La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Authent (2010)

21世紀に入り、香水製作に減速をかけ始めた国内主要メーカーは、まず自社調香をやめフランスのなどの著名調香師を採用したり、ご当地ものやマリー・アントワネットなど歴史セレブの名を借りて、どうにかこうにか話題作りをしてきたものの、海外ブランド品が容易に入手できるようになり、市場の拡大・深耕どころか現状維持も危うくなった時点で、香水=不回転商品とみなし、一斉に廃盤のファンファーレが轟き出しました。一例を挙げると2009年、資生堂国内流通品の大々的な廃番により、欧米でも名香と名高いスーリールをはじめとした、昭和を、いや戦後日本を代表する美しい香りがこの世を去り、幅広い価格帯で多種多様なフレグランスを揃えていたポーラも2015年、サクラガーデンを残し一斉廃番となりました。
 
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オーセント オーデパルファム50ml 15,000円(税抜) 2017年2月現在
 
そんな中、創業よりフレグランスには並々ならぬ情熱を注ぎ続けてきたものの、訪問販売という販売形式が仇になり、全国の化粧品店やデパートなどで気軽く手に取れる資生堂やカネボウ、コーセーなどと比較して、その香水に向ける企業姿勢が伝播しづらかったメナードは、日本企業の中では最も真摯に新作香水を出し続けているメーカーと言えましょう。
フレグランスにおいては、むしろ海外での評価が高く、逆輸入的に話題になった緑映(2002)や重ね香(2004)は記憶に新しい所ですが、一方で2017年1月現在のラインナップのうち5種が1970年代発売のロングセラー品であり、クラシックな香りを次世代へ大事に繋いでいる国内メーカーはそう多くない、いやほとんどないといって良いでしょう。また毎年のように限定品を乱発するのではなく、新作をきちんと何年もプロモーション、販売しているスタイルは、かつてのゲランやシャネルなど、どこのブランドもそうであったように、香水販売の王道だと思います。
 
また、特筆すべきは他の国産メーカーと比較しても、歴史と会社規模の違う資生堂は例外としても、実に25カ国に進出、うち東ヨーロッパやロシア、アラブ諸国にまで展開しており、特に東欧・ロシア・中東では、メインストリームではなくハイエンドなニッチブランドとして、高級香水店などが販売拠点となっています。また、海外展示会においても、毎年9月に開催されるニッチブランドの国際展示会、ピッティ・フレグランツェ(フィレンツェ)に唯一出展している日本企業がメナードです。
 
オーセントは、同名の高級スキンケアラインに賦香した香料が大変好評で、同じ経緯で言えばニュクスのプロディジュー・オイルの香りで、甘くジューシィなアンバーフローラルのル・パルファムもオイルの香りが人気で生まれたように、オーセントもクリームの香りからフレグランスへと昇華したオーデパルファムです。フルーティでフレッシュなブルガリアンローズとベルガモットの立ち上がりに始まり、王道中の王道、ローズドメ・ジャスミン・バイオレットといった、長きに渡り普遍的に愛されてきた、甘露なバニラムスクと清浄なサンダルウッドで底支えしたフローラルブーケで、そこに今や現代のスタンダード香料となったピンクペッパー、アンブレットシードを核としてホルモンバランスに作用するアロマティックな調合香料、FEアロマを加えることにより、ただ甘く華やかなだけでなく、時に眼のすわった、そして自分を甘やかさない、芯の強さを備えた優しさを感じます。時折、アロマティックな丸みというよりは独特な硬さを感じるのですが、この硬さがオーセントの背筋となる個性なのでしょう。
 
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オーセンティックを由来とする、その名に違わぬ品格のあるオーセント
 
オーセントはグラースの老舗香料会社、シャラボとの提携で作られており、奇香珍香に走りやすいネタ切れフレグランス業界から見れば、良い香りというものの基本に立ち返った、天然香料を多用した真っ向スタンダードな作品で、王道フローラルブーケといっても我こそ主役、のような香りではなく、控えめに拡散し、上等な普段使いから改まった席でもお勧めですが、ローズブーケとしては鎮静作用に秀でているので、お風呂上がり、うなじやデコルテにスプレィして深呼吸しながらお休みになるのも贅沢ですがお奨めです。元々がクリームの香りだっただけに、こんな寛ぎも叶えてくれるのでしょう。個人的には、オーセントは出元を敢えて問わないユニバーサルな佇まいでやたら日本の文化だの源氏の世界観だのおもてなしの心だのに走って、ジャポネスク押しで(要は売りがそれしかない)海外マーケットの安易なリアクションを掴もうとする間違ったトレンドとは無関係なところが好印象です。
 
常々、国産香水の荒涼たる現状を目の当たりにして日々さみしい思いをしていますが、こんな真面目な香りと、それをまだ作れる力のある国産メーカーが残っている事に光明を得た感のあるオーセント、いつかふんふんと香るパルファム濃度もまとってみたいです。
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