La Parfumerie Tanu

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- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -


Eau de Patou (1976), original & latest EDT

ケルレオ師が空前の超高級香水、ミルのあとにパトゥから発表したのは、グッと肩の力が抜けた、海風に吹かれてちょっとレモンをかじってみた、そんな爽やかさが当時の女性の心をわしづかみにし、キャリーヌと共にパトゥ爽やかシスターズとの異名をとるカリスマ・フルーティ・フローラルシプレ、オードパトゥです。単なる勘違いでしょうが、ちょうど時代を共に現れたDEVOのエナジードームを思わせる筋入り三角垂のボトルも印象的です(注:デビューはDEVOが先で1974年)。P&G買収時に廃番となりましたが、現在も1990年代に流通したとおぼしきデッドストックを市場で散見します。親会社がP&Gからデザイナーズ・フレグランス社に変わり、コレクシオン・エリタージュとして過去のアーカイヴを復刻するにあたり、まっさきに登場したのがこのオードパトゥで、人気の沙汰が知れましょう。いずれも濃度はEDTで、エリタージュ版は伊勢丹でも入手可能です(100ml、32,940円)。

香りとしては、オリジナル版は苦味、甘味、酸味と表情の異なる各種シシリアンシトラスの、爽やかななかにも立体的なフルーティノートと、ハニーサックルとオレンジフラワーを主軸とするフローラルブーケを後押しするのは、ここでもやはり圧倒的なオークモスの存在感にシベットとムスク(当時のドライなムスク)の催淫性アクセントで、単なる爽やかな香りにとどまらない、真っ白なシャツの上からうっかり胸を触ってしまったらノーブラだった、みたいなどこか肉感的な柔らかさを携えています。昨今の未来永劫トップノートが続くような爽やかさではなく、きちんと起承転結を持ってミドル以降はオリエンタルな表情すら覗かせ、このタイプの香りとしては結構持続のよい方だと思います。続いてエリタージュ版は、オリジナルとの一番の違いは肉を感じさせない冷涼さで、立ち上がりの甘酸にあまり膨らみがなく、甘味のない材木系のウッデイノートとアイリス様の冷涼なトーンを感じます。ミドル以降は、物凄くいい風呂上がりみたいな寛ぎの香りに変化し、割りとあっさり消え入ってしまい、もちろん復刻版なので近しい部分も感じ、これはこれでとても美しいフルーティシプレですが、シトラス以外の骨格がすべて違うのか、手足がすらりと長く、シャツの上からうっかり胸を触ってしまったらぺったんこだった、みたいな中性的な冷涼感を感じます。このミドル以降の、こんな風呂だったら湯上がりに死んでもいい、という気分になる展開は確かに魅力的ですが、風呂上がりの香りに、3万か...と思うと、その3万で王妃の水などの古典的なコロンと香水石鹸のセットでも買った方が良い気がします。

かといって、今ならまだ手に入るオリジナル版のデッドストック品の方が良いかというと、一般的にシトラス香料を多用したフレッシュ系のヴィンテージは劣化が進みやすく、必ず状態のよいものが手に入る保証はない上、デッドストックとはいえそれなりに値段もついていますので手放しにヴィンテージあさりをするのもオードパトゥについては得策とも言えないので、不完全燃焼みたいなことを申し上げますが、エリタージュ版はほぼ別物、オリジナル版はギャンブル、そういうわけでパトゥのなかでも戦後品ながら今や幻、と締め括りたいと思います。

オードパトゥEDT(オリジナル版)やはりエナジードームを彷彿とします