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Madame Rochas (1960) / Calèche (1961) / Monsieur Rochas (1969) revised reviews

Dedication Festival for Master Perfumer Guy Robert 2 : 1960's

ギィ・ロベール師が手がけ、1960年代に発売された3つの作品をご紹介します。

Madame Rochas / Rochas 1960

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戦後ロシャスの、そしてロベール師としてもまごうことなき代表作、マダム・ロシャスです。品格の高いウッディなフローラル・アルデヒドで、欧米はもちろん日本でも大ヒットしました。1989年にジャック・フレッス(ラルチザンのオード・カポラルなど)とジャン=ルイ・シューザック(オピウム、ファーレンハイトなど調香)が大々的な処方変更を行っていますが、今ムエットでお試しいただいているのは、1960年発売当時のヴィンテージです。結構フルーティに感じませんか?ハニーサックルのフルーティな甘さが効いていますよね。オリジナル版は1989年のリニューアル版よりフルーティかつフレッシュで、対象年齢が若干若い感じがします。

 f:id:Tanu_LPT:20180828103445j:plainというのも当時のロシャスのオーナーであるエレーヌ・ロシャス、つまりマダム・ロシャスは、当時まだ33歳。彼女は17歳で結婚した旦那のマルセル・ロシャスに1955年、ぽっくり先立たれてしまうんですが、そのエレーヌさんが、ブランドの起死回生を図って、自分の化身として「マダム・ロシャス」という名前を付けて勝負をかけたんですが、起死回生を狙う女性が、腰を落ち着けた香りなんか出さないですよね?とにかく上品で、明るく溌剌としていて、女性らしさもふんだんに香る。そのさじ加減に絶妙な「若さ」という躍動感を加えたのが、ロベール師の解釈ではないかと思います。このマダム・ロシャスのヒット以降、ロシャスは1970年代においてゲランが「最大のライバル」と警戒するほど香水部門で成功をおさめます。

 f:id:Tanu_LPT:20180828103650j:plainマダムロシャスはとにかく世界中で売れたので、日本でも高度成長期からバブル期に至るまで、海外旅行土産でもらう人が多かったのか、箪笥で死蔵していたと思しき未使用品が、現在国内の中古市場で物凄くだぶついていますので、非常に状態の良いヴィンテージが格安で入手可能ですし、リニューアル版も、発売当初はパルファムがあり、香り立ち・持ち・バランスどれをとっても素晴らしいので、マダム・ロシャスを気に入った方は、現行品ではなく、是非オークション等で新品未使用品のヴィンテージを入手してください。 

この香りが、後程ご紹介するアムアージュのゴールドの原点だと知る上でも、マダム・ロシャスは通過できない重要作品です。

 

Calèche / Hermès 1961

次も世界三大名香のひとつとして名高い、エルメスのカレーシュです。エルメスではドブリに続き2作目になりますが、エルメスが一般市場向けに発売した初めての香水が、このカレーシュです。

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マダム・ロシャスの翌年、1961年に発売されましたが、この時代、品格があって、かつ親しみ易い香調といったら、どうしてもフローラル・アルデヒド系になったのでしょうか、カレーシュもマダム・ロシャスと同じく直球フローラル・アルデヒド系で、前年発売されて爆発的ヒットを始めた香りとこんなに香りがかぶって大丈夫だったのかと心配になりますが、それは売り方だったのかな、とも思いますし、事実カレーシュも大ヒットして、発売後50余年、一度も廃番にはなっていません。日本のエルメスブティックでも、オードトワレは勿論、パルファムは詰め替え用まで普通に買えます。むしろ親会社が転々とした結果、処方もやせ、値崩れもしてディスカウンターの常連になってしまった現行マダム・ロシャスの零落振りを見ると、販路は大事だな、と痛感します。どちらも中心はフローラルブーケですが、カレーシュはマダム・ロシャスよりオークモスとサンダルウッドましましのウッディシプレ寄りで、フルーティな酸味より甘みが強いですね。美しい女性が世界に勝負をかけるマダム・ロシャスと比べ、カレーシュは何か、大きな後ろ盾に守られた安心感が大前提にある様な奥ゆかしさの方が前面に感じます。どちらも微笑む女性の姿なんですが、マダム・ロシャスが頬に光を受けて笑っているとしたら、カレーシュは若干顎を下げて睫毛のひさしを頬に落して微笑んでいます。その位の差で、基本的骨格は同じです。

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カレーシュも世界的に大ヒットしたので、マダム・ロシャスほどではありませんが、コンディションの良い新古品が市場に溢れているのと、この系統の香りははっきり言って現在の日本の香水市場にはもはや求められていないので、あまり労せずにタイムマシンが手に入ります。

 

Monsieur Rochas / Rochas 1969

3番目は、再びロシャスから、今度はロベール師としては最初で最後のメンズ作品です。

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ロシャスは先にムスタッシュ(1948)を初のメンズとして発売していますが、ムスタッシュはマルセル・ロシャス在世時の作品で、ムスタッシュ時点でののメガヒットはファムで、エドモン・ルドニツカが作ったので、初のメンズはそりゃヒットメーカーに作らますよね?ですが、時は1969年、その時代のメガヒットは既にマダム・ロシャスが記録を塗り替えています。ロベール師にお願いしたのも自然な流れだったのかもしれません。オーデコロンと濃度の高いコンセントレが発売されましたが、現在は廃番です。こちらは昨年1月、ジェントルマンコーナーでご紹介しています。なにぶんヴィンテージ品なので、香りが弱含みにはなっていますのでつかみづらいと思いますが、基本はアロマティックフジェールで、ラベンダーとオークモスでこんもりアウトラインを築き、ガルバナムやカモミール、カルダモンなどスパイシーな寛ぎのアクセントで「ジ・オッサン」って感じのアロマティック・ウッディシプレですね。品よく、かつ男らしくまとまっていますが、ポラロイドには「口先ばかりで頼りにならない、こんなの御免こうむりたいビジネスパートナー」が映りました。

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