La Parfumerie Tanu

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- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -


Chaldee, Collection Heritage (1927/2013)

Chaldee, Collection Heritage (1927/2013)

1984年の偉業、マ・コレクシオン後のジャン・パトゥは、ご存じの通り1999年にユーロコス(のちのP&G)に買収され、前後して専属調香師もジャン・ケルレオからジャン=ミシェル・ドゥリエに交替し、試運転として共作を幾つか制作した後に「エンジョイ(2003)」「シラデザンド(2006)」など日本でも発売のあった若年層向けの新作を発売したものの、ブランドネームと価格も災いし、巨山・ジョイ、ミルを越えるものは到底輩出する事も出来ずに2011年、現在の親会社である英・デザイナー・パルファムズに売り渡されます。

しかし、P&Gとは格段に(いい意味で)規模の小さいデザイナー・パルファムズは、ジャン・パトゥのどうにも宙ぶらりんの立ち位置をあるべき姿に戻すべく、ハイエンド・パフューマリーとしてのブランドイメージを一気に作り上げ始めます。やり方としてはRDPR流と言えましょう。

まず最初に、専属調香師の交替として、リュバンなどで腕を振るっていたバリトン調香師トーマス・フォンテーヌを迎え、P&G時代に生まれ、ディスカウンターでカゴ盛り投げ売り状態だったエンジョイとシラデザンドはばっさり廃番、一般流通品をジョイ、ミル、スブリームの3点に集約します。それと並行して、イギリスP&G調達の原料から「元ある姿」南仏グラース産の最高級香料へと原料の見直しも図り、それにより価格も底上げになります(例/ジョイ・パルファム15ml:300ユーロ)。次にウェブサイトの刷新。P&G時代のウェブサイトも中々気が利いていましたが、更にプレステージ感を高めた、シンプルかつ過去の意匠をふんだんに盛り込んだ、英国を拠点とするオンラインショップ(残念ながら日本は未対応)併設のサイトに一新しました。そして2013年、フォンテーヌ氏指揮のもとパトゥ黄金時代を喚起する過去のアーカイヴから復刻する販路限定のプレステージシリーズ、コレクシオン・エリタージュが始まりました。第一弾としてマ・コレクシオンにもラインナップされた女性向けのシャルデ(1927)、戦後のユニセックス香水として熱烈なファンの多いオードパトゥ(1976)、そして男性向けのパトゥ・プールオム(1980)が再発されました。シャルデはEDP,他2点はEDT1濃度でいずれも100ml180ユーロの堂々ハイエンド価格です。

 とにかく、ジャン・パトゥという大看板を背負わされ、大鉈を振るいながらも粘着質なカルトファンたちを納得せしめなければ即時切腹・蜂の巣状態のフォンテーヌ氏、どんなに頑張っても各地でけちょんけちょんの大炎上な所は、ゲランのT・ワッサー氏とかぶるものがありますが、あちらは養子縁組までした血の覚悟で「あの」所業に比べ、専属とはいえ雇われ調香師の身分で、そこまで炎上される筋合いもあるのか、果たしてエリタージュ版シャルデはどんなものかと、嗅ぐ前から鬼の棍棒を振り上げているのが目に浮かぶ牛頭馬頭ファンをかき分け、右にエリタージュ版EDP、左にマ・コレクシオン版パルファムをつけて数日過ごしてみました。当然ムスクむんむん、ジャスミンむらむらのコレクシオン版はパルファムで、経年変化もあり、かつニトロムスク(動物性ムスク)が使用されている為、2013年の現在使用しうる原料で同じ香りができる事自体おかしいので、そこはしっかり理解したうえで、いいところを見つけて楽しむのが、復刻版に対する仁義です。

エリタージュ版は、一言でいって「忠実というよりは、誠実に再現した」復刻版で、面立ちは立ち上がりから消え入りまでコレクシオン版に相当接近した近似値を描きます。ジャスミンの生臭いまでの生々しさ、ナルシスの球根系らしい押し、ゲルリナーデに対抗した(のか?)濃い甘さを湛えたオポポナックスやバニラの「パトゥナーデ」がふんだんに組み込まれ、非常にクラシックな香り立ちの演出に成功しており、オリエンタルよりフローラル感が増しているので、フローラルの主軸となるジャスミンの表情から、ジョイのパルファムにも通じる華やかさも持ち合わせています。ムスクは合成、植物性なので、さすがに毛足の長いファーに指を絡めたような、動物性香料特有の温かみのあるドライなリフトはありませんが、持続のよさはコレクシオン版パルファム以上です。是が非にもボトルが欲しくなる程ではないけれど、現代に過去の香水を作る上の様々な制約事項を考えれば、努力の跡がみられる良く出来た復刻版だと評します。

そういうわけで、今後もコレクシオン・エリタージュは第2弾、第3弾と続き、その都度マ・コレクシオンからも甦ってくる模様ですが、とりあえず幾つか出して貰って、何年かしてから良し悪しを判断してあげて欲しいと、何故か同情モードでフォンテーヌ氏を生暖かく見守ってしまうのでした。