ウードブームが到来するだいぶ前から国策として湾岸諸国だけでなく最初から欧米のマーケットを完全なる射程距離にすえたオマーンのメーカー、アムアージュ。1982年の創立当初は香油を中心に、著名な欧米の調香師に製作を依頼し、少しずつラインナップを増やしていましたが、ここ数年は年に何回も新作を出すようになった上により香調のトレンド化が進み、一方で評価の高かった香油を大多数廃番にするなど、没個性化が加速しているように見受けられますが、幾つ新作を出そうと忘れてはならない二つの香り、ゴールドとジュビレィション25をご紹介します。
Gold Ladies (1983)
中東の産油国、オマーンが誇る「世界でもっとも価値ある香り」 アムアージュの初出にして今なお代表作の玉座を譲らない、ゴールド・ウーマンです。
アムアージュの香りは香料の予算に際限がなく、調香師が心ゆく まで最高の材料を持って作る事が出来るので有名ですが、中でも ゴールドは調香した名匠ギィ・ロベール自ら「ゴールドは最高の誉れ」 と語るほど、オマーン特産のシルバーフランキンセンスをはじめ、高価なオリス、ジャスミン、サンダルウッドなどをふんだんに使用した、輝きに満ちた力強いフローラルです。アムアージュ創立者の親族が マダム・ロシャスの大ファンで、ブランド初の香水は是非彼に、と マダム・ロシャス(1960)、カレーシュ(1961)、ディオレッセンス(1979) の作者であるロベールが起用されたそうで、なるほど、たとえて言うなら 「オリジナル版マダム・ロシャスのプレミアム・ヴァージョン」。
今、クラシック香水が処方変更で現行品の物足りなさを嘆く方に 是非ともお試しいただきたい、往年のフランス香水が忘れた「夢」がここにはあります。まずはオードパルファムをお試し下さい。 パルファムは若干の渋みとアニマリックなベースが付加され、 発売当時のラインナップだった宮殿型ボトルのEDT(現在は廃番)はパルファムの雰囲気が穏やかになった感じで、香りもち・香りの深さはいずれも通常のパルファムをはるかに上回ります。
発売当初はこのようなこってりアラビアンなボトルでした。足に落としたら確実に怪我をします
Jubilation25 (2007)
オマーンの至宝、アムアージュ創業25周年を記念して作られた香り。メンズもあり、レディスのJubilation25に対し、メンズはJubilationXXVとつづります。調香は2004年に国際的ファッション協会であるFGIの新人賞にあたるライジングスター賞を受賞し、ジバンシーやアザロの香りを多く手がけるルーカス・シューザックで、シューザックは同年発売のリフレクション(メンズ)も手がけています。
現代的でも懐古調でもない、「タイムレスなクラシック」と位置づけるにふさわしい、緻密なフルーティ・シプレです。ゴールドやダイアと同じく、特産のシルバーフランキンセンスを惜しみなく使い、タラゴンなどのハーブやローズ、レモンのさわやかなトップから、ラブダナム、アンバー、ミルラ、パチュリなどエキゾチックなベースが渾然一体に香ります。ゲランのパリュールやリニューアル後のファムにも通じる、洗練された 大人の女性にしかまとえない、経験値を問われる香りではありますが、完成度は双方の比ではありません。一方でどこか母性に通じる、ほっとする優しさも感じられます。