪能できるアレではないけど
 
15時位:草 草 臭!少し甘い香りが強くなってきたような気もするが草!
 
夕方:どこまで行っても草!やー これは唯一無二ですが私は無理だ・・・
 
ポラロイドに映ったのは:ウッドストックで乳掘り出してるヒッピー女 そろそろ寿命だね
 
Tanu's Tip :
 
来月2018年7月で3年目の連載に突入するジェントルマンコーナー。ほぼ毎月、四季折々のテーマに基づきジェントルマンが香りをポラロイドに写し撮ってまいりました。その数既に68本、字数にして10万字は軽く到達しているので、1冊の本にまとまってもいい位のボリュームですが、そこはまあ、世の中は需要と供給という揺るぎない秩序に基づき自転しているわけで、お呼びもかからなければまとめる意思もなく、そして読者の皆さんはまたひと月たてば新作がタダで読める。何も問題がないわけです。良かったですね。2年間つつがなく連載を続けることが出来ましたのも、ひとえに読者の温かい応援とジェントルマンの不屈の闘志あればこそ。店主タヌ、ここに心より御礼申し上げます。
 
さて、この2年間ジェントルマンコーナーに寄せられた2大リクエスト、それは①アフォーダブルなものを紹介して欲しい②メンズのシプレ系香水を紹介して欲しい、この二つに尽きます。「お値段以上の仕事をする」アフォーダブル系香水紹介は、LPTとしても常に心に留めていますが、②のシプレ系メンズ向き香水、という観点で紹介するとなると絞り込むのが難しかったのですが、今回は単純に①うちに実物(サンプル含む)があって②名前にシプレがついている③男女問わず使える香りを選んでみました。
 
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1720年に創業し、19世紀後半から20世紀初頭にピークタイムを迎え、第一次大戦中から栄華に陰りが見え始めた後、最終的には世界恐慌のあおりを喰らい1939年廃業、その約70年後の2012年に復興したオリザ・ルイ・ルグランは、ゾンビ系復興ブランドの中でも復興とほぼ同時進行で日本上陸した数少ないブランドです。ブランドと血縁関係にない、ディプティック出身の若い男性二人が蘇らせて、香水だけでなくソープやキャンドル、スキンケアも手がけるワイドレンジな展開と、ゾンビ系の中でも過去の意匠を効果的に使い、見た目がかなりレトロでファンシーなのでインテリア性も高く(日本のゾンビ展開はここが重要)、2013年上陸から割とファッション誌等で取り上げられる率が高かったのですが、残念ながら今月日本撤退が決まり、既に伊勢丹オンラインは終売、フラッグシップ店であるエルムタージュ・ドゥーに確認した所「仕入先(㈱アイビシトレーディング)にはまだ在庫があるので暫くは購入可能だが、在庫限りで販売終了となる」との事です。現地価格とほぼ連動した良心的な価格体系で頑張っていただけに、努力の果が実らず残念です。まあ日本で5年もやれたんだから、これは撤退というより卒業と呼んであげたい位ですが、果たして香りはどうだったか?これだけ歴史も意匠もバッチリでラインナップ豊富、しかも日本で手に取って買えるゾンビ系なのに、一度も紹介しなかったのには理由があります。
 

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実は、復興ものには目がないLPT、復興まもなくの2012年に直接オリザ・ルイ・ルグランの公式サイトからサンプルセットを購入したのですが、セットの中からまずはオリザ・ルイ・ルグランの後期代表作で、今回ご紹介するシプレ・ムースをつけた瞬間、ぶふぇっ!!ぐふぁっっ!!とのけぞり「昔の人は、こんな香りを好んで使っていたなんて、なんて根性あるんだろう」「こんなケミカルな香りが、19世紀から戦前にかけて本当に生産されていたんだろうか」と、ワンプッシュ試香で粉砕後、動揺と混乱の末「なかったことにしよう」と、他のサンプルを試す気力を失い封印、それ以来ほかのゾンビ系ブランドの紹介で史実として名前を引用する以外は一切関わらないようにしてきました。…でも待てよ、自分で実装するのでなければ、いいか?日本撤退する前に1本くらい紹介しておきたい…ジェントルマン、やるか?と聞いたところ「やるやる」というので、ちょうど名前もシプレってついているし、完全丸投げした次第です。
 
結果は同じ「草の汁」。いや本当に土臭い草の汁の匂いがします。シプレ・ムース、即ちモッシー・シプレなんですが、小学校の遠足で、雨上がり&陽の当たらない雑木林を通りがかって、雨で緩んだ土と岩場にむっくり生えたコケで滑って転倒、すんでの勢いでそばの草を掴むも、ブチッとちぎれて草もろとも吹っ飛んだ後、汚れたズボンと手を嗅いだ時の残念な気持ちに似ています。ムエットで嗅ぐと武士の情け程度に甘さも感じますが、ベース香料の配分が少ないのか、とにかく肌に馴染みません。数々の未知なる香りに挑戦し続ける忍耐強いジェントルマンも「これだけは勘弁してくれ」と、過去オードロードスで見せた苦渋の表情に、若干の憤りすら浮かんでいるところを見ると、これが忠実な復興作品なら、過去に消えた理由も納得できるし「4世紀にわたる経験に基づき、家督のアーカイヴをグラースの最高級香料を用いて、全き現代的な解釈を持って誠実に復元した…」というのが本当なら、その現代的解釈にどこか致命的なバイアスがかかった気がします。ただし私が見えたのはコケで滑ったダサい小学生だったのに対し、ジェントルマンのポラロイドに映ったのは、上半身マッパのヒッピー女。よく海外の60年代ユースカルチャーのドキュメンタリーフィルムで必ず出てくる、でろーんと胸が垂れて恍惚の表情を浮かべているマッパ女、そんな時は大概ハッパでキメてます。男性としてはそんなのちっとも嬉しくないですよね。

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パッケージは、ホント雑貨屋さんなんかで見たら即買いの麗しさですね

さようならオリザ・ルイ・ルグラン。せめて日本から消える前に、香水石鹸位は試してみたいです。ちなみに前述のエルムタージュ・ドゥー(銀座東急プラザ3F)では6月29日より「さよならオリザ・ルイ・ルグランセール」を開催するそうで、店頭にないものでも頼めば仕入先から取寄せてくれるそうです(オンラインストアは7/1よりセール開始)。またオリザ・ルイ・ルグランの公式サイトは非常にジャパンフレンドリーで、なんと100€以上で送料無料で日本発送OK。このシプレムースも100ml120€ですので、もちろん送料無料で送ってくれます。なので撤退後も何も心配する事はありません。良かったですね!

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