La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

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Meet LPTV vol.6 | Congrats ! : OMEDETAI

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日程:2022年6月20日(月) 配信:20:00-21:00 場所:Fumikura
(海外時間:英12:00~/仏伊蘭13:00~/米7:00~)
 
今回のテーマは「おめでたい話」です。
香りの紹介は、ヘッドライナーに登場するものは殆どブログで紹介済なので、あとでブログ記事(リンク参照)を読んでください。今日は、ブログに書ききれなかったおめでたい話をお届けします。
 
おめでたい話① フラッサイ、日本上陸。マイドオオキニ!

冒頭にまさかのナタリア・オウテダさんご登場。マイドオオキニ!

「おめでたい」、私の好きな言葉です。6/6のMeet LPTV開催告知を見て「私も参加していいかしら」と連絡をくれたフラッサイのオーナー、ナタリアさん。イタリアの香水見本市、エッセンチェ(6/15-18)出展準備にお忙しい中、嬉しいオファーにおめでたい度120%UP。しかも「何か日本語でご挨拶したいのだけど」と仰るので、本年5月に日本上陸が叶った実店舗が東京と大阪の2拠点と言う事もあり、美人と関西弁のギャップ萌えで視聴者を悶絶させて始める事にしました。

 

ヴィクトリアのテーマになったアルゼンチンの女傑、ヴィクトリア・オカンポについて
 
ヴィクトリア・オカンポと言う女性の生涯がまた秀逸で、確かにこういう香りになるだろうな、という激しい方だったみたいで、まあ、出自はイタリア系アルゼンチン貴族出身で、まあ天上人ですね。今で言うオリガルヒです。6人姉妹の長女で、民草の行く学校なんか当然行かずに、フランス人家庭教師でホームスクールですよ。その後、フランスに1年間、家族で遊学した後、良家の子女は、結婚するのが当たり前の時代なので、22歳で結婚しましたが、新婚旅行中、この旅行も世話役のメイド付きですよ!、旅行中に出会った旦那のいとこに一目ぼれ、旅行が終わるころにはすぐ別居、その後いとことの関係が始まります。「旦那と別の階に住んで家庭内別居家の中で会わないで済むくらい、大きな屋敷だったのよ!(ナタリアさん談)」だそうですが、結局そのいとことも15年くらい付き合って別れて、そこからが文芸人生にまい進していきます。
41歳で、出版社を立ち上げて、伝説の文芸誌・スールを刊行するんですが、この出版社の社屋として、ヴィクトリアがフランスに行った際ル・コルビジュの建築に触発されて、当時のアルゼンチンではまだ誰も建てたことのない、近代的な建物を、日本で言ったら宮大工みたいな人に建てさせたんですよ。もうその大工がのちに「勘弁してくれ」位の発言をしていました。
 
金に糸目をつける必要のない人間が、知的好奇心に突き動かされるとこうなるという生き証人、ノブリス・オブリージュを猛烈に発動し、文化の懸け橋となった人です。
20世紀の著名な作家や文化人の名前をあげれば、たいがいヴィクトリア・オカンポが出てくる位、ラテンアメリカを世界に、世界をラテンアメリカに伝えた人で、母国語はスペイン語ですが、基本的に文章はフランス語で書く人で、フランス語、英語に精通していたので、翻訳もたくさん手掛けました。
 
重要なのは、この人自身は、ジャーナリストであって、アーティストや作家ではありません。彼女の1番ボリュームのある作品は、死後発刊された、6巻ものの自叙伝です。この人自体は純粋に文芸の擁護者なんですよ、雑誌の編集者、慈善活動家、女性解放運動家ーただ、やる事のスケールがデカい。会いたい人にはどこに住んでいようと会いに行くし、家に呼ぶ。電車で2時間とか、そういう時代の話ではないですよ。民間人がそうそう飛行機に乗れない時代の話、彼女はアルゼンチンで初の女性で運転免許を取った人でもあって、海外への移動もいち早く飛行機に乗り換えます。ブエノスアイレスからフランスへ、イギリスへ、インドへ、走り回って、自分の家で才能と才能を引き合わせて、すさまじい化学反応を起こさせました。
 
誰もが、オカンポのように自由な生活ができるわけではなく、特に文筆家はお金も、発表の場もないわけです。そこでオカンポは、文芸誌、スールを発行して、スールを発表の場として提供し、資金も与えて、次々に本来ならば、水も肥料もないまま枯れていったであろう才能を持った人たちを開花させていった。スールの執筆者の中には、ラテンアメリカ初の女性ノーベル文学賞作家、ガブリエラ・ミストラルもいました。
 
身長172cmの大柄な女性で、性格が激しく、相当の癇癪もちだったと言われます。その言動を見ていると、女性解放運動にしろ、戦争反対にしろ、カミツキガメのように突っ込んできて、冷静沈着なことを言っている感じですね。晩年は咽頭がんを発症し、約15年の闘病にて88歳で亡くなりました。
 
-ブエノスアイレスに行く機会があったら足を運んでほしい、ヴィクトリア由来の記念館-
 
🏠ヴィラ・オカンポ:ヴィクトリアが1940年から1978年に亡くなるまで38年間住んだ、親から受け継いだ別荘の一つ:1973年、ヴィラ・オカンポが差し押さえられそうになったので、まだ住んでいるヴィクトリアのために、妹たちが生前ユネスコに寄贈した。11,000平米の庭がある。東京ドーム1/4個分個人宅ですよ!
🏠カーサ・デ・ヴィクトリア・オカンポ:SUR出版社、現在オカンポ資料館
 
おめでたい話② SLM 米FIFI賞逃がすも、そんなの吹っ飛ぶおめでたい話!
アメリカ・フレグランス財団のインディ賞ファイナリストに選ばれたスーレマント。ノミネート作のオディジアーク・ニュメロシスは、惜しくも受賞は逃したものの、そんな些細な事はどこかに吹っ飛ぶおめでたい話が飛び込んできました!
昨年、コロナで急逝した伝説のファッションデザイナー、故アルベール・エルバスが、逝去の直前に立ち上げた新ブランド、AZファクトリー初の大規模なポップアップストアに、香水ブランドとしては唯一、SLMが登場する事が決定しました。
このポップアップストアは、AZファクトリーの製品以外に、6つのインディブランドが参加するとの事で、香水はSLMだけ。21世紀にランバンを蘇らせた天才デザイナー、アルベール・エルバスの審美眼に叶うと認められたと同義で、非常に名誉ある事なのだそうです。どの位おめでたいかと言うと、何年も続けてきたスーレマントのインスタグラムが、このポップアップ参加を機に全消去、ニューチャプターとして仕切り直したくらいで、6/17現在のインスタグラム投稿数はたったの2件。過去が更地になる位、おめでたい話です。
 
まさに明日、6/21から7/8までの3週間、マレ地区の中心部で開催。最終週はオーナーのオリビア・ブランズブールさんも参加決定です。7月上旬、運よくパリに行ける方はぜひ足を運んでくださいね!

 

閑話休題、東京在住のAMさんより、オディジアーク・ニュメロシスについて、お便りを頂戴しました。
 
「サンプルだと焦しキャラメルのような香りがしてなんだか美味しそうな感じがしましたが、フルボトルでは、見目麗しい高僧(30代、頭が良くて異例の大抜擢で、ひと目見たら忘れられないイケメン)から漂ってくる香りに感じられました。
 
高貴でありながら、本人に自覚なくても、そこはかとなく漂う艶めく色香で大勢の人をメロメロにしてそうな高僧…と妄想してしまいました…(笑)『高僧』ですが、自然と、東洋系の高僧を想像していました。
 
わかりやすく想像できたのが、江戸時代(元禄時代辺り?今からざっくり300年ちょっと前)の高野山(真言宗、金剛峯寺、空海が開山)とか比叡山(天台宗、延暦寺、最澄が開山)にいそうな…塗香とか体臭が合わさって、唯一無二の、その人の香り、つまりオディジアーク・ニュメロシスになっている感じです。
 
法衣?着物?にも罪な香りが移っていて、お世話係の僧が悶絶しています。
 
ダダ漏れる、①艶めく色香、②無意識に流し目する、③清らかで慈愛に満ちた微笑みもできる、④恍惚な香りがする…で、無自覚、激ヤバ高僧です…天然は恐ろしいです。
 
天然破戒僧かよ!!高野山も比叡山も当然出家で剃髪ですから、つるっぱげで流し目!アイムトゥーセクシーですね!!ちなみにこの時代は女人禁制です。150年前、明治五年に寺院の女人解禁が行われるまで、寺院はずっとマンズ・マンズ・マンズワールドでした。
 
当時の高野山・比叡山に一般公開する儀式?法会?があったのかわかりませんが、遠目でもわかる眉目秀麗さに色々な噂が立ち、“得も言われぬ芳しい香りがする“と伝説になっていて、「こちらがその香りを忠実に再現したものです」と、スッと差出された香りがオディジアーク・ニュメロシスだった…と時空を超えた謎設定妄想で少々暴走しております!!
恋焦がれて精神不安定にさせた人、多数有りで、一時期この人を公のミサとか儀式に出すのはNGにされてます。きっと笑」
 
AMさん、日を置いて、もう一度感想を送ってくれました。どんだけ好きなんでしょうね。
 
「今日のオディジアーク・ニュメロシスは、いつもより樹木系の香りを感じまして、人を煩悩まみれにする色香ダダ漏れ高僧がお勤めする奥の院の香りを感じました。樹齢ン百年の神聖な大木を切り出して建設された奥の院。そこでお勤めする高僧。所作の一つ一つが無駄なく洗練されていて、歩く足音も雅に聞こえる…
密かに『あの方に踏まれる床板(廊下の)になりたい』と思っているモブ僧侶もいるはずだ!と、仕事中に、ここまで妄想できました。」
 
AMさん、お仕事中に妄想特急!勤務中にここまで語らせるオディジアーク・ニュメロシス、恐ろしい香りです…
 
 
おめでたい話③ ピュアディスタンス20周年 
 
今配信している、フミクラさんで来日イベントを開催したのが、香水発売10周年、創業15周年の節目でした。2015年発売のホワイト、現在もベストセラー。日本でも一番人気です。20周年を祝して、ピュアディスタンスではテキスト版・写真版2種の20年史を刊行。テキスト版の方には「ピュアディスタンスの中の人」という章で、写真版では「ピュアディスタンスチーム2022」という8名のポートレートに、僭越ながら私が登場します。フミクラさんに蔵書として謹呈したので、練馬近辺にお寄りの際は、是非足をお運びいただければと思います。
おめでたい話をするには、おめでたい装束が必要。今回はハン1さんがトラタヌちゃんベレーを手作りしてくれた。Tシャツはハン1画・UTmeにオーダー
①遥かなるブエノスアイレスから地球半周してニッポンに。オメデターイ!②天然激ヤバ高僧の香り、第六阿片媚薬 ③たぶん8名揃わないとバランスが悪いからか、お慈悲でピュアディスタンスのチーム紹介に載せていただきました ④アンセラード。今回も勿論カンタン作
おめでたい話④ アンセラード新発売
 
今年5月19日に世界発売となった、アンセラード。冷たさと温かさのせめぎあいが特徴の、グリーンレザーですが、香調がルバーブ、ベチバー、サンダルウッド、シダーウッド、トンカビーン、と、このルバーブの匂いを嗅いだことがないと、この香りの面白さが半減してしまうかもしれません。ヨーロッパでは広く家庭で砂糖で煮てジャムやパイにする、非常になじみ深い野菜ですが、果物枠で親しまれています。見た目は、赤っぽいフキみたい、煮ると真っ赤になり、青みの強いシャープな酸味が特徴。この青みが、果物にはなく、確かに野菜っぽいんですよ。アンセラードの立ち上がりのグリーンは、ベチバーとこのルバーブです。

さてアンセラードは、星にまつわる香りを作ってきたマルク=アントワーヌ・バロワの3作目で、アンセラードの名前がこの香りに与えられる迄の、もとになった3つの由来が、とても面白くて、でも香水ブログ記事としてそれを全部書いてしまうと、香りの紹介にならないので、書ききれなかった話をしたい、と思ったのが、今回Meet LPTVをやるきっかけでした。その3つとは―
 
❶土星の第二衛星エンケラドゥス:氷に覆われている冷たい星ですが、中には溶岩がタプタプしていて、割れ目から水蒸気を度々吐いている激しい星です。この水蒸気に塩分があって、氷の下は海ではないか、いずれ生命体が生まれるんじゃないか、ジャングルしげるんじゃないかと言われていますが、冷たい表面の中は激アツという、先ほどのヴィクトリアもびっくりの激しさで、そのイメージを香りにしたわけです。
 
❷エンケラドゥスを見つけたドイツ人天文学者、ウイリアム・ハーシェル:ウィリアム・ハーシェルと言う人は、もともとドイツ人。本名フリードリヒ・ヴィルヘルム・ハーシェル。ドイツって感じですよね。もともとお父さん、お兄さんが、近衛楽団でオーボエ吹いていて、自分もオーボエ奏者として入団するんですが、ハーシェルが17歳の時、この楽団がイギリスに遠征した後、フランスと戦争になって、一旦ドイツに戻されるんですが、戦況が危うくなって、お父さんが兄弟をイギリスに避難させるんですよね。二度目にイギリスへ来た時19歳だったハーシェルは、イギリスに移住を決意、スイスイ英語も覚えて、名前もフレデリック・ウイリアムと英語読みに改名し、自分から積極的にイギリスに馴染んでいきます。演奏の他に教会音楽とか作曲して、30半ばまでしっかり音楽活動をしました。
 
特筆すべきはこのハーシェル一家、音楽一家なんですけど、物凄く兄弟仲が良くて、ハーシェルとそのお兄さんを頼って、他の兄弟が次々イギリスにやってきて、ハーシェルは10人兄弟だったんですが、合計5人でガンガン音楽活動を始めるんですよ。もうジャクソン5状態。ハーシェルは交響楽団の指揮者になるし、父親の死後ハーシェルを頼ってやってきた妹のキャロラインはソプラノ歌手として、みんないちいち大成功しました。出来過ぎですね。
 
ハーシェルは、ちょうど妹が居候し始めた1772年ごろから天体に興味が出て、地元の鏡職人から教わって、妹や弟と一緒に反射望遠鏡を自作するんですよ。それで、当然作るだけじゃなくて、星を観察し始めるんですけど、土星の環っかが見えたんで、ここで天文雑誌を創刊しちゃうんです。自分の発見を世に知らしめたかったんですね。天文学者としてどんどん頭角を現し、妹はハーシェルの片腕として、一緒に天体研究に没頭していきます。そして1781年に発見したのが天王星で、一気に時代の寵児となります。あと、赤外線を発見したのも、それまで植物だと思われていたサンゴが動物だと見つけたのもハーシェルです。自作天体望遠鏡も商業ベースにのり大ヒット、経済的にも非常に潤いました。
 
アンセラードの元になったエンケラドゥスは、フランス革命がおこった1789年に発見するんですが、その前年、ハーシェルは50歳で地元の未亡人と結婚するんですよ。そこで大変だったのが、妹のキャロラインで、この人、お兄さんにべったりで生きてきたので、それはもう「お兄さんを取られた!」とばかり荒れ狂って、家を飛び出し、奥さんの事を散々悪く言って、大暴れだったそうですが、天文の手伝いは続ける上、自分もどんどん新しい星を見つけて、イギリス王室初の女性お抱え天文学者に任命されるまで上り詰めました。
いっぽうハーシェルは、結婚後52歳の時に子供が生まれて、いやあこの時代としてはスーパー恥かきっ子ですが、この一粒種のジョン・ハーシェルも親の影響で天文学者になりました。エンケラドゥスと言う名前は、父が発見した時には名前がなくて、ハーシェルの没後、この息子さんがつけたものです。
で、話はそこで終わらなくて、ハーシェルは1822年、83歳で亡くなり、父の天文台は息子のジョンが受継ぎ、引き続き新星を発見していくんですが、その頃には映像を残すという技術ががいくつか出てきて、それを現わす概念である「写真(フォトグラフィー)、ネガ、ポジ」という新語を作ったのがジョン・ハーシェルです。ちなみにジョン・ハーシェルは結婚も早くて子供も沢山いたんですが、そのうちの一人が後の指紋認証の権威になりました。
お兄さんが結婚して、ブチ切れて出ていった妹さんの方は、ハーシェルが亡くなった後も、なんと97歳まで現役で星の研究をつづけ、星雲の組織化に取り込み、1848年、遂に自分も星になりました。
 
なんか、ハーシェルとその家族、最後まで勢いが衰えず、100年かけて流れ落ちた燃える流星群のような勢いを感じるモーレツ人生で、結構この激しさと、こつこつ、淡々と積み上げる研究の世界という静けさも、アンセラードにかぶるものがあるなと思いました。
 
❸ギリシャ神話のエンケラドゥス:アンセラードのプレス情報では、結構ギリシャ神話の方をフィーチャーしていて、ブログにも一番細かく書いたのが巨人のエンケラドゥスですが、とにかく激しいのが、ギガントマキアという、巨人とギリシャの神々とが、宇宙の支配権をめぐって大戦争を起こすんですけど、宇宙って神様のものでも巨人のものでもない気がするんですが、それはおいといて「神様は、巨人に直接触れては倒せない」という謎ルールがあって、要は神様が刀を振るったり、矢を放っても、巨人は死ななくて、何か間接的なものを介さないとダメなんですね。それで、エンケラドゥスの相手になった、芸術と戦いの女神、アテナがどうしたかと言うと、その辺の島、シチリア島を拾い上げて、エンケラドゥスに投げつけるんですね。あれえ?シチリア島って、浮き島なのかな?まあ、神様だから何でもありなんでしょうけど、さすがにシチリア島よりは小さかった巨人、エンケラドゥスは、あえなくシチリア島の下敷きになって、島ごと海に沈んでしまうんですよ。でも、絶命はしていなくて、余りの憤怒に、シチリア島の山から火砕流を吐きまくり、それが現在世界最大の活火山と言われるエトナ火山になったんですよ。エンケラドゥス、死んでない。それを知ったアテーナー、相当ビビったでしょうね。しかも、シチリア島は噴火で大被害。住民も迷惑千万で、もう女神というより疫病神ですよね。アンセラードのヴィジュアルにも、エトナ火山を彷彿とする溶岩があしらわれていますので、写真を見たら「エンケラドゥス、死んでない」と思い出してください。
 
キャンドル・ニュメロトレーズ
昨年オープンした香水専門ブティック、ギャルリーヴェロドダ13番地にちなんで13番と名付けられました。ハニー、レジン、サンダルウッド、ガイアックウッド、フランキンセンスで、子供の頃の聖なる香りをモチーフにした香りです。こちらもカンタン・ビシュ作。プラムとレザーの効いたニュメロシスより爽やかに感じます。
 
おめでたい話⑤ ビエナーメ1935日本発送開始

 

衝撃の超ヘビー級キャップ。内側は、ロゴと同じ色の樹脂がはめ込んである
大型復刻系ブランド、ビエナーメ1935が、この5月から日本を含む世界発送を開始しました。拝みに拝み倒して日本発送対応前に商品を送っていただいたのですが、とにかくパッケージの造作が凄い。このキャップ、プラに金メッキじゃないんですよ。金属を切り出しています。キャップの重さ、71g。卵L玉が60g位なので、持った時の重さが想像できますね?レトロ感が好きだからと言って、ここまでやるのは変態です。
香水名のフォントが可愛いので、フォント検索アプリで調べたら、フォントの名前が
 
「ビエナーメ」
 
そこまでやるかと思いました。セシリア・メルギさん、単なるビジネストレンドでビエナーメを復刻させたのではない、物凄い思い入れを感じます。おばあちゃんのバスルーム、洗面台をイメージして作ったと言っていたけれど、ヨーロッパのご家庭のお風呂って、新しいおうちは知らないですけど、昔のうちって風呂場はバスタブがどーんと置いてあって、洗い場ってなくて、床が絨毯式だったりするくらいで、シャワーカーテンを引いて、バスタブ内で髪や身体を洗って、タオルで拭いて、同じ場所に洗面台があるんですけど、そこにはずらーっと、家族の化粧品や香水が並んでいて、風呂上りにボディクリームを塗ったり、オーデコロンをつけたり、タルカムパウダーをはたいたり、ご婦人の場合、その後お出かけなら、そこでお化粧もするんですよ。寝室にドレッサーがあるおうちも勿論ありますけど、メインはバスルームで、まあ動線的にワンストップで無駄がないですよね。そこに、石鹸からクリーム、パウダー、化粧品…というライン使いで生まれる、何とも言えないふんわりした空気を、オーナーのセシリア・メルギさんは、21世紀と言うデストピアに蘇らせたかったんだと思います。
おばあちゃんの化粧台、って、日本だと香水臭い、嫌な臭いの代名詞みたいに言われてきましたけど、そのおばあちゃんの化粧台と言うものすら、記憶にない世代になってきて、どういう臭いの事か若い人はわからないかもしれないですが、本当にいい匂いなので、知りたい方は、ビエナーメの香りを試してみてください。

 

今月の粉物千本ノック Powderist of the month unlimited

オゼ・モワ EDP 100ml
Osez Moi ! (2009) / Chantal Thomass
シャンタル・トマスは、1975年創業のフランスのランジェリーブランドで、大手メーカーに買収されながら現存しています。デザイナーのシャンタル・トーマス自体は2018年で引退していたところ、なんと今年の2022年秋冬コレクションから復活、今月の粉物でもおめでたい話になりました。機能的と言うよりは、夢のあるランジェリーと言う感じで、パウダリーピンクにこげ茶の組合せや、黒一色のセクシー路線が多いのが特徴です。銀座三越とか日本橋高島屋など、都内に直営店がありますね。
 
ランジェリーと言えばブドワール、ブドワールと言えば粉物です。下着メーカーが作る香りは、ランジェリーと言う「1枚外したらすぐマッパ」というストレートなエロティシズムに直結しているから、あまり冒険しないというかブレがない気がします。ある意味王道の香水らしい香水を出してくる、いい意味でタイムレスだし、敢えて斬新さを狙わってきませんね。
このオゼ・モワは2009年発売、調香はアレクサンドル・スラン(シムライズ)です。
シャンタル・トーマスのフレグランスは、フランスの大衆香水ブランドを幾つか持っているパルファム・ベルドゥがライセンス製造していまして、ベルドゥ自体は今年創業120周年の老舗です。少し前まで、デッドストックが破格値でどんぶらこっこ流れていましたが、気づいたらどこも完売で、もし売っていたら非常にコストパフォーマンスの高い出来栄えなので、1本持っていて損はないです。アフォーダブル系とは思えないくらい、序破急の所作が丁寧で、立ち上がりの粉粉感から、最後はしっとりクリーミィに馴染みます。100年前にも、50年後にも居そうなタイムレス感が◎。
そういう意味では、ランジェリーブランドのライセンス品は、アジャン・プロヴォカトゥールとか、実勢価格のディープディスカウントが大きい一方で、割と出来のいいものが多いので、ギャンブルだと思ってブラインドバイしても楽しいと思います。
 
Trimerous (2019) / Jorum Studio

トリメルース EDP 30ml
 
ジョーラム・ステューディオは、スコットランドはエジンバラの独立系ブランドで、オーナー調香師であるユアン・マッコールが自前のラボで作る宅香ブランドです。
2010年からJorum LaboratoriesというOEM会社としてスタート、ジョーラム・ステューディオという名前は聞いたことがなくても、ネアンデルタールとか、センヨウコウなど、香水サイトなどで名前だけは知っているというブランドを幾つかOEMしています。2
019年に自社ブランドJorum Studioをスタート、ここ1年で一気に自社ECサイトが整備され、世界配送対応になったのと併せて、急激に取扱店が増えて、イギリスだけでなく世界の香水店が取り扱うようになった。フルボトル1本から送料無料で送ってくれます。香水の発送に厳しいイギリスのブランドとしては、送料無料ラインが非常に低く、企業努力の跡がうかがえます。コロナ前に、日本にサンプルを送ってくれるか一度問合せをした事があったんですけど、その時は「サンプル代より送料の方がうんと高くなってしまうので、申し訳ないけどおすすめできない、いつかもっと自分たちが大きくなったら、是非試してください」という、何ともケルト魂を感じる誠実なお断りメールをいただいて、大きく成れ、大きく成れ、って念を込めてたんですよ。大きくなりました!
ラインナップもボタニカルシリーズやスコットランドをテーマにした作品など、全15種類に成長し、価格帯も30mlで1万円から15,000円、かつ日本向け送料無料と、敢えてサイズ感を落とし、手に取りやすくしているところが良心的ですが、スコットランドの荒野みたいのに魅力を感じない方には、ちょっとピンと来ないかもしれません。イングランドとは、やっぱり別世界というか、香りのテーマが土地の泥とか、ウイスキーのピートとか、ハイランダーで、違うんですよね、むこうもイングランドと一緒にするなって絶対思ってると思いますけど。一緒にするなと言えば、イギリスの通貨はブリティッシュポンドですよね?じゃスコットランドは?2022年現在も、スコットランドポンドなんですよ。しかも街中の銀行が3行、独自に発行している上、ブリティッシュポンドも流通しているから、実質通貨が4種類流通してるんですよね。しかもスコットランドポンドは、スコットランド国内では紙屑同然ですので、今後スコットランドにご旅行等で行かれる際は、持ち帰らないよう要注意です。あと、スコットランドでブリティッシュポンドを使うのは、何ら問題ないですし、スコットランドポンドもスコットランド以外のイギリス国内でも使用可能ですが、物凄く嫌がられます。
香りとしては、以前ブログでご紹介した、ジャック・ファット、イリスグリの復刻版、リリスドファット、先ほどご紹介したビエナーメ1935のヴェルメイユを手掛けた、パトリス・ルヴィヤールが調香してますが、そのリリスドファット系、以上。というか、あまりまろやかでない堅めのピーチアイリスで、フランスやイタリアのようなラテン系カトリックの国と、ケルト系カトリックの国では、粉物もアプローチが違うというか、一言で言って、色気があまりない。時間がたって、肌に残るのも、なんだか、ムラムラしない。その辺が、標高も高いし、空気も冷たい、草ぼうぼうで石ころごろのハイランダーなのかなって気がします。
 

No Longer in Japan

 
ルガリオン 日本撤退:
2017年6月日本上陸~2021年末で撤退。2020年は、ルガリオン創業90周年記念コレクションが発売されたが、日本では出なかったです。日本で出たのは、90周年コレクションの前の、レーム・ペルデューが最後でした。この90周年記念コレクションが発売するタイミングで、ルガリオンは大幅な値上げを行ったので、継続は困難となったのかもしれません。奇しくも、上陸から撤退まで、LPTは見つめ続けた形になりました。

90周年コレクションでは、過去のアーカイブの復刻に合わせ、新作も連ねている
9作中2作、前半に登場したカンタン・ビシュが手がけています。

左からシャンドメ、リリーオブザヴァレー、ティユール EDP 100ml
Champs de Mai(1930/2020) プリンス・ミュラ作、カンタン・ビシュ再調香
ポール・ヴァシェがルガリオンを受継ぐ前のオーナーが残した処方、という触れ込みですが、香りは全きカンタン節。キーンとこめかみに来る、堅めのフルーティフローラルで、5月の草原というよりは、むしろグアバとかハイビスカスティーとか、パッションフルーツのようなトロピカルな爽やかさを感じます。このシャンドメを、もっとハイビスカスに寄せて、複雑に構成すると、シャンドメの翌年に出た、同じカンタン作で、メゾン・クリヴェリのハイビスカス・マハジャドになる気がします。
 
Tilleul(2020) カンタン・ビシュ調香
セイヨウボダイジュ、リンデンの意味。英語ではライムツリー、フランス語ではティヨールというのを今回初めて知りました。東京だと、銀座の並木通りに植わっている街路樹が、このリンデンです。パリの街路樹をイメージした香り、リンデンは大きな木になるので、街路樹として多く植えられています。確かに単純な花の香りというよりは、青葉が一斉に芽吹いた初夏の並木道から漂ってくる、初夏だな~的な、マットな青い匂いがします。そこにハチミツとムスクを合わせた、主役はあくまでリンデンです。東京でもこういう匂いします。この、一斉に芽吹いた街路樹の匂いが好きか苦手かで、明暗が分かれる香りでもありますね。
 
Lily of the Valley(1948ポール・ヴァシェ作復刻/100%合成香料)
戦後ルガリオン作品の復刻だが、原作との大きな違いは、100%合成香料で処方した事。もともとスズランはそれ自体香料は取れないし、昔から調合香料でスズラン的なものを作ってきたから、今更全部合成香料です、ババーン!という程でもないのだが、合成皮革が今やエコレザー、ヴィーガンレザーと呼ぶように、もはや100%合成、だから何?的な市民権は獲得できる感じの、人工物を意識せず「スズランだなあ」と楽しめる作品になっています。

 

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 -今回Meet LPTVでご紹介した香りをお試しいただけます-

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