La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

無断転載禁止

Nina (1987) original version

Nina (1987) original version

1946年にクール・ジョワでスタートし、1948年には早くもレール・デュタンが歴史的名香として世界的なヒットとなったパルファム・ニナ・リッチですが、これまでに発売された香りはそれほど多岐にわたらず、1998年にアパレル系香水ブランドを数多く抱えるプッチ・プレステージ・ビューティ・ブランドに買収され、若年層向けの香りを毎年乱発するようになるまでは、せいぜい数年に一度新作を発表する程度でしたが、その一つ一つが今もなお、ラリックボトルの美しさも手伝って忘れがたい名香として近代香水史に名を刻んでいます。

1987年に発売されたオリジナル版ニナは、前作・フルールドフルールよりあくこと7年、社をあげて発売されましたが、ニナ発売の翌年、創始者ロベール・リッチが83歳で逝去したため、ロベールが関わった最後の香水となりました。ニナまでは香りは違えど一貫したイメージ展開をしていたニナ・リッチは、次作ディシ・ディラより大々的な方向転換を行い、ターゲットを一気に若年層へとシフトします。ニナもプッチ買収後程なく廃番となり、その後2006年に発売されたニナは再発ではなく全くの別物です。ちょうど、ロシャスのルミエールが全くの別物になって戻ってきた(そして消えた)のと似ていますが、新生ニナはそこそこヒットしているのか、毎年別バージョンが発売されています。

1987年といえば、プワゾン、ココ、ジョルジオなど大柄系の権化のような強香が次々と輩出され、TPOのわからない人たちがただ流行に乗って昼夜を問わず香害をまき散らしていた時代で、清楚で一歩引いたソフトフォーカスな香調をよしとするニナ・リッチというブランドは、既にうっすらと時流に取り残されつつあったのですが、1987年の発売当時としても保守的な部類のニナは、目新しさは何もないのに、嗅げばニナだとすぐ判る、唯一無二の香りがします。ロベールの母であり偉大なクチュリエであるマダム・ニナ・リッチへのオマージュとして、彼の大団円を飾るにふさわしい、優しく柔らかい中にも、一本芯の通った知的で淡麗なグリーン・フローラル・アルデヒドです。すりガラスのドレープが香りの心象そのもののボトルはマリクレール・ラリック(ロベールの親友でマルク・ラリックの娘、ルネ・ラリックの孫娘)、調香はクリスチャン・ヴァキアーノが手掛けています。手折った青葉や柑橘の苦みばしった爽快感がアルデヒドのリフトにのり、やがて甘くまろやかなフローラル・ブーケとなって、身ぎれいに展開します。背筋が伸びる昼間の格調高い香りですが、一方的な強さはなく、ラストノートに至っても湯上りのような寛ぎを感じますので、つけ飽きることがありません。香り持ちも割合良い方で、脱いだ服を抱きしめて深呼吸したくなるほど心地よい残り香に次の日もまた手が伸びます。

かえすがえすも、このオリジナルのニナが廃盤となったのは残念で仕方なく、一方で玩具のような若年向けの香りが同じ名の冠を被り、毎年のように自身のパロディが発売されているのは遺憾に思います。

 

ニナ(オリジナル版)オードトワレ(国内流通品)、パルファム15mlラリック瓶

contact to LPT